「指先」 


震えているのはどっちだったんだろう?
繋いでいたからもうどっちだって同じ。
声なんて二人とも声になってなかった。
多分お互いの名を呼んでいたんだと思う。
耳にははっきり届いていなくても聞こえてた。だからいい。
切なさを知ったつもりになってたんだとわかると
涙があとからあとから零れて落ちた、とめどなく。
ああ、泣いてたのは私だったんだ。 でも泣いてたよね?
なかないでと手を伸ばしたのをわかってくれただろうか。
泣いてると思った。どうしてだろう、泣いてはいなかったのに。

だってそんな風だった。辛いのはオマエだろうって言ってた。
そんなことなかった。だから首を振ったでしょう?強く。
骨が軋む音を聞いた。千切れるように痛かった。それでも
少しも辛くなんかなかった。わかって欲しくて震えてしまった。


目が覚めたとき、見えた指の先は もう震えてはいなかった。
まだ繋がれていたから、嬉しかった。ずっと離さないでくれた。
絡まった指先を眺めていると、その向こうに長い睫毛が映った。
穏やかに閉じられた目蓋、静かな息、吸い込まれるように見た。
そこにはもう辛さはなくて、ただ安らかで、たまらなく嬉しかった。
また涙が出た。幸せでどうしようかと思った。胸が潰れそうだ。
見たかったのはこんな顔だったんだ。そう思うと愛しさで眩暈がした。
繋いだ指が温かくなった。起こさないようにと動かずにじっとして、
そっと目蓋を閉じた。幸福に満たされていくのを感じるとまた泣けた。


ぼんやりと再び目を開けたとき、辺りはすっかり明るかった。
指先に視線を戻してみた。まだちゃんと繋がれていてほっとする。
すると視線に気付いた。もう起きていたんだと少し驚く。
まっすぐに見ている眼に捕まったみたいでなんだか恥ずかしかった。

「・・おはよお・・」
「・・まだ寝てていいぞ。」
「でも、もう朝でしょ。」
「起きたいか?腹減ったか?」
「ううん、なっつんもまだ寝てる?」
「ああ、別に急いで起きなくてもいい。」
「じゃあね・・・もうちょっと寝てようか!」
「すっかり目は覚めたみたいだけどな。」
「うん、でもあと少し。」

身体を摺り寄せると、手が解けそうになって慌てた。
それに気付いてくれたのか、きゅっと握り直してくれて
いつの間にか目の前はなっつんでいっぱいになった。
目を閉じるとあったかな唇。じわりと広がるような温かさ。
すぐに離れてしまって寂しかったから、繋いだ手を手繰り寄せた。
少し目を見開いて、驚いたような顔をしたあと笑ってくれた。
綺麗だな、と見惚れた。こんな風に間近で見られるなんて幸せだ。
おねだりしなくてもその後長いキスをくれた。甘くて溶けそうな。
指先が痺れた。二人して握り合った。このまま離さないで欲しかった。

「あ!ヤダ、離さないで?!」
「ちょっと待ってろ。」
「どうして?」

答えはくれなかったけど、離れた指は私の身体に戻ってきた。
ゆうべの感覚がよみがえって、身体全体が熱くなった。
違ってるのは明るさ。恥ずかしくて余計に身体が火照る気がした。

「まっ・・なっつん!」

非難の声は届いたと思うのに、止まらない指先に動悸が激しくなった。
もう思うように声が出せない。きつく目を閉じると震えるのがわかった。
昨日震えていたのはやっぱり私だったんだ。だけど、だけど・・・
心なしか私を辿る指は昨日よりも迷いがないような気がして。
指だけでなく舌までもが後を追うように私を辿り始めると確信に変わった。
昨夜怖いと思っていたのは私だけじゃなかったんだね。絶対そう。
だってこんなじゃなかったもの。もっとゆっくりと確かめるようだった。
震えていたのは二人分に間違いなかった。けれど今震えてるのは私だけ。

「待って、なっつん・・」
「・・・手なら、もう少し待ってろ。」
「違うよ、ねぇ・・もう少しゆっくり・・」

私の願いをキスでさえぎると、苦しそうな声で「無理言うな。」
余裕の無い瞳を覗いてしまって、それ以上言えなくなってしまった。
確かに一度はたどったはずなのに、恥ずかしさが全然違う。余裕なんて無い。
もうなんにも考えられない


ようやく手を握ってくれたとき、涙も吐息と一緒に落ちた。
苦しい息が治まるまでが途方もなく長いと感じられた。

「・・いたいよぅ・・」
「昨夜よりもか?」
「だって・・」
「悪かった。その・・」
「ゆうべなっつん余裕なかったんでしょう?!」
「・・今もあるとは言えないな・・」
「ほのかだってそうなんだけど。」
「・・・・・悪い。」

ほんとうに悪いって顔をしていたから、可笑しくなった。
だから許してあげる。もう一度手を伸ばしてしっかり握ってもらう。

「なっつん、ごめんなさいのキスして?」

キスだけじゃなくて、きゅっと抱きしめてくれた。
だからお礼に私からもキスをした。なんでそんなに照れた顔するかな?

「・・ほのか、下手?おかしい?」
「いや・・じゃなくて。」
「じゃあどうして笑ったの?」
「・・・どうって・・その・・なんでもねぇよ。」

教えてくれない恥ずかしそうな顔。悔しい、すごく可愛いの。

「ほのかばっかりが好きになったら不公平だ。」

そう呟いたら、鼻を摘まれてしまった。苦しい。
見ると怒ったような顔が見えた。私が悪いの?
そんな怖い顔しないで、もっと笑って欲しいのに。
息が出来るようになると、なっつんが言った。

「少しはオレの気持ちがわかったか。」
「・・・なっつん、悔しいの?」
「フン」

握っている指が、少し震えたような気がした。
今のはどっちだろう、どっちもであってるかもしれない。

「あのね、昨日心配して辛そうだったから違うって首振ったの、わかった?」
「・・・そんなことするから余計・・辛いんだよ。」

ああ、そうなんだ。わかった。

「ごめんね、でも辛くなかったの。ほんとだよ。」
「オマエが辛くないなら、オレが辛いことなんかなんもない。」

ほら、やっぱり・・

ぎゅっと指先に力を込めた。気付いて握り返してくれた。
私が笑うとやっぱり笑ってくれた。そうか、そうなの。嬉しい、とても。
さっき笑ったのはきっとなっつんも同じようなこと思ってたんでしょう?
わかってしまったら照れくさかった。なんだろ、二人してなにもかもおんなじ。
でもさっきは私だけ震えてたみたいだったけど・・・どうしてかな。

「なっつん、さっきね?なんだかゆうべのなっつんと違ったの。なんで?」
「え・・?オマエだって。なんか・・その、違ったぞ。」
「そうかなぁ・・恥ずかしかったからかなぁ?」

私の呟きを耳にした途端、なっつんの顔がさあっと赤く染まった。鮮やかに。
あれれ、さっきのなっつんはやっぱり恥ずかしかったの?それをごまかそうとしてた?
なんだぁ、それなら寂しくない。よかった!安心したらまた嬉しさが戻ってきた。

「明るいときって恥ずかしいね?」
「・・・それって、誘ってんのか?」
「え!?」

今度はさすがに本気で嫌って言ったんだけど・・・
ちょっとむかっとしたから、泣いたって許してあげない。
今日一日ずーーーーっとよしよしって抱いていてもらおう。








お久しぶりです、コチラ(裏)では。なんでかな、ネタはあるんですけど。
どこまで書いていいものやらと、歯止めがかかりやすいのはやはりコチラです。
それにしてもですね、コチラのなっつんは素直というか、正直だな、と思う。(笑)