「お楽しみはこれから」
いつ頃までを「新婚」と呼ぶのかは知らない。
まぁ、今がそうだというのは間違いようがない。
しかし付き合いが長かったせいか、はたまた相棒のせいか・・
たまに結婚したという事実を失念しそうになる。
当たり前になりすぎただなんて、まるで倦怠期みたいだ。
全く倦怠とは程遠い生活をしながらもオレは首を傾げた。
「なっちー!オセロ・・じゃないや、今晩はDVD見ようぜい!」
「何借りたんだ?・・オマエこのシリーズスキだな・・」
「ふっふっふっ・・今日もほのかちゃんが犯人をズバリ当てて見せよう。」
「あのな、そういうのは・・普通ばらさないのがマナーじゃないのか?!」
「飲み物用意しといてね。ほのか準備してくるっ!」
「聞いてねぇな・・・奥さん。寝室で見るんだな!?」
「そうさー!頼んだよ〜っ!!」
「やれやれ・・」
色気の欠片もない中学生当時と変わらない笑顔で妻はオレに手を振った。
これはこれで望んだことだったが、新婚だとわからなくなる理由の一つだ。
「・・準備って着替えただけか?風呂はどうすんだ。」
「お風呂は後。早く見たいもん。入っちゃうと眠くなっちゃうし・・」
「寝ないで最後まで見たことあるみたいじゃねえか、その言い方。」
「そっそんなこと!・・たまに・・あったはずさ。ウン・・たしか。」
ちょっと気まずそうなのを誤魔化すと、ほのかはベッドに飛び込んだ。
「早く早く!」とオレを手招きする。心はすっかり映画に向いてるらしい。
オレが枕をクッション代わりに座るといつものように膝上に乗ってきた。
落ち着くらしい。何せ中学のときからここはほのかの場所と決められている。
ぺったりと背中と腹が引っ付いてないとダメらしい。なんだかなぁ・・・
実のところ、オレは別にこうするのが嫌いというわけではないのだが、
映画はそれなりに時間を食うので苦手だ。つい手持ち無沙汰でほのかをいじってしまう。
その度に「めっ!」とぴしゃんだ。許されるのは髪をいじるくらいだろうか。
映画に集中できないでしょ!?と怒る。けどつまらない内容の時もあるわけで。
オレの方が寝オチしても怒られる。ほのかの10回に一回くらいの割合にも関わらず。
「わかったじょ!アイツだ!アイツが犯人に間違いないのだよ!」
「はぁ!?それはないだろ。今回は違うって。アホじゃねぇの!?」
「そんなことないもん!見てればわかるよ。絶対どんでん返しがあるんだからね。」
「根拠なんかねぇくせに・・オマエの山勘には恐れ入るぜ。」
してやった顔のほのかの頬を引っ張ると餅のように膨れて面白い。
色気は無いが、可愛いところは変わらない。痛いと怒る顔が結構好きだ。(言うと怒る)
「たまにはホラー借りろよ。オマエ苦手なのか?」
「・・そっち系はダメだよ・・怖いもん・・」
「そうか?こんな映画の方が質悪いと思うがな。」
「だって血とか・・腕もげたりとか痛そうなのがダメだよ。」
「ふ〜ん・・オレがこうしててもか?」
「ほとんど目瞑っちゃうし、見れなくて損だから見ない。」
「なんだ・・じゃあ今度オレ一人で見るからオマエどっか行っとけよな。」
「ええっ!?そんなのズルイじょ!ダメダメ、一人で見るのは禁止!」
「なんでだよ。オレの部屋でならいいだろ。ここじゃなきゃ。」
「奥さんをほっぽってそんなの見るなんてヒドイじゃないか!?」
「オマエ結構昼間に一人でアニメとか見てるくせして。」
「夜は一緒だよ!ダメなんだからねっ!」
「・・・ひょっとして一人だと寝られないとか言わないよね、奥さん・・?」
「そんなことないよ!けど・・一人はやだ・・」
「へぇ〜?じゃあ一緒に見てくれるのか?ホラーでも。」
「ヒキョウもの・・妻の弱点を〜!」
「怖がりだな。ケンカしたら夜はオマエ置いて他の部屋行けばいいとわかったぞ。」
「!?なんでそんな・・・なっち意地悪だじょ・・!」
「オマエだってオレの見たいの見るなとか言うじゃねぇか。」
「うう・・わかったよ。ほのかも見る。一緒なら怖くないかもしんないし。」
「そうそう。オレにしがみついてていいぜ?奥様。」
「・・にくたらしい。なっちってばほのかをいじめるのすきなんじゃ・・?」
「まさか。気のせいだろ。」
「ほんとにぃ〜!?」
ほのかは映画の展開そっちのけでオレに疑いの眼差しを向けた。というか忘れてる。
どうせ今日のはハズレだと思ってたから上手くいったのだ。ラストまであと1時間ほどか・・
「ほんとだって。」と囁いて拗ねて見上げた目蓋にキスをすると反射でほのかは目を閉じた。
少し驚いていたが、文句が出る前に素早く口を塞いで枕の山に押し倒す。何せベッドだからな。
詰まらない映画をぼーっと見てる暇があったら、こうしてる方が数倍楽しいじゃないか。
抵抗してじたばたする妻を優しく宥める。ほのかがホラーに弱いことなんざとっくに知ってた。
それにこういうときどこから攻めると有効かなんてことも学習済みだ。まったく・・・
なんで慣れないのか不思議なくらいだ。演技するというこういう場合許される行為すら知らない。
いつまで経っても幼いまま。結婚してこういうことをするようになっても未だに後ろめたさを感じる。
泣くしなぁ・・今は痛いんじゃなくて・・イイ意味でだが。嬉しすぎてこっちまで泣ける。
「・・・っ・・・おい、オマエの勝ちだ。犯人当たったぞ。」
「・・・・・そ・・ほぉら・・ほのか・・すごい・・でしょ!?」
「っていうか脚本おかしいぜ。無茶な展開。」
「負け惜しみ・・言わない・・の。」
「ホラ、これ飲め。ちょっとぬるくなってるが。」
「・・飲ませて。起きられないよう・・;」
「申し訳ない。ちょっと急いだからな。」
「・・・おいし・・・なんで急いだの?」
「映画が思ったより短かったんだよな。」
「・・なっち見てたの!?ちゃんと?!」
「いや、見てねぇけど気付いたらネタばらししてた。」
「もうどうでもいいよ・・お風呂・・連れてってよね。」
「わかった。」
「上がったら今日はすぐ寝るからね!ダメだよ、もう。」
「・・・・枕抱えて旅に出る。」
「こらあ〜!だめだよう・・・いじわる〜!!」
本当に困ったことに、オレは意地悪で妻が可愛くて仕方ない。
このいつまでも色気なくて子供みたいでバカで単細胞な妻のほのかが。
オレだけが知ってる女の部分なんて絶対に手放せない。何があっても。
あれだ、代わり映えしてないようでいてやっぱり新婚には違いないな。
裸でベッドの中に丸くなっているほのかを抱き上げると文句が出た。
シーツとか毛布で隠して連れて行けと。面倒くさい奴。風呂入るってのに。
「すぐそこじゃねぇかよ、バスルーム。」
「でもヤダもん。裸んぼさんで・・恥ずかしいよう!」
「さっきまでもっと恥ずかしいことしてたのに?」
「きゃああっ!!なっちのバカ!えっち!キライ!!」
「別に誰かに見られてるわけでもねぇだろ?」
「うう・・テレビ消して。」
「そういや映画のベッドシーンも苦手だよな、オマエ。」
「見るのは失礼じゃないか!なっちも見なくていいよ。」
「ぷぷ・・真っ赤になって目ぇ反らして・・子供かっての・・!」
「んもー!?怒るよっ!!苦手だっていいじゃないか。悪い!?」
「悪くない。面白い。」
「・・・なっちなんて・・・・知ってるんだから!”むっつり!”」
「今更何言ってるんだ?」
「悔しいイイぃ・・・今晩は絶対もうさせないからねっ!?」
「どうするかなぁ・・じゃあ一人で・・」
「ヒキョウモノっ!イイよもうほのか一人で寝るんだから〜!!」
「と、とにかく風呂入ってさっぱりしよう!な、奥さん。」
「フンっ!!」
からかい過ぎると後が面倒なことになるんだが・・・この辺が難しい。
怒った顔が特別に可愛い妻を抱えて、オレは少しばかりの反省をした。
ははははは・・・・知ーらないっ!!
楽しかったですっスイマセンっ!(逃)