「お風呂のじかん」〜あだるとばーじょん〜 


オレの妻は風呂好きだ。

だがキレイ好きなわけでも潔癖だというのでもない。
単に風呂場で遊ぶのが好きなのだ。昔から、そう子供の頃から。
そのせいで風呂場にはあひるやら水鉄砲やらのおもちゃが幅を利かせ、
入浴剤の変わったのを集めてきたり、風呂場で歌ったりもごく当たり前。

オレがそれを知ったのはまだ妻が中学生、つまり知り合ってまもなくだ。
当時とんでもなく子供っぽかった妻は高校生だったオレに言ったのである。

「なっつん、一緒にお風呂入ろうよ!」

目が点になったって当然だろう。オレは眩暈すら感じたことを覚えている。
水着を持参し、本気であることを突きつけられ結局負けた。押し切られたのだ。
小学生くらいにしか見えてなかったから・・オレもその・・うっかりしたもんだ。
そう、有り得ない話だが一緒に入った。のぼせそうになって途中ギブアップした。
その後もしつこくせがまれたが、オレは懲りてしまいその後は必死で逃げ回った。
だがしつこさで妻の右に出る者は少ない。挙句の果てにオレは打開案を呑まされた。

「・・じゃあ結婚したら一緒に毎日入るんだよ!?約束だからねっ!!」

そして現実となっている今があるんだから、妻の情熱の程がわかるというものだ。
ところで大人になったからといって状況が変わったかというと、とんでもない。
色気よりいまだに遊びが本来の目的で、入浴の意味さえ忘れ去られそうな有様だ。
オレが洗髪やらを色々してやってるなんて誰にも言えない・・と一人溜息を吐く。
そんな妻が今夜もまたオレを誘う。もっと他の誘いがあって然るべきところを。

「なっちぃ!早くお風呂入ろうよう!!」
「ちょっと待て。・・もう少しだから。」
「家でまで仕事することないじゃん!要領悪いんじゃないの?!」
「明日の準備とかあるんだよ!あと少しだと言ってるだろ!?」
「だって可愛い奥さんが誘ってるっていうのにー!」
「・・・・おもちゃでも選んでろ。すぐ行くから。」
「しょうがないなぁ・・じゃあすぐだよ、すぐきてね!?」

いつになったらアイツは大人になるんだと思い悩んでいた若い頃が遥か遠い。
確かにそんなことで日々耐えていた。未来を手にした今、当時のオレに言いたい。
大人になったって、ほのかはほのかだ。そう変わったりしねぇんだよ!!・・と。
いや寧ろ質が悪くなったのではないだろうか。オレの不利ばかりが増殖している。

悲しいかな毎日のことで習慣になった「お風呂のじかん」。既に楽しげな声が漏れている。
後から入ると必ず水鉄砲で迎えられるとわかっているので、タイミングを計って入る。
返り討ちにしてやろうと一丁別に隠しておいたのだ。絶対顔面狙いやがるだろうから・・
などと思っていたら・・どうも様子がおかしい。計画は諦めて扉を開けると、

「・・・何やってるんだ?」
「あ、遅いよなっち!ホラホラ見てみて!?」

浴室の真ん中にどどんと聳え立ってるのは・・・カードでよく見かけるピラミッド。
カードではなく、柔らかな素材だが、板状のものを組合せて積み上げられていた。
毎日毎日、よくこういうの思いつくよなぁと半ば感心しながら、得意気な妻を見た。

「・・ハックション!!」
「ちゃんと温まってなかったのか!?アホだろ、オマエ!」
「だってこれ早く作ってなっちを驚かせたかったんだよ!」
「そんなことより湯船に浸かれ!風邪引くぞ!?」
「へいへい。あ、壊さないでよ!?まだ完成してないんだから。」

「で、これどこまで積み上げるつもりなんだ?」
「天井に届くまでに決まってるよ。」
「そんな決まりごと知らん。」
「なっちも手伝ってよ。」
「んなことよりどこで体洗うんだよ!?こんな邪魔なもの作って。」
「横でいいじゃん。だいじょうぶだよ、洗えるよ。」
「・・ったく・・」
「イマイチだったかぁ・・・なっちの意表を突くのは難しいのだ!」
「・・風呂場ですることか?」

少しも誉めてなどいないのに、何故か嬉しそうにほのかは湯に半ば顔を浸して笑った。
入浴剤で隠れて見えない妻の手を探って見つけた片手を握ると、驚いて顔を出した。

「なっちに驚かされた。悔しい!」
「オマエの悔しがるとこおかしくないか?!」
「べーだ。手放してよ。」
「嫌なのかよ。」
「なんかさぁ・・」
「思い出すのか?あんなときとかを。」
「きゃああっ!ヤラシイ!なっちヤダ。放せっ!!」
「そういうことを想像したオマエのがヤラシイぜ。」
「うぬっ!・・はめられたのだ・・やるな!なっちのくせに。」
「オマエって妙にこういうの照れるよなぁ・・?いつまで経っても。」
「う、うるしゃい!・・なんだい、昔はなっちのが照れてたのに〜!」
「奥さんはちっとも変わらないので不思議なんですけど?」
「・・なっちは変わりすぎだよ。つまんないよ!」
「悪かったな。」
「あ、でもさ!なっちも人のこと言えないんだよ!?」
「は?なんのことだよ。」
「昔と変わらないとこ。ほのかにはちょっとわかんないんだよね・・」
「だからどこだよ、それって。」
「なっちの照れポイントは昔からよくわかんない。」
「・・・そうか?」
「ウン。あれっ!?っていつも驚くもん。それも悔しいの。」
「・・・オマエは無自覚で意表を突いてるってことだ。」
「おおっそうか!?ほのかってばエライ!・・でもわかんないのがツマンナイ。」

不服そうに唇を尖らせるから、繋いでいた手を引いて顔を近づけた。
温まったせいもあるが、ほのかの頬がさらに赤みを増したようにも思えた。
軽く触れるだけのつもりだったが、一瞬期待されてしまったので目蓋を下ろす。
濡れて湿った口付けは、ベッドと違っていて結構そそる。だがそうはうまくいかない。

「・・お風呂ではダメって言ってるでしょお・・!?」
「しねぇよ。こんくらいなら別にいいだろ?」
「う・・ん・・でも熱いからヤだよ、のぼせちゃう。」
「・・・んじゃ上がるか?」
「えっ遊ばないの!?タワーは!?」
「そっちのが大事なのな・・・はぁ・・」

ものすごくイイ顔で誘っておきながら、オレより風呂での遊びが優先だとか・・
オレのが余程悔しい想いしてるってんだよ。だがこれは約束なので仕方ない。
新婚当時ここではそういうことは禁止だと言い渡されているのだ。かなり痛い話だ。
本人いわくここはそういう場所ではないらしい。遊ぶ場所というのも間違ってる気がするが。
あのときのぼせさせて、後で泣かれた罪の意識からオレも渋々承諾してしまった。
つまんねぇ・・と思ったことは内緒だ。思うくらいは赦されるだろう。
オレが溜息交じりに手をゆるめ、そろそろ切り替えようとすると意外にも手を引かれた。

「!?・・どうした?気分悪くなったのか?」
「・・・ウウン・・なんか、その・・えっと・・」
「?顔赤いぞ。どうした?」
「・・続き・・あの・・」
「・・・珍しいな。じゃあ上がるぞ。終わったらまた入ればいい。」
「うう・・負けた・・なっちに負けた〜!?」
「たまには勝たせろ。ってかマジかよ!?焦る!!」

日頃の行いが良かった報いだろうか、妻からのお誘いは思っても無いご褒美だった。
結果風呂入る元気なくなった妻だったが、まぁそれはそれで・・いいんじゃないか?たまには。
妻のやる気は大事にしないとな。こっちばかりその気だと拒まれてなくとも悲しいものがあるんでね。







・・やっちゃった感があります。はは・・ヤバイかなぁ・・!?
方角違いな夏ほのな気がする。でも直接的なことは書いてないのにね!?
けど完璧に”あだると”ですね!?ある意味達成感があったりしますv