I can't stop loving you
いっそ雨が全てを洗い流してくれはしないかと願った。
雨音は激しく耳を打つが、体は火照っていくのを感じた。
濡れて体を冷やしていくほのかを護らなければと焦り乍、
張り付いた制服に浮かんだ肌に一瞬で囚われてしまった。
そしていつからそんなに敏くなったんだと身勝手に思う。
気付かれた。否気付かせたのは他ならない、己自身だった。
誰にも教わらず穢されないままの綺麗な手が触れてくる。
そんな手で、清んだ瞳で自ら重い扉を開けようと囁きかけた。
「なっち・・寒いよう。」
甘い響きに身震いする。この声も手も瞳も何もかもが欲しい。
それがどんなに罪深いことだとしても、俺には抗いようがない。
鉄の門も扉もほのかを逃さない監獄の檻に感じながら開いた。
施錠の音がやけに響いた。掻き消す勢いで小さな体に縋りつく。
冷たくて不安も過ぎった。熱く火照る俺と冷たいほのかの対照は
二人の気持ちの差でもあるような気がした。強く抱き締める腕に
抗いもせず、ほのかは勇気を与えようと明るい声音で言った。
「あったかい!もう寒くないよ。なっちありがとう!」
「・・風呂入れるから入れ。の前にタオル持ってくるから待て。」
「なっちもびしょびしょだよ?ね、こうしてたら寒くないよ?!」
「・・ずっとこうしてろってのか?・・ダメだ。拭かないと・・」
「でもほかほかするもん。なっちの方が熱でもある?寒くない?」
「俺は・・お前のせいだ。体はなんともねえ。」
「そうなの?・・・・ね、お風呂一緒に入ろっか?!」
ほのかがまた一歩進んで俺を誘う。返事の仕様がない。何故なら
それらは後戻るつもりのない俺にとってはありがたいだけでしかなく。
踏み止まろうとする最後の理性の砦を崩壊させる言葉に過ぎない。
「わっ!・・なっち!?」
「・・・風呂場行くぞ。」
「う・うん・・!」
浴槽を満たさんとする勢いある湯水は、内から溢れ出る奔流とだぶった。
脱衣所に戻ると頼りなげに佇むほのかが祈る巡礼者のような姿をしていた。
さぞ怖ろしいことだろう、何も知らない先へ足を踏み入れる時誰もがそうだ。
冷たい体を引き寄せて口付けると震えが伝わり俺の背もぞくりとする。
己の獣が舌なめずりした。解放の予感に既に酔っていたのかもしれない。
「脱がすぞ?気持ち悪いだろ。」
「あ・・うん・・脱ぐ・・ね。」
おぼつかない手付きなのを援けてやると、ほのかが怪訝な顔をした。
「・・なっち、まさか脱がしたことあるの?」
「あるわけねえだろ!適当だよ、こんなの。」
「やけに落ち着いてるような気もするし・・むう・・」
「こっちの台詞だ。余裕があるように見えるのはなんでなんだ!?」
「ないよ!余裕なんて。ねえ、下着可愛くないけど言わないでね?」
「そこに拘る意味がわかんねえ・・どうでもいいぞ、そういうの。」
どうでもいいとは言ったがほのかの案ずる意味ではということだ。
未だ幼さを湛えてはいても、十分に女でそれも極上としか思えない。
そんな嫉妬もするようになったかと感慨はあった。想像したことも
なかったのだろうか。いくらでも妬いてくれて構わないが不安そうに
曇らせる瞳に胸を突かれ、なんとか誤解を解いてやりたいと思うのだが
こんなときにどう言ってやればいいのかを俺は知らず、何も言えない。
湯が満ちたことを知り、服を脱ぎ捨てた。驚きで見詰めるほのかは
また一層不安になったようだった。あからさまに見たのは初めてだろう。
脚が竦んだのか、ほのかの体が揺らぎ出したので慌てて支えた。
「脱げる・・のか?」
「!?う・・うん・・おふろ・・入るんだもんね・・?」
覆い隠していた腕を解くとほのかの胸元が揺れた。あたふたとしながら
下着を外した。羞恥で俯くと余計に目の毒なことになるとは気付いていない。
勢いで全て身から取り去ったが、ぺたんと腕を抱えてしゃがみこんでしまった。
このまま放置していても寒いばかりだ。無理に起こすのも忍びなく躊躇した。
「風呂入れ、待ってるから。」
「!?い、いっしょに入る・・よ!」
「そうか。なら・・」
抱いて湯に浸かった。ほのかの体が弛緩するのがわかるとほっとした。
ずっときつく閉じたままの瞳が見たくなって前髪を退け、額に触れてみる。
ようやく目を合わせたなと感動した途端、ほのかがどうしてか眉を顰めた。
「なっちほんとにほんとに・・初めて?」
「ああ。なんか信じられねえ・・けど。」
「ほのかお兄ちゃんと入ったのって最後はいつだっけなあ・・」
「・・・まさかとは思うが中学んときは入ってねえだろな!?」
「どうだっけ・・え〜っと・・小学2年か3年生かは忘れた。」
「思い出さんでいい。兄貴の寿命が縮む。」
「ええ!?そんな、時効でしょ・・っていうかお兄ちゃんじゃないか。」
「誰でも一緒だ。俺以外は二度と許さん。」
「なっちはいいんだ。ふふ・・よかった。」
「さっきは・・かなり嫌がってなかったか?」
「え?!い、いやいや・・!気のせいだよ!」
「ならその手、どけてみろ。そんでこっち向け。」
「!?!・・い・う・・あ・・!!・・だめえ;」
いつものほのかに戻ってきたと思ったのは気のせいだったらしい。
抵抗する体の熱さに思わず湯から出る。逸る気を反らすつもりでタオルを
掛けてやる。すると真っ赤な顔と同じ色づいた唇から零れてきたのは
「・・なっちぃ・・やさしく・してね・・・?」
「・・わかった。・・なるだけ・・努力する。」
言うのがやっとだった。安心させてやりたかったが、自信は皆無だった。
ベッドまでどう辿り着いたものか記憶にない。シーツの上でまた目を瞑っていた。
口付ける唇はほのかだけでなく俺自身のも震えた。どうするかなぞ綺麗に忘れ、
美しい体にしばし見惚れた。耀いているすべてに触れるのが途惑われ溜息となる。
恐る恐るのせた指が肌に吸い付くと、何も考えなえないまま滑るように始まった。
そうだ、ぜんぶだ。なにもかもたどってみたかったんだ。おかしな話だが
子供に戻ったように夢中で確かめていく。唇で、指で、掌で、舌と歯で、そして
絡めあう。なんて心地だろうか、喩えようもなく体と心が戦慄く。愛しさに。
穢すまいと思っていたのに、何もかも違っていた。思い上がっていたと悟った。
どんなにしてもほのかは穢れない。俺は清められて生まれ変わるようだった。
一人では知りえなかった。繰り返し名を呼んで、ほのかも呼んでくれていた。
俺はまた救われたんだ。何もかも眩しくて可愛くてもう離せない。そして忘れない。
新たな誓いを重なった指と唇と体に刻み込む。二人の出発がそこに在った。
この記憶はいつまでも消えることはないだろう。契りは交わされたのだから。
※「Love me tender」の夏サイドになります