一欠片の魔法



まだ余韻が残っている
まどろみの海の中に
水面に反射して煌く波頭のように
光り輝いてみえるそれは
魔法が解けた後に残る忘れ物
たとえそれが一瞬で消える幻でも
甘く残された波紋は途絶えず
馬鹿らしくても手離せない

湧き出てくる愛しさなんて
もう呆れるほどで隠すことも忘れた
当たり前になっちまったな
二人でいることがこんなにも
飢えていたのだから仕方ない
そうとも気付かぬままに
幸福なんぞ知らなかったから

睫が僅かに揺れて直にあの瞳が開く
オレを絡め取る強い魔法の視線
だがいまはまだこのままで
この甘ったるい余韻に浸されていたい
でないとまた魔法にかかってしまう
抗えない力に囚われるまで
この幸福を味わいたいんだよ




朝早くに眼を覚ますと
隣で眠るあなたの寝顔
とうとうと流れる大河のような
優雅で落ち着いた風が吹いてくる
まだあちこちに残る魔法
私を虜にして離さない
この寝顔を見るために
生きてきたのかもしれない
そんな気さえする愛しさ

あなたが眼を覚ますかもしれない
だけどもう少しこのままで
愛しさと幸福に包まっていたい
二人で並んで感じる朝の静けさ
肌は温かくシーツは冷たく
あの瞳が開いてしまうまで
この時間を楽しんでいたいの



     ちゅ
「なっつん、起きてるんでしょ!?」
「もう一回チューするから眠り姫みたく起きてよ。」
「・・誰が眠り姫だよ?!」
「あー、ダメ!もっかい寝て。チューしたら起きるの!」
「だから、なんでオレが!?」
「起こす方が面白そうじゃん!ねぇねぇ、させてったら。」
「もう起きた。」
「ちぇ・・つまんないの!」
「おまえ、昨夜とえらい違うじゃねーか。」
「う?・・・そんなことない・・もん。」
「ふーん?」
「なっつんこそ違うじゃんか、優しかったのに!」
「・・気のせいだろ?」
「うもー、こうしてやる!」
「こら、やめろ。」




気恥ずかしさを隠して照れたように笑う
こんな時間も好きだなと思う
じゃれてるのが気持ちいい
だってまたいつの間にか
身体が熱を帯びてくるから
もうあの瞳に閉じ込められないように
あなたに手を廻して眼を閉じるの




何度日を重ねても気恥ずかしくて
朝産まれ立てみたいなおまえが眩しくて
思うように顔を見ることができない
まるで嘘だったみたいな顔して笑う
無邪気なままの笑顔に安堵する
だけどまたその瞳に捕まるまえに
柔らかな身体を抱き寄せて眼を閉じる





朝に残されてる
一欠片の魔法が
二人をまた夢中にさせる
眼の合った者同志
触れ合わずにいられなくなる

互いの澄んだ瞳の中には
ただ好きとだけ書いてある