「どうにもお手上げ」
いつも生意気なことばっかり言うくせに。
子供っぽくてうんざりさせられたりもするのに。
たまにどうなんだよ!?それ!ってときがある。
わざとにしてもそうでないにしてもオレはなあ!
引っかかったり・・・ましてや思う壺になんざ・・
はまったりしねぇって、思ってたり・・するんだぞ、一応。
尻尾が見えそうなほどほのかは興奮して目を輝かせた。
まぁそれは食い意地の張ったヤツだからいつものこった。
「早く早くう!もうヨダレ出ちゃうよ!?」
「お預けもできねぇのか、オマエは犬以下か!」
「わんわん!もう待てないよう!!」
「はぁ・・やれやれ・・・」
「いっただっきまーっす!」
なんてことない、ただ腹が減ってるだけのことだ。
そんでついつい食いたい攻撃に負けてオレが作ったパスタ。
茹で上がる前から横でそわそわしていたほのかだったが、
皿に載せると同時に飛びついた。いつも思うんだが・・
コイツってよく食う。美味そうに、幸せそうにだ。
オレもそれほど料理が得意ってわけじゃないのに
呆れるほど喜んで食う様に喜びを感じずにはいられない。
オレはほのかの作る意味不明な料理に慣れてしまったが
ほのかはオレが何を作っても転がる勢いで喜ぶ。
作る楽しみというものがあるなら、きっとこんなのだろう。
「美味しかった・・・なっつん、ごちそーさま!」
「あぁ・・こらっ人の皿を舐めるな、みっともねぇ!」
「もったいないじゃないか。」
「ちゃんと残さず食ってるだろ。オマエは意地汚すぎんだよ!」
「まぁまぁ、それくらいで怒らないで。ねっ!?」
「・・ったく・・・」
「なっつん、美味しかったお礼に何かして欲しいことない?」
「何珍しいこと言い出すんだ?ならちょっと昼寝でもして大人しくしてろ。」
「そういうんじゃなくて、なっつんが「気持ちいい」ってことない?」
「・・・ない。いいからじっとしてろ、調子狂うな・・」
「今なんか考えたでしょ!ほのかにウソなどつけないのだぞ!?」
「ウソなんか吐いてねぇよ。」
「ねぇ何かない〜!?そうだ、肩揉む?!」
「いらん。オマエだと力弱くてくすぐってぇだけだ。」
「う〜ん・・じゃあ・・なんかないかな、ほのかの場合だと髪を触られると・・」
「寝るんだろ?」
「違うよ。気持ちいいことを探してるの!」
「なっつん散髪しない?それとか・・えーと。」
「自殺行為だろ、そんなこと・・しねーよ。」
「あとそうだ、お風呂で身体洗ってあげようか!?」
「オマエは・・誰を洗ってやってるんだ?まさか・・」
「ううん、最近はお兄ちゃんとも入らないから。」
「アイツ妹に何させてんだ!もう二度とそんなことするな!!」
「だからこの頃は入ってくれないってば。あとはー、子守唄歌ってあげよか?」
「腹一杯で眠いのはオマエだろ。オレは眠くないんだよ。」
「ちぇ・・あ、そんじゃあさぁ・・」
「もう諦めろ、なんにもしてもらわなくていい。」
「そこをなんとか、お情けください。」
「・・・オマエ時代劇とか観るのか?お代官様とか前も・・」
「うん、たまに。お父さんが大好きだから一緒に見るよ。」
「・・そうか。使い方間違ってるからしょうもないこと覚えるなよ。」
「え、なんか間違った?!・・・んと・・『お情け』?」
「思い出すな。いいからオレになんかしようとすることから離れろ!」
「なっつんを喜ばせてあげたいのにー!」
「だーかーら、なんもするなって言ってるだろ!?」
「ふ・・みー・・・」
「なっ・・なんだよ・・・?!」
「なんでもいいからさせてよう〜・・・・」
「泣くことか!?オマエにだって料理くらい作ってもらってるだろ?」
「くすん・・・もっといっぱいお世話したいんだもん。」
「あのな・・;」
「ほのかはなっつんの『お世話係り』なのだからね!?」
「やめろ、その言い方。」
「なんでさ!?」
「なんでも。」
「やだ、お世話するの!」
「はぁ・・」
嬉しそうな顔に弱いってことを全否定することはできないが、
泣き顔にはもっと弱い・・かもしれない。泣き出しそうな顔というべきか。
勝気ないつもの眉が力なく下がり、大きな瞳が湿り気で潤むと・・
どうにかしなければ、というある種の強迫観念が沸き起こる。
と、同時に後ろ暗い気持ちもまた、奥深くからもたげ出す。
勿論ほのかにそんなことを悟らせるまいと踏みつけるようにするのだが。
たまに・・・焦ることだってある。どうしようもないというか・・
オレに全身を預けてくるときもそうだ。甘えるように。強請るみたいに。
「・・・なっつんたまに怒らないでくれるね。」
「え・・?」
「いつもだったらほのかがあんまり引っ付くと怒るじゃないか。」
「あ、あぁ・・まぁな。」
「でもたまにこうしてさ、甘えさせてくれるよね?!嬉しいな。」
「た、たまには・・その・・いいかなって・・やっぱ離せ。」
「いや、ひっついてたい。なっつんすき・・」
「・・・その声・・たまにどこから出してんだ・・?」
「・・・?」
「オマエだってたまに・・なんでそんなになるんだよ?」
「そんなってどんなの?」
「・・・・・」
「いつもと違う?」
「ああ。」
「なっつんだってそうじゃない。」
「オレも?」
「ウン、その顔見たら・・ちょっとね・・」
「ちょっと、何だよ!?」
「ひみつ!言わない。」
「何だと、コラ顔隠すな!」
「いやー!みないでー!!
「見せろよ、耳真っ赤だぞ?」
ほのかがいやだと首を左右に振ると猫っ毛が胸をくすぐる。
少し乱暴に顔を上げさせると・・またあの気持ちにさせられる。
わかってても止められない。どうしてもみたくなる。
どうしてくれんだよって、顔だ。ぞくっと背中を電流が走る。
「やだよう・・!なっつん・・」
「だから・・どっから出してんだ?その声って。」
「どこって・・おなじだよ?」
「ウソじゃねぇ?」
「なんで、だって・・どこ・・」
喉元まで届きそうなくらい舌を入れたら、さすがに苦しそうだ。
咽たほのかを宥めるように次は優しく撫でるように差し出す。
そうすればほのかもおずおずと絡めてくる。逃さずに捉えて。
息が荒くなるほど繋がっていると、ほのかの瞳はどんどん潤んでくる。
身体が小刻みに震え出す。それをより感じようとして身体を重ねる。
気付くのはいつもそんなときだ、ほのかを掴まえて動けなくしてしまっている。
何度目だろう、もういい加減・・・辛くて堪らない。
「なぁ、オマエわざとじゃねぇのか?あの声とか・・」
「わざと・・って?ほのかの声そんなに・・変なの?」
「変じゃなくて、オレが変になるような声なんだよ。」
「わかんない・・もん・・そんな・の・・」
「どうしてくれんだよ・・・」
「どうすればいい・・の?」
「・・・・」
オレはどうするもこうするもお手上げってやつで。
ほんの僅かなことですぐにでも切れてしまいそうだ。
頼りなく細い理性の糸をたぐっても容赦なく”声”がオレを引き戻す。
「オマエが『声』とか『言葉』で惑わしてるのは間違いないぞ。」
「・・・なっつん・・?」
「ホラ、また・・」
もういいと何かに背を押されたい、でないともう壊す以外にない。
点滅する信号に突っ込んでいったら、危ないって決まってるのに。
迷いと躊躇いの渦の只中でまたオレを誘う声がする
もう、いいって、言ってくれないか?