※これは 未来版「どこまで?」の続きになっております。
「どこから?」
深いキスの余韻で赤く染まった顔に見惚れていると、ついと服を引っ張られた。
「・・あ・あの・・ここで・・?」
それは普段のほのかとはかけ離れた仕草で、その遠慮がちな小さい声に胸を衝かれた。
恥ずかしそうにほのかが尋ねているのは”続き”はどこでするのかという意味だろう。
その場で雪崩れ込みそうな勢いだったことに気付いて、己の余裕の無さに頭が冷えた。
初めてなのはお互い様だが、未知の体験に対する怖れはほのかの方がおそらく遥かに上廻る。
浪立ちを鎮め、少し冷えた頭に感謝しつつ、ほのかに努めてゆっくりと話掛けた。
「・・オレの部屋でいいか・・?」
ウチで”初めて”を迎えるとなると他に思い当たらず尋ねると、ほのかは無言で頷いた。
緊張が伝わってくるとオレ自身にも高揚感に加えて壁を越える緊張と罪悪感が過ぎる。
なるだけ静かに抱き上げて居間を後にし、部屋へと向かう間も自重して慎重に歩を進めた。
ほのかは借りてきた猫のように大人しく、黙ったまま顔をオレに押し付けて見せないでいた。
それが余計に不安感を駆り立てた。部屋のドアの前まで来てオレは立ち止まってしまった。
「・・顔見せてくれないか?」
自分でも情けない声だと感じた。この期に及んでオレはまた留まろうとしている。
驚いてようやく顔を見せてくれたほのかはオレを勇気付けるのとは真逆の表情だった。
痛々しくて見ていられないほど不安な顔。硬くなっている体が更にそれを思い知らせた。
「なんで・・?」
「すまん・・その・・オレまで緊張して・・」
「あ、ほのか・・怖くないよ?ホントだよ!?」
「そう何度も言われると否定に聞こえるぞ。」
「そりゃちょっとは・・怖いかもだけど・・でも」
「オマエじゃない。オレだよ原因は。」
「・・なっちが怖いの・・?」
「ああ、今頃わかった。オレの緊張がオマエに伝わったんだ。」
「ごめんね、ほのかもその・・どうすればいいかよくわかんないし・・」
「あーなんだこれ。かっこわり・・がっかりすんなとか言うのも嫌だしな;」
「ぷぷ・なっち、なっちのおかげでほのかは怖くなくなったよ。」
「なんか・・マジでみっともねぇな・・それといまさらだけどな?」
「ウン?なぁに?」
「こんな成り行きみたいなのでなくて場所とか選ぶべきだったか?」
「初めて・・だから?」
「今更っつうか、オレが負けたっていうか・・今まで待っておいてこんな・・」
「ウウン、早くってせがんだのほのかだもん。今まで何度もお願いしたし・・」
「けど・・」
「場所とかそんなのどうでもいい。なっちとだってことが一番大事なんだから。」
「・・・・すげぇ殺し文句。」
「え!?死んじゃわないで?!」
「ここでボケがくるのがオマエだよ。」
「ボケってなに?マンザイの??」
「もそれはいいから。ほのか!ドア開けるぞ。もう引き返さないからな。いいな?!」
「は、ハイ!いいです!」
意を決してドアを開けたが部屋は時間帯のわりに暗かった。ブラインドを下ろしたままだった。
暗くても勝手はわかるので照明は点けずに中へ進んだ。少し悩んでベッドサイドでほのかを窺う。
「なぁ、ライト・・ベッドサイドのライト点けていいか?」と恐る恐る尋ねた。
「う、うん・・いいよ。」
あれこれと下準備するのが礼儀ってもんかもしれなかったが、全くそんな予定じゃなかった。
ほのかに悪いかと思ったのはそんなようなことも含まれていたが、幸い気にしないでくれた。
しかしこの期に及んでも細かいことで引っ掛かる。経験の無さを露呈して一々心の端が痛い。
細かいことというのは照明のことだけではなく、内心オレはかなり追い詰められていた。
もうかっこ悪いとかの域を超えてるから開き直るべきだと無理矢理に勇気を振り絞った。
かなり暗かった室内にサイドライトが点るとほのかは少し身を硬くした。
思ったよりくっきりと二人の姿が浮き上がり、もしかすると消してくれと言われそうだなと思う。
だがほのかは黙ったままだった。ベッドの端に腰を下ろさせた。するとほのかの表情にぎくりとなった。
「・・何でも言えよ?・・泣きそうな顔んなってるぞ?」
「え?!そお!?・・はは・・やだな、ほのかってこんな弱虫だったかな?」
「それはこっちの台詞・・なぁ、その・・」
「やめるとか言わないでね?」
「ぐ・い、言わん。」
「ものすごく言いたかったんでしょ!?」
「怖がらせたくないってのだけはわかってくれよ。」
「あのさ、そんなに怖いこと?なっちのしたいこととほのかの思ってるのって違うのかな?」
「・・・・・言いにくいが・・違ってる・・だろうな。」
「ふぅん・・そっか。でも大丈夫だよ、ウン。」
「その根拠は!?オマエ盲目的だからなぁ、信用しすぎなくらい・・」
「あっ!?どうしよう・・」
「いきなりなんだ!?心臓に悪い!」
「ゴメン。なっち・・下着・・」
「は?」
「あんまり見ないでね、今日あんまり可愛くないかも。」
「・・・余裕あんじゃねーか・・」
「なんだかなっちもすごーく緊張してるって思ったら安心しちゃって・・へへ・・」
「悪かったんだか良かったんだか・・」
「暗くしてるだけなのになっちのお部屋いつもと違って見えるね。」
「・・そうか?オレはいつも見てるからな?」
「お昼寝しようってここで誘って怒られたことあったね?!」
「あぁ・・あったなぁ・・」
「なっちあのときはほのかのこと子供扱いだった。」
「実際子供だったじゃねーか。」
「嬉しいな。なんだか近くなれた?!そんな気になるもん。」
「・・・・嬉しいのか?まぁ嬉しいことは嬉しい・・がな。」
「なっちは嫌なの?ずっと子供のままのほのかがいいと思ってる?」
「思ったことはある。けど・・それも困るなって・・思ってた。」
「へぇ〜・・そうかぁ・・良かった。」
「なぁ・・置いていくなよ?」
「え?」
「大人になっても・・ずっと傍にいてくれ。」
「もちろんさぁ・・なっち・・ずっとダイスキだよ。」
あんまり可愛らしく笑うから。いつもそうだ。オレはそれが引き金かもしれない。
胸を突かれる。甘い痛みだ。何度殺されそうだと思ったかしれない。けどそれも終わりじゃない。
これからもそうだろう。眼の前で、オレだけに見せてくれるんだろう?その笑顔はオレのだ。
やんわりとお互いに寄り添って触れ合った唇は何度か交わしていた今までと同じようでいて・・
そのときは違った。何故だかは・・どうでもいい。抱きしめてそのまま倒れこむ。
幾度か想像した光景なのにオレのベッドの上で見上げているほのかは当たり前だがリアルで眩暈がした。
「なんでそんなに・・見てるの?」
「この角度は見たこと無かったなぁと感動してんだ。」
「へんなの!?」
「笑ってんなぁ・・ほのか。」
「笑ってちゃダメ?」
「オレの夢とかだとよく泣いてる。だから笑ってて・・嬉しい。」
「ほのかちゃんを泣かせてたのかい!?やだな〜!?」
「すまん。もうそんな夢見ないで済むかな。」
「ウン・・きっとだいじょ・・」
啄ばんだ唇から溜息が零れる。吐息すら愛しい。どうすればいいんだろう?
「なっち・・どうしてそんな困った顔になってるの?」
「困りもするだろ。好きにしていいのかって思うと・・迷う。」
「何を?」
「どこから・・オレのだって確認してこうか、とか・・」
「!?・・なんか・・ちょっと意地悪い顔にも・・見えてきた。」
「ああ。今は笑ってるけど、泣かす自信ならいくらでもある。」
「ええっ!?ほのか初めてなんだから優しく・・して・よ?!」
「余裕なくなったら・・勘弁な。」
「!?!?・・なっちぃ〜・・怖がらせるのはダメじゃないの!?」
「あーもー・・オマエだってなぁ・・責任感じろよ!少しくらいは。」
「責任だなんて・・ほのかなにか悪いことしたみたいじゃないか・・」
「オレが余裕なくすのも怖気づいたりすんのも、かっこわるいのも全部オマエのせいだ。」
「ヒドイ!!そんなの・・」
「オレに何していいのもオマエだけだ。だから責任取ってくれ。」
「・・どうすればいいの?」
「そうだな、まずは・・」
初めて、遠慮なしに口付けた。苦しそうなほのかが必死にオレに縋ってくる。
執拗すぎていきなり引かれそうな勢いだった。それじゃあ元の木阿弥ってやつだろ、って
思ったが止められなかった。覆い隠すようにほのかの小さな体を包み込んで何度も繰り返し。
終いにほのかが喉を鳴らしてオレを叩いた。少し抱いていた力を緩めると隙間から非難の目。
「けほっ・・っく・・苦しい!なっち・・痛い・・」
「痛かったか?舌。」
「舌も息も胸もっ!」
「すまん。まずは手加減なしでキスさせてくれ。」
「してから言うのはおかしいでしょ!?」
「怖かったか?」
「んん・・それどころじゃなかったよ・・息が詰まって死ぬかと思った・・」
「そか・・」
「ひゃぅっ!あっあっ・・」
「これ、どうやって取るんだ?」
「う・・う・・手、どけて・・取る・から・・」
「あ、ここか。外れた。」
「あっやっ・・!」
「服やっぱ邪魔だ。脱がしていいか?」
「なっち・・なんでそんな・・余裕あるのっ!?」
「ねぇよ。心臓バクバクだ。脱がすぞ?」
「言ってることと・・ちが・・手!手っあっ・・」
「さわったらこんなやわらかいんだな・・」
「いや・・あ・・そんな・・はっ・・」
「思ったよりあるし・・ちょっと待て、オレも脱ぐ。」
「っはぁっ・・は・・待って・・欲しいの・・こっち!きゃあっ!?」
「・・上しか脱いでないぞ?何驚いてんだ。」
「だって・・ほのかいつの間にか・・脱いでるし・・」
「さっき脱がすぞって言ったんだが・・」
「うう〜・・ひどい!いきなり・・ぅあっ!」
「ちょっとマジで余裕なくなってきた。黙ってろ。」
「うううう・・・泣いちゃう!なっち止まって・・」
「止めんなって言っただろ!?鳴いていいぞ。いくらでも。」
「なんかそれ・・ぜったい意味違うもん!なっちやらし・・いやあ〜・・!?」
「まだこれからだ!なんもしてねぇ!」
「なんにも!?なんにもってことないでしょ!?イヤ、もう!」
「なんだと〜!?」
「優しくしてって言ったじゃないか〜!?」
「これ以上は無理だ。そんなに痛いのか・?」
「・・くすん・・いたく・・はない・・かも・・」
「え?」
「わかんないもの!初めてだもんこんなのっ・・体がざわざわしてこわいよう〜!」
「わ、わかった!・・そうかわかんないのか・・オレはわかりやすいんだが・・」
「わかりやすいって?」
「オレは・・キモチイイ・・ばっかりで・・すまん。」
「うう・・なんか不公平だ。ものすごく不公平だよ〜!!」
「申し訳ない・・が、その・・続き、いいか・・?」
「ふぇ・・ん・んん・・なっち・・・の・・ばか!」
「オマエだって言ってるわりに・・だけどな・・・」
初めてなんだからあれこれ支障は出るものだ、と思いたい。じゃないと申し訳なさすぎて。
それにオレにとってはなんの支障でもなかったのだ。ほのかはひたすらオレを喜ばせてくれた。
しがみついてオレを求めるみたいに。怖いと言ってても初めの不安そうな様子とはまるで違っていた。
紅潮して潤んだ瞳も、柔らかくて羽みたいな体も、全部が信じられないくらい綺麗で・・
どこからどこまでも一人占めしたくて、飽きることなく触れて。幸福で息が詰まりそうだったんだ。
止められなかったのはお互いのせいだ。底抜けにオレを愛してくれてありがとう・・ほのか。
こんなオレを抱きしめ返してくれるほのかが、あまりに神々しく感じられて、頭を垂れるしかなかった。
「どこまで?」の続き書いてみました。みごとに裏ですねっ!?(^^;