夢うつつ




霧の晴れる瞬間があるように
雨の途切れる場所があるように

現と夢の境は何処にある
妖と人の狭間に何思う
未来へと現が変わりゆくは今



夢を知る。
懐疑と憧憬が入り混じるもの。
現でなしと確かめる。
全ては我が記憶の徒か。
匂いまでも感じられる。
触れたことなき肌までも、
感覚は試行し、錯覚させる。
幻、或いは影に過ぎぬ。
それでも甘美なその逢瀬、
望むと望まざるを混濁してはまた、
儚いと知りつつ溺れゆく。



「殺生丸さま、妖怪は夢を見るの?」
「・・・」
「りんね、怖い夢見ることがあるの。」
「・・・」
「そんなときはね、これは夢だ!目を覚まそう!って思うの。」
「・・・」
「それでね、目が開けられたときに殺生丸さまが居ると、」
「・・・」
「それはものすごく嬉しいの!ほっとするんだよ。」
「・・・」
「どうしたの?お腹痛い?」
「・・・」
「夢は夢だ。現ではない。」
「・・・うつつって今のこと、だよね?」
「そうだ。」
「でも今の裏返しみたいじゃない?なんとなく。」
「・・・」
「りんは今が幸せだから怖い夢を見るのかもと思った。」
「おまえは怖い思いを求めるのか?」
「ううん、怖い思いをしても殺生丸さまたちと居ると確かめたいのかな。」
「今を確かめるだと・・・」
「だって、一緒なら何も怖くないもの。」
「わたしは今に満足していない。」
「そうなの?夢に足らないことを見るの?」
「・・・・」
「それは叶う夢なんだよ、きっと。ね、殺生丸さま。」
「叶えば、もうそれは夢じゃないよね。」
「・・・そうだな。」


わたしは幻を求めるにあらず。
現を知る。そのためか。
おまえは私の夢を叶えるか。
それとも・・・
また今を確かめるのか。



「なあに?殺生丸さま、りんの顔になにかついてる?」
「・・・ああ」
「えっ?!何?・・・」
「足らぬもの、全てだ。」
「? わからな・・・」

夢を現にする。
怖れはない。
ただ、どちらも同じと確かめる。
それだけのこと。
何れもわたしを苛むのだろう。
ならば叶えよ、わたしののぞみを。
確かめさせよ、甘い匂いを。
覚えさせよ、肌の温みを。



これは夢?それとも・・・
ほんとのこと?嘘みたいなのだけど・・・
触れてる、感じてる、知らないことだらけ。
熱くて、苦しい。でも嬉しい・・・
とけてしまいそう・・・
こんな今を知らなかったの。
夢に見たこともない。
でも殺生丸さまは言ってた。
「もう、こんな夢は見ない。」
息がつらくてお返事できなかった。
今度はりんが見るのかもしれない・・・
これがほんとうだと確かめるために。



霧が晴れ、大地が目覚める。
雨が止み、緑が萌える。
夢は今、現となって我と共に在る。
そして未来へ繋がっていく。
現を重ねて。
それは夢に似て甘い。