夢の跡 



眠っていたりんは柔らかく目覚めると
その目覚めよりも柔らかに微笑んだ
温もりを引き寄せると同時に擦り寄ってくる
その甘えるような仕草に身は悦び震わんとする
膝へと抱きかかえると「おはよう」の声
健やかな様子を確かめると小さな肩に頭を置く
「どうしたの殺生丸さま。怖い夢見たの?」
黙っていると指先が気遣わしげに触れてくる
頬を滑るように撫でるりんの指が心地良い
指の一本を軽く咥えてみると笑いを漏らす
「お腹空いてるみたいだよ、殺生丸さまったら。」
赤子にするような僅かばかりの非難を込めてりんが言う
舐めて放すとほっと溜息を吐くのが愛しい
朝の光りに浮かぶ肌は透通るように白く艶かしい
そこに一点の濁りのないことを確かめ安堵する
未だ私すら跡付けぬ滑らかな肌を
包んだままでいられるものならばなどと
馬鹿の付く想いを今朝も抱いては苦笑した
「殺生丸さま、あのねりんも夢みてたの。」
私は夢など見ないが否定するでもなく先を目で促す
「あのね、今よりずっとりんは大きくなっててね。」
「殺生丸さまは全然変ってないみたいなんだけど。」
「でもね、なんだか違うの。でねでね・・!?」
「大人なのにりんを今みたいに抱っこしてくれたの。」
「すごく良い夢。嬉しかった〜!。」
りんが溶けるのではないかと疑うほどの笑みを浮かべた
そこまで嬉しいものかと呆れるものの満足するのは自分
「夢ではないだろう」
そう言うと更に嬉しそうに耀く笑顔を見せる
それが見たくて言うのだ、全く愚かなことだ
身体を私に全て預けてしがみつかせんとして
幸せと呼ぶらしい表情をこの眼に映したいがため
夜通し包んで護った小さな身体を今一度抱きしめるために
これ以上はまだ言えないがおそらくは違いないだろう
おまえの望む以上におまえをこうして抱いていたいのだ
命の灯が消える最期のときまでをも共にと、叶うものならば
愚かさは百も承知の私だけの想い
この温もりがいつまでも私の中に残るよう染み込ませ
記憶の欠片となっても忘れずにいられるように

大切なものがこの世にあると
失うからこそ護りたいのだと教えてくれた
おまえの命が私の命の在処なのだ

穢したくない 今は未だ早い
おまえが私をもっと欲しがるまでは
おそらくは耐え難き日々
だが譲れぬものも在る
おまえを包み護るはこの私
私のこの腕でなくてはならぬ
小さき指の先すらも触れて良いのは
この私だけだと

わかるなりん そう、おまえは知っておるのだ
りんは愚かにも私の何もかもを包もうとしている
だからこそ私も愚かな想いを抱いた
放さないと この先どんなことがあろうとも
私の命の在処であるために

「殺生丸さま?」
「・・なんだ。」
「夢じゃないならりんは大人になっても幸せです。」
「・・・それでいい。でなくば・・」
「・・?」
「許さぬ。離れられると思うな。」
「はい。殺生丸さま。」
りんは気負うでもなく当然と答えを口にする
得難いのはやはりおまえそのもの

哂えばよい 憐れんでも良い
これは私の命 私と共に在るべき命なのだから
哂う者も憐れむ者もいずれ散る
散らぬものがあるとも知らず
そやつらを哂い憐れんでやろう
これほど得難いものを知らぬうちに死に行くなぞと

「殺生丸さま、そろそろ邪見さまが起きますよ?」
「・・・のようだな。」
「お着物着ていいですか?」
「良い。」
「ありがとうございます。」
「礼をするなと言うのがわからんか。」
「あっそうでした。ごめんなさい殺生丸さま・・」
「謝るな、とも言った。」
「あ・・」
私の意に反したことに萎れる様子を楽しむ
そしてその間違いの償いにとりんは私の頬に唇を触れる
軽くその唇を啄ばんでやると笑顔に戻る
これくらいの戯れは許されよう
今宵もまた眠れるりんを包むことを密やかに希う





殺生丸さまの密かな楽しみってヤツを書いてみました。
幼い子にセクハラ三昧の日々。頼もしいですね!(違?!)
ですが文中にありましたように未だお預け状態の兄です。(笑)