指 



長くてしなやかでとてもきれいな手
細くて滑らかに動くその指の美しさといったら
りんは羨ましそうに溜息をつきながらその手を眺めた
そして思わず自らの手を重ねてしまった
そうすると自分の手はなんて小さくてみっともないのかと思う
りんのがっかりした表情を窺いつつその賞賛の手の主は
その後どうするつもりなのかと好奇心をもって見守った
りんは優美でいつも自分を護ってくれる手を愛情込めて握ると
すぐに離して優しく撫で、それから人差し指でその輪郭をなぞり始めた
りんの指が愛でるように己の指をたどるのをされるがままになりながら
「りん」と低く響く声で耳元へ囁いた
びくりと反応して動きは止まった
ゆっくりと手の主を振りかえると
「ごめんなさい、嫌だった?」と不安気に問うた
「いや」短い否定の言葉とともにその手でりんの手を握り
引き寄せて広い胸にりんをやんわりと押し付けた
りんの小さな身体はすっぽりと腕の中に納まり
ぐっと力を込めて抱きなおしたとき小さく「あ」とりんの声が漏れた
「どうした」と優しく尋ねる殺生丸に「指が離れちゃった」と呟いた
「りんね、殺生丸さまの指が好き」強請るように手を伸ばす
殺生丸はそれに応えるように手を再び重ねてやった
「りんのこと支えてくれたり、慰めてくれたり、暖めてくれるよね」
「おまえの手もそうだ」と言われてりんは少し驚いたように顔を上げた
「りんの手も指もこんなに小さいよ」不思議そうに首を傾げる様はあどけない
「だがおまえの手も指も私を縋ってくれる」「私を強くしてくれる」
大きな眼を見開き淡々と語る殺生丸を見詰め「わたしが?」
「そうだ」
りんはとても満ち足りた幸福な瞳をきらめかせて微笑んだ
「ありがとう、殺生丸さま」「すごく嬉しい」
「礼などいらぬ」握る手に力が籠もり笑顔に射抜かれた男は堪らず
愛しい想いを口付けて伝えた
ゆっくりと離れたあと夢見るような潤んだ瞳で
「・・・触れているときこんなに嬉しいのは」
「二人で強くなっていけるからなんだね」
「分け合えるからだ」「すべてを」
再び重なる二人の影が月明かりに照らされて浮かぶ
愛し合うものどうしの触れ合いはそんな明かりなど必要ないというように
熱く二人を包みこんで甘く辺りを染めていった