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 委員長はさ、”生きてる”って感じる?

私はその問いかけに今でもずっと考え続けてる。
答えはきっと一つじゃない。そして私はどうしたい?

 
 呼び出しとか告白とか私には無関係だと思ってた。 
体験してみると予想以上に嬉しいものだった。けれど
その分苦しい。お断りすることには勇気が必要だった。
私は最敬礼した。告白の勇気に少しでも応えたくて。
しなかったが手でも握りたい気持ちだった。尊敬を込めて。
そしてどっと疲労を感じた。幼馴染は毎回こんなことを
経験しているのねと思うと前より見直せる気がしてくる。

 もし、もしも私が告白する側になったとしたら。
泣くかしら?スッキリするだろうか。傷ついてしまうかしら。
いいえ、告白を断ることを経験したら傷つくとは言えない。
負い目に感じたり傷つくなんてとんでもない。勇者なのだから。
私は私を想ってくれた人に深く感謝した。励まされもした。

 幼馴染でなくなるわけじゃない。多少ギクシャクしたとしても
そのうちなんとかなる。離れていってもきっと幸せを祈れるだろう。
そう思うと一人勝手に失恋するよりも勇気を振り絞るべきかしら。
一度そう考えてしまうとそわそわする。さっさと玉砕してしまえ。
びっくりするだろうか。そんな顔が見れたら胸がすくかもしれない。
もし幼馴染でいれなくなるかもと不安がってくれたらそのときは
距離を置くことは内緒で「大丈夫」と言え。そして笑うのだ。

 ドキドキして足が浮く。これはかなり生きてるわ。そんな感じ。
決心してしまってついその気になって、ふっとそんなこと思う。
私は彼のように身体を五感全部を燃やすようなレースはできない。
だけど人には人それぞれの生き方がある。私には私だけのがあるわ。
何も気にすることはないのよ。比較してどうこうなんて意味がない。
いつ言おう。いつがいい?私は時期に悩み出す。卒業式はベタ過ぎ?
それとも何気なくいつもの放課後?ああ難しい。答えのない問いは。
答えのない問いの方が人生よっぽど多いんでしょうけれど。


 「委員長?」
 「ひゃあっ!!?さんがく!!・・おどかさないで。」
 「脅したりしてないけど。こんなとこで何してんの?」
 「ちょっと紅葉を見てたのよ。その・・あ・秋だし?」
 「へー・・山の上のが綺麗だけどここにも銀杏あるんだね。」
 「以前から植わってるわよ。山以外もたまには見たら。」
 「うんまあそうだね。」
 「ふう・・」
 「あのさあ、委員長。」
 「な、なによ?あんた部活は?」
 「・・・付き合うの?アイツと」
 「へっ!?ああああんたそれどこで?!」

 驚いた。私がちょっと前に呼び出されたことを知っていたことも
相手に心当たりがあったような口ぶりも。そしてなにより・・
銀杏の木を背になんで私はさんがくにえーとこれも壁ドンてやつ?

囲まれた彼の腕の中は小さな空間。見上げる以外にできない。
上背のせいでほとんど影になっている二人の隙間が更に狭まる。
暗くて顔がよく見えないけれど怒っているように見える。

 「なんで?アイツと?いつから好きなの?」
 「ちょ・・さんがく?なにいってるのよ。」
 「きいてるんだよ。」
 「は・え・あ・だ・だからなんでそんな?」

こんなにも接近するのっていつぶりかしら?なんて呑気なことを。
つまり私は困惑してる。なにがなにやらどうしてこうなったのかと。
オロオロしていたけれどふと両手を彼の胸元に当てて押してみた。
失敗。距離は空くどころか徒労に終わった。ってまだ近付くつもり?

 「ちょっとさんがく、近いっ!くっついちゃう・・」
 「あたりまえでしょ?そうしようとしてんだから。」
 「や、だからイミ・・っひゃ・・っう!!」

待って待って待ってね。お待ちください。いまちょっとなんかっ
額にそのえーと、そのくっついた?よね?えええこれってこれって!
思わずぎゅっとつむった目を開けるのが怖い。だけどだけどだけど!

こんな時になんなんだけどさんがくからふっと汗の匂いがした。
走ってきたのかな。なんて私ったら意外に余裕あるじゃない、うん。

 「委員長のばか。オレ怒ってるに決まってるじゃない。」

苦しそうな声は耳元でした。肩に乗せるようにさんがくの頭が降りて
まるで抱きすくめられているようでさっきから動悸息切れ目眩がする。 
そうだわ、こういうときは深呼吸するのがいいのよ。でもどうやるの?
えーと落ち着いて。落ち着くのよ、私。こういう時慌ててはダメなの。

 「ど・どうして怒るのよ?私は何も」
 「!じゃあオレ以外と付き合うってどういうこと!?」
 「ふわっ!!きき急に顔上げて怒鳴らないで!誰が付き合うなんて」
 「・・え?」
 「私、お断りしたわよ。」
 「そうなの!?えっ・オレもしかして騙されたの!?」
 「誰に何言われたの?っていうかどうしてその人知って・・」
 「そんなことどうでもいいよ!なんだよもう!焦ったあー!」
 「こっちだって焦るわ!なんなのよこれ!?」
 「え〜・・・だってさ・・」

 さあっと風が吹くように視界が広がった。解放されたのだ。
ああ、世界はいつもどおりだ。安心した。彼に囚われた気がしてた。
ドキドキして苦しいけどそれはそれで心地良かったのかもしれない。
なぜなら解放された安心感と一緒に空いた自分の肩がとても寒くて。

寒さに気付いたら途端に悔しさがこみ上げた。もしかしていま?
意趣返しじゃないけれど、焦った彼にいま告白して砕け散るべきかと
私は軽く唇を噛んだ。クセになっているそれで口はへの字を描く。
可愛くないのだけどそれは小心な私の決心。泣くのは後だ。笑うのよ。

 「・・ちょうどいいわ。さんがく。きいてくれる?」

ふーはーと深呼吸したりして彼も緊張してたのかしら?意外ね。
ほっとして戻った笑顔が私のへの字口を見て固まる。幼馴染って
悲しいかなこういう時すぐにバレてしまう。でもそれも仕方ない。

 「さんがく。私・・私ね、ずっと前からあなたのこと」


 「すきだよっ!!」


 ・・・あれ?私いま最後まで言ってない・わ。すきって・・

 「先にいわないで!危ない・・これも先越されるとこだった!」
 「・・・はい・?」

 「なんでそう先にいっちゃうかな!早い。早いよ、もう〜!!」
 「なっ早いってなに!告白するのに順番とか関係ないでしょ!」
 「オレが先に言いたかったの!それくらいはオレに譲ってよ!」

 「なんでも先に一人でいっちゃやだ。」
 「私は置いてかれるほうでしょう!?」
 「置いてくのは委員長のほうじゃん!」
 「待ちなさい、どうしてよ!?説明!」
 「どうもこうも」

 「オレが生きてる気がしなかった頃も委員長はちゃんとわかってた。」
 「迷ったりしないでしゃんとしてた。オレえらいなって思ってたよ。」 
 「それにオレは自分のことばっかなのにいつも気にかけてくれてた。」
 「背は小さいままだったけど女の人になってキレイになってって・・」
 「勉強もできるからオレよか色んな世界に飛んでく可能性持ってて。」
 
 「好きって気付いたのもほんとはオレが先かどうかわかんないけど。」
 「けどさ、好きって言うのくらいはオレから、って思ってたんだ・・」

 さんがくがさっきから言いたかったことがなかなか頭に入らなかった。
もどかしさにイライラしながらきいていたけどやっとわかってきた・・

 「さんがく。私も好き。知ってたの?」
 「うん。なのにほかの誰かと付き合うとか・・びっくりした。」
 「それでここにきたのね。」
 「そうだよ。・・なんで笑ってんのさ。もーくやしいなあ・・」

 私は笑っていたらしい。そうしようと決心していたからかしら。
予想と違っていたからかも。だって私は知らなかったんだもの。
いったいどこを見てたの?私ったら。私こそ自分のことばかりね。

 「ごめんね、さんがく。私も一人はいやだわ。」
 「うん、よかった。じゃあいっしょにいこう。」

 幼馴染は手を伸ばした。その手に私も伸ばして重ねてみる。
そうしたら握ってくれたから握り返す。ああなんて幸せなの。

 「ひとりじゃないっていいものね。」
 「ひとりじゃないって気付いたのは委員長のおかげだよ。」 
 「そうね。失恋だってひとりじゃできないもの。」
 「えっ・・やっぱアイツのことすきだったの?」
 「じゃなくてすきになるって自分ひとりじゃだめってことよ。」
 「ああそうか。それでさあ、やっぱりオレはキミがいいんだ。」
 「そうよ、私も。さんがくがいいの。」

 銀杏の実が足元に落ちていた。花が散っても意味はある。
生きているのだもの。いつもこの時も。私たちは生きてる。

 微笑みあってこんな和やかな告白もあるんだなって知った。
でも思ったのはそこまでで、握っていた手を引いた彼の胸元へ
私は逆戻りして閉じ込められた。今度は背中に木はなくて・・
幼馴染の腕と胸に挟まれて、私は再び賑やかな心臓に悩まされる。

 「・・心臓にわるいわね。こういうことって。」
 「ドキドキして生きてるって気がするでしょ?」

 得意気に囁いた彼の顔が近付いたけど夕日のせいか暗くない。
瞼が震えるのが目に映る。瞳の中の私は彼に習って瞼を下ろした。
くっついた唇と胸が熱い。いっしょに生きてる。なんて素敵なの。