鬼の嫁入り・その一
〜昔話風殺りん〜



昔、或る所に殺生丸という男がおりました。
男は見目麗しい外見にそぐわぬ冷酷な男でした。
人望厚い地主の息子でありながら笑ったところを
親でさえみたことがないと噂されていました。
本人も何を噂されようが構わず人を嫌い遠ざけていました。
もう嫁をとってもよい年でしたが本人はそれを望まず
また怖がって誰も娘を嫁にやろうと思う者はおりませんでした。
ある年の冬、村で大火事が起きました。
村の半分ほども焼き、死者もでました。
殺生丸の父である地主もそのひとりでした。
逃げ遅れた者を助け命を落としたのです。
村の皆がとても悲しみました。
跡継ぎの男は父の死にも表情ひとつ変えることなく、
村人は”鬼のような男じゃ””鬼の嫁でももらえばよい”
そんな風に陰で囁くのでした。



年も明け節分が近づく頃、毎年神様は憂鬱でした。
「はあ〜、節分はもうすぐですね」
「毎年大儀なことです。間にあうのか心配になってきた」
神様は節分になると悪い噂のある者に鬼を遣わし
良い行いをしている者のところへ福を遣わすのです。
その神様は人の言う「福の神」で仕事は主に
鬼や福を派遣する先を采配することでした。
”神様”というのは役職名のようなものなのです。
ですからたくさんの神様がいてそれぞれの仕事をもっているのです。
愚痴を言う神様は溜息をつきながら仕事を再開しました。
「弥勒様」神様が呼ばれてそちらを見ると
小さな角を二つ頭に生やしたかわいい鬼が立っていました。
「ああ、次の鬼ですね。ちょっと待ちなさい。」
「はい」鬼は小柄で愛らしい顔をしていて鈴のような声でした。
「おまえは新顔ですね」神様が鬼を見てそう言いました。
「りんです。初めてお勤めします。」鬼に成り立てなのでした。
「そうですか、初々しいですね。」「さて、おまえは・・・」
「殺生丸という男のところへ行ってもらいます。」
「どんな悪いことしたのですか?」鬼は尋ねました。
「うーん、情を示さず親不孝とか書かれてますねえ・・・」
「おっとうやおっかあを大事にしないのは悪いですね!」
仕事に真剣な姿勢で取り組もうと意気込む鬼に頬を緩ませながら
「まあ、書類上はね。ほんとはどうだかわかりませんよ」
神様の言うことが飲み込めずに鬼は首を傾げました。
「この仕事をしているとだんだんわかってくるのです。」
「人は良い、悪いでは判断できるものではないのですよ。」
「殺生丸は悪いひとではないのですか?」神様に再び問い掛けました。
「りんは悪いひとを懲らしめるのがお仕事だと教わりました。」
「そうですよ。この男のところへはおまえが適任でしょう。」
「よーく懲らしめてやりなさい。」そう言ってにっこりと笑いました。
りんという鬼は不思議そうに神様にお辞儀をすると部屋を下がっていきました。
「・・・さて、どうなりますか・・・」
神様は無責任ともとれる言葉をつぶやきながら柔らかい微笑みを浮かべたままでした。


                  続く