What is a present?



クリスマスの5日ほど前、りんは訊いてみた。
「殺生丸さま、プレゼント何がいい?」
殺生丸が黙っているのでりんは説明を加えた。
「あのね、りんがサンタさんになって殺生丸さまにプレゼントしたいの」
「ほう」やっと反応した目の前の仏頂面の男は大して興味無さげに
「なんでもいい」と答えたがそれを予想済みとばかりにたたみ掛ける。
「なにかひとつ教えて、殺生丸さま」と熱心に懇願した。
「サンタクロース」とぼそっと言うのが聞こえた。
「そんなずるはだめよ」りんは口を尖らせた。
「どら○モンも同じだからね!」
何でも願いを叶えてくれるものという認識でりんは言っているらしい。
殺生丸は諦めて言い直した。「おまえしかできないことだ」
「? なあに、クイズみたい」りんはなんだろうと思案顔になった。
「楽しみにしている」そう言ったきり黙ってしまったのでりんは眉を顰めた。
「むー、なんだろう?」「殺生丸さま、ヒントは?」
だが読んでいた本に視線を戻したまま無視されてしまった。
りんは憮然としながら「あたししかできなくて、殺生丸さまのほしい物・・・」
とぶつぶつ言いながら台所へ引っ込んで行った。
その様子をちらと盗み見ながら、殺生丸は顔にわずかに微笑みを浮かべた。
”何を思いつくやら”そう思いつつ彼はイブの夜に期待をするのだった。


「邪見さまも明日帰ってくるんだよね」りんはカレンダーを見ながら独り言。
キッチンで料理の手を止めて予定を確認しているのだった。
もうほとんど出来上がっていて今はケーキ作りの最中だ。
皆へのプレゼントも用意したし、25日は皆でパーティだ。だが24日は予定が無い。
つまりは今夜だがあれこれとご馳走は用意したので二人でのんびり過ごすかと思っていた。
「あとはケーキだな」呟いたとたんオーブンから焼きあがりを告げる音がした。
「デコレーションして終わり〜v」今晩のケーキはシフォンにした。
「明日はズコットつーくろ!」りんは楽しそうだがふと眉間に皺を寄せて、
「あんまり食べたら太るよね・・・」皆に食べてもらうから明日は大丈夫だが
今夜は殺生丸と二人だからケーキが余るかもと心配になった。
うーん、でも無いのも寂しいし、甘さを抑えてあるから沢山食べてもらおうと決めた。
可愛いサンタとトナカイの飾りものせて完成品はなかなかの出来だった。
もうあとはあまり仕事は残っていないのでりんはエプロンを外して居間へ移動した。
「殺生丸さま、早く帰らないかなあ」「あ、でもプレゼント・・・」
りんは答えを用意したものの、いまひとつ自信が持てずに顔を曇らせた。
「りんにだけできることで、殺生丸さまのして欲しいこと」
りんはまた口に出してしまった。考えておそらく物ではないのだと目星をつけた。
「つまりりんがしてあげることで嬉しいこと」また口に出してうーん違うかなとうなった。
そこへピンポンと呼び鈴が鳴ったのでりんは急いでインターホンを取った。
「はい!」元気よく出るとモニターに写っていたのは殺生丸の母だった。
「お母さま、今日はダメなんじゃあ?」嬉しそうに訊きながらドアを開けると
ちょうどそこへ父親もやって来た。「メリークリスマス!りん」、「なんでおまえがいる?」
りんにはにこやかに、母にはむっとしながらそれぞれに声をかけた。
「おまえこそ、なんだ!パーティは明日だぞ」母もずっと以前に別れた夫を睨みながら言った。
「息子のためにプレゼントを持って来てやったのだ!」「りん、あの唐変木は?」
「殺生丸さまはまだなんです。どうぞお上がりください」とりんは微笑んだ。
『いや、プレゼントを届けにきただけだ』二人同時に言うのでりんはくすっと笑った。
「おまえも?」「・・・悪いか」顔を見合わせ複雑な表情の二人だった。
「気が合いますね、お二人とも少しでも寄って行ってください」りんがそう言うので
お茶を一杯だけということで両親は家へ招かれた。
「あいつはイブの夜にりんを独りにして何をやってるんだ!」そうと知った両親は憤慨した。
「お仕事ですから。それに早めに帰って来るって言ってくれたし」りんは庇うが聞き入れない。
「まだ帰って来ないではないか!」お父様落ちついてとりんはなだめた。
「プレゼントって何なんですか?」話をそらそうと言ってみると「おお、そうだった」
しかし父はそれは殺生丸に直接渡したいんだと言ってなぜか言葉を濁した。
母はもっていた大きな鞄から「私からはこれだ」と出した包みを解いた。
それは綺麗な二枚重ねのシフォンドレスでクラシックなデザインは少し大人っぽい。
アパレル会社を持つ母が自らりんのためにデザインした一点ものだった。
髪飾りや靴やバッグまで用意してあってりんはうっとりと言葉も無くしばらく見惚れてしまった。
「素敵!お母様、これをりんに?」りんは信じられないという顔でやっと口を開いた。
「これを着てどこかへ連れて行ってもらいなさい」母はウインクしながら言った。
「おまえにしては気がきくな」父が珍しく母を褒めたので母は妙な表情を浮かべた。
「実はあの馬鹿息子は気がきかんだろうから今夜の予約をしておいたんだ」と父が打ち明けた。
「え?今夜ですか」りんは用意したご馳走をどうしようかな一瞬思ったが、訊いてみると
「食事は軽くして行った方がいいぞ、りんでも飲めるようなカクテルを頼んでおいたが
りんは酒に強くないんだろう?」父は夜景の美しいホテルのラウンジを借りきって来たらしい。
「そのドレスを着て今夜出かけるといい」と父が楽しげに提案しているところへ殺生丸が帰宅した。
「・・・パーティは明日ではなかったのか?」後ろから声がかかって皆でそちらを見た。
「殺生丸さま、お帰りなさい!」りんがかけ寄り「お父様、お母様がプレゼントをくれたの」
りんが幸せそうに微笑んでいるのを見とめて「そうか」と優しい視線を返した。
早速りんは母に身支度を手伝ってもらうことにして居間を出て行った。
残された父は息子に「良い父をもっただろう」と偉そうに自慢するので
「いいかげん放っておいて欲しいんですがね、今日のところは感謝します」
珍しく素直な科白に父は大喜びで、「そうか、そうか」と頷いている。
「失礼して私も着替えてきます」と息子が去ろうとする際に父は息子に小声で
「ちゃんとスイートも予約済だからな」と囁いて、場所や手筈を伝えた。
「それはどうも」息子は少々あきれながらも「頂いておきます」と答えた。


「お食事、ご一緒したかったな」あの後両親はさっさと帰ってしまいりんは残念そうに言った。
「明日の晩会うだろう」と慰めたがもともと今日は会う予定はなかったのだ。
りんもそうだねと納得すると「綺麗だね」とホテルの窓の外へ目を向けた。
だが大人っぽいがりんに似合う上品なドレスと髪型のせいもあって殺生丸にとって夜景などどうでもよかった。
実はりんはあまりじっと見詰められるのが落ち着かなくて外へ目を向けるが心あらず。
「私へのプレゼントはどうなった」と殺生丸が尋ねるとりんは「あ」と思い出してどきりとした。
「いつもらえるんだ」せかすような質問だが口調は穏やかで試すかのようでもある。
「あの、りんね考えたんだけどはっきりわからなくて・・・」もじもじするりんに目を細める。
「りんだったらって考えたの」りんは思いきったように真剣に話し出した。
「りんは殺生丸さまから欲しいもの無いの」「そばに居てくれれば何もいらない」
「だからね、殺生丸さまが欲しいものもそうなのかなって・・・」少し自信無さ気だ。
ちらっと様子を窺うと優しく愛しい眼差しが自分を見つめている。
ぱっと瞳を輝かせてりんは微笑んだ。「もしかしたら・・・当り?」
「だからサンタだと言ったろう」「おまえがいれば他は何も要らない」
静かな声だが真剣な告白にりんは胸を突かれ思わず胸元を押さえた。
「りんがサンタだって言ったねそういえば」やっとの思いで明るく言ったつもりだった。
けれど語尾は涙が込み上げるとともに震えて掠れてしまった。
「・・・嬉しい」にっこりと微笑むとぽろりと涙が一筋頬を伝った。
殺生丸は長い指でそっと涙を拭ってやると「・・・だが」
「半分ははずれだ」りんは首を傾げて「どうして?」と訊いた。
「今夜はそれだけでは足らない」そう囁かれてしばらく目をぽかんと開いていたりんは
突然ぱぱっと火がついたように赤くなって黙り込んだ。
「そろそろ行くか」と席を立とうとする殺生丸に釣られるようにりんも立ちあがると
ほっとしたように「もう遅いものね」と帰る意を示して彼のあとをついて行く。
ところが「あれ?降りるんじゃ・・・」高いホテルのさらに上へとエレベータの階は増えて行く。
「殺生丸さま?」りんは不安そうにその腕を引っ張ると「どこへ行くの?」と尋ねてみた。
彼は答えずドアが開きふわりと毛足の長い絨毯の感触によろめいたりんをさりげなく支えながら
「せっかくのプレゼントだからな」と言った。
「何が?」腕に捕まりながら最上階の部屋へと辿り着いた。
「えっと・・・プレゼントって、何?!」
「決まっている」
ぱたんと部屋のドアは締まって答えはゆっくりとこれから・・・




            ☆ Merry Chiristmas! ☆