わたのはら



  ふわ  ふわ
  さら  さら
・・・いい気持ち・・・
  ふわ  ふわ
  うと  うと
・・・しあわせ・・・・

もしかしたら神様が住んでるっていう
天の国ってこんなのかなあって思う
あったかくて、気持ち良くて、ねむくなる
りん、ここにずっといたいなあ、だめかなあ
こんなに気持ちいいって誰にも教えたくないや
りんだけが知ってるんだと素敵なんだけどな

・・・すりすり・・・・
はー、なんてふかふかなんだろう
神様の国より気持ちいいかもしれない
真綿のお布団よりもっとふかふかだと思うんだ

ここはわたのはらで、どこまでもあったかいの
りんはここで伸びをしたりくるまれたりするんだ
誰も知らないふわふわのくに
朝がくるまでりんだけなの


「しかし、気持ち良さそうに寝ておりますなあ!」
「!!はっ、も・申し訳ありません・・・」
睨みつけられた邪見はそそくさとその場を離れた。
「それにしてもあの殺生丸さまを布団代わりとは、」
「りんのやつ、どんどん破格の扱いになっていっとるのお。」
「なんかちょ〜っと悔しいかも・・・」
独り言を漏らしつつ自分も離れた場所で休む。
それでもあの安心しきった寝顔はなかなか可愛いものだと思いながら。


お布団代わりの毛皮にくるまれたりん。
その持ち主の金色の瞳は子供の寝顔に留まったままだった。
安らかな寝息の方は耳に注がれている。
起こさないよう身動きせずにいてやっている。
時折むにゃむにゃと寝返るときも
はみ出てしまわないように身をそっと引き寄せる。
子供特有の匂いなのか、りんは甘ったるい。
従者の寝ている隙に髪に鼻を埋め、味合うときもある。
覚え込んだ匂いだ。もう間違うことは有り得ない。
いまは自身に包まれていて匂いは混ざっているのだが、
それがどういうわけか心地よく。
寝息に呼応して知らず輪郭をなぞったりもした。
昼間のやかましさが嘘のような静けさ。
柔らかで脆い人の子供。
そこがまるで至上の楽園のごとく
満足そうに、幸福そうに微笑みさえ浮かべながら。
夢みる中まできっと間違いなく微笑んでいる。
小さき手でたぐり、淡い頬を擦り、全てを預けて。
何故に私を愛しむ。


りんは夢を見ていた。
真っ白なわたのはらに大好きな妖怪と居て、
ふわふわと足元が揺れる。
くすぐったいのに少し困りながら身を任す。
「殺生丸さま、ここって天の国?」
「・・・」
「りん、とおってもいい気持ち。殺生丸さまは?」
「・・・」
「殺生丸さま、大好き」
「・・・」
「ずっと一緒に居たい。」
「・・・」
「何か言って、殺生丸さまあ。」
「りん」
「はい。」
「どこへもゆくな。」
「はい!」
りんが幸せそうに微笑んだ。
そして妖怪も微笑んだようにりんは思った。
「きれーい!殺生丸さまも、ここも。」
「りん」
「はい。」
「おまえの居場所は私の元だ。よいな。」
「はーい。知ってるよ。」
「なら、よい。」


「何を笑っているのか・・・」
殺生丸は眠りながら笑っているりんの頬をつんと突ついた。
りんは突然、くしゅっと小さなくしゃみをした。
すぐにおさまったが、毛皮で顔まで覆いなおした。
夜空には美しい星が瞬いていたが殺生丸はそれを見ることはない。
腕に抱いた子供に神経は束ねて注がれていて
子供が眠りつづける限り、じっと包みつづける。
目を閉じるとりんと二人でわたのはら(海)に漂っているかに思えた。
このまま、いまはこのままで。
天も地も海も空も、なにもかもに包まれ
どこまでもふたりだけで居たいなどと
りんがいつも夢に描く口には出せぬのぞみを
寝息のなかに聞こえたような気がして苦笑した。


  ふわ  ふわ
  さら  さら
・・・なんていい気持ち・・・
  ふわ  ふわ
  うと  うと


ここはわたのはら
夜の帳に、ふたりだけがただよう温もりの海
二人の想い溜まる場所