つめあと



りんはそれを見つけてはっとしてしまった。
そして眉を寄せて済まなそうに俯いて言った。
「ごめんなさい・・・殺生丸さま」
その様子に殺生丸もまた眉を顰めて
「何のことだ?」と訊いた。
「えっと、その背中に・・・跡付いちゃってて・・・」
恥かしそうにもじもじとしながら呟くりんに
「ああ、それか。」「かまわん」とあっさりと答えた。
「でも・・・痛そう」りんは顔を上げた。
とたんに顎を捕まえられて軽い口付け。
驚いた顔で相手を見ると嬉しそうな表情が待っていた。
首を傾げるりんは「どうして?」と尋ねた。
「寧ろ嬉しいくらいだが。」と可笑しそうに笑う。
りんは大きな目を丸くして不思議そうに
「だって結構目立ってるし・・・」
「痛くなどないから安心しろ。」とやはり微笑んでいる。
「ほんと?良かった。・・・でもなんで嬉しそうなの?」
そんなことを尋ねるりんにあきれつつも
りんらしいとも感じて余計に可笑しさが込み上げる。
そんな様子にさすがのりんも少々むっとしたようだった。
「可笑しなこと訊いた?」
「さあな。」答えは返ってこない。
むうと眉を顰めて「教えてくれないの?」と口を尖らせた。
にやりと先程とは違う笑みが浮かび、殺生丸はりんを見つめて言った。
「では詳しく教えてやろうか?」
瞳の奥がきらりと光ったような気がしてりんは戸惑った。
「・・・」「やっぱり、いい!」りんは断った。
「そう言うな、教えてやる。」明らかに面白がっている。
りんが訝しんでいると身体を引き寄せられて胸元に押し付けられた。
りんの髪に大きな手を差し入れて頭ごと上向かせ、耳元へ唇を近づけた。
囁くようにりんの耳に低い抑えた声が響いた。
とたんにりんは真赤になって身を捩り、その行為と声と言葉に震えた。
振り払うように首を振り、顔を隠すように胸に埋めてしまった。
「りん」声がりんの身体に直接響く。
呼ばれてもりんは顔を上げようとせずいやいやとまた首を振った。
そんなりんを抱きすくめるとまた耳に唇を寄せ、耳たぶを甘く噛んだ。
「あっ」小さな声がりんから漏れて顔を少し上げた。
噛んだ耳を離すと舌でゆっくりと耳の輪郭をなぞり始めた。
「やっ、あ・あ・あ・・」
りんは目をぎゅっと瞑って耐えるような格好だ。
だが舌は動きを止めずりんの耳の中にまで這わされる。
りんがその感覚に喘ぎ出したと同時にりんを抱いていた手も動き出す。
その手が施す新たな刺激にりんの身体はびくびくと揺れた。
そして深い吐息と喘ぎが増し、りんの正気は麻痺してゆく。
いつのまにかりんはしっかりと自らの腕を絡め指先に力を込めていた。
ほぼ無意識にしていることでりんは加減もできずにただ縋りつく。
「お前が感じただけ跡を付ければ良い」と囁かれると
りんは身体全体を紅潮させ、恥かしそうに首を振った。
それが気に入らないという風に新たな愛撫による刺激がりんを襲った。
しかし実際は気に入らなかったわけでは無く、
羞恥で染まるりんの様子が更に男を煽っただけのこと。
火の点いてしまった二人は絡み合ったままベッドに沈んだ。
りんは感じた証をさらに男の背や腕に残すこととなった。
ベッドの軋みが激しさを増すと同時に二人の呼吸も苦しさを増し、
感電したように身体は跳ねてりんの指は滑り落ちていった。
りんの残した爪跡からは麻薬のような甘い痺れが零れ落ち
満足そうな男の身体を余韻となって包んだ。
荒い息の下でりんは「くやしい・・・」と漏らした。
「ならもっと深い跡を付けろ」
「いいの?」と涙で潤んだ瞳で見つめた。
「望むところだ」
「!!!」
りんは悔し紛れに殺生丸の腕に噛みついた。
「そら、もっと噛んで見ろ」
「〜〜〜ん〜!意地悪・・・」
「どうした、私も噛んでやろうか」
りんは自分が躾をされている子犬にでもなったような気がした。
「殺生丸さまってどうして夜はそんなに意地悪なの?」
「これしきで何を言う。」
「!もっと意地悪なことするの?!」
「どうしてやろうか・・・」
「殺生丸さま・・・りんのこと・・・いじめたいの?」
「いじめてなどいない。お前の爪痕と同じだ。」
「?」
よくわからないと憮然とするりんに微笑む。
愛しさの証は男を歓ばせる。
歓びはまた愛しさを募らせる。
爪跡は男の残した愛撫の跡と等しい。
目に見えるお互いに残す想いの断片。
想いに埋もれていたいと二人はまた
身体を擦り寄せ、唇も寄せ合ってそのまま
お互いの体温と想いに包まれてまどろんだ。