鬼の床入り
〜裏ばーじょん〜その参



りんが己の仕打ちに泣き出し、その顔を歪ませているのを見て
殺生丸は頭に上っていた血も次第に冷えていくのがわかりました。
今朝初めての口付けにりんが見せた反応はそうとしか思えないものであったのを思い出しました。
殺生丸が突然動きを止め自分を見下ろしていることに気付いたりんは
堰を切ったように大声で泣き喚き出しました。
「う・うわああああん!殺生丸さまのばかあっ、こんなのいやだあああ!」
子供のように泣きじゃくり殺生丸が途惑ううちに首根っこにしがみ付きました。
「ばか、ばかあ、嫌いだあ!ああーん」呆れるほどの泣き方でした。
しがみ付いたりんの頭を撫でながら起き上がり、殺生丸はりんを抱えて座りました。
赤子のように抱えられたりんは懐に顔を埋め泣き続け、殺生丸はじっと抱いていました。
やがてひっくひっくと泣き止んで落ち着いてきたのを認めると
「すまぬ」とひとことだけ殺生丸は詫びました。
「怖かったよお・・・」りんは安心したかのように呟きました。
よしよしと髪を撫でられ、肌蹴た着物を引き寄せながら殺生丸に向かって言いました。
「殺生丸さま、りんね・・・何だか解からないことばっかり・・・」
覗きこむ殺生丸に少し恥ずかしそうにして「あのね・・・」と告白を始めました。
「朝、殺生丸さまとせ、接吻したときから変なの。」
「胸がどきどきいうし、殺生丸さまのお顔見るとお顔が熱くなっちゃうし・・」
「殺生丸さまがりんに触ると熱くて溶けそうだった・・・」
「それから殺生丸さまと珊瑚さんが向かい合ってるのを見た時は、どきんとしてね。」
「ぎゅううっと胸が苦しくなって頭がくらくらしたの。」
「そしたらよろけちゃって、琥珀に助けてもらったら急に殺生丸さまが怒って・・・」
また涙腺が緩みそうなりんでしたが熱い視線を注がれているのに気付いてはっとしました。
「殺生丸さま?」りんは不思議そうにその眼差しを見つめ返すとまた頬が熱くなるのを感じました。
「・・・そうか。」としか言わないのに何故だかりんには嬉しそうに映りました。
「あ、あの、殺生丸さまは村に珊瑚さんみたいな綺麗な人もいるのにりんで良かったの?」
「ああ」返事は簡単なものでしたがりんはやはり胸を射抜かれたような気がしました。
「お前を誰にも渡さぬ。」と言われるとりんはくらりと眩暈がしました。
りんは殺生丸に抱えられていることが急に恥ずかしくなってきてしまい、
「どうしよう・・・まただよ、殺生丸さま。」震えるりんを殺生丸は抱き寄せました。
「りん」名を呼ばれただけなのにりんは胸が苦しくて返事もままなりません。
殺生丸の瞳に捕らわれたまま固まってしまったりんの唇がゆっくりと塞がれていきました。
徐々にりんの中へと忍び込んだ舌もまた蕩けるように熱くてりんは喘ぎました。
「はあっ!」離れたとたん空気を求めて深い呼吸をすると「息を止めるな。」と言われました。
「どうやって息すればいいの?」りんが潤んだ眼で問いかけると
答えの変わりにまた口付けされ、何度もりんに教え諭すように繰り返されました。
りんの身体の力が抜けていくのを感じると少し離れて「やり直しだ。」と呟きが聞こえました。
「何を?」りんがぼんやりとした頭で問う様を目を細めてみていた殺生丸は
「初めからな。」りんがその意味を考えているとりんはいきなり抱き上げられました。
驚いてしがみつくとりんはそのまま二人の寝室へと運ばれていきました。
「あの、殺生丸さま?何するの?」りんは怖々尋ねました。
「床を敷くからおろすぞ。」と言われ「え?!」と顔を蒼ざめました。
先ほどの恐怖が込みあがって身体が震えました。「あ、あの、さっきみたいなの、やだ・・」
答えは返ってこず、仕方なくりんは心細い顔をしながら
「殺生丸さま、さっきみたいに怖くしない?」と訊いてみました。
「ああ」「おいで」殺生丸はいつもの顔でりんに手を伸ばしました。
りんはこくりと頷くと差し出された手を取り、その手が握り締められるのを感じました。
何か言いたいような気がするのに言葉は紡がれず、しっかりと今度は身体ごと包まれるままになりました。
強張っていたりんは次第に力を抜いて温かく広い胸にとうとう何もかも委ねました。
それを確かめるとそっとりんの顎を上向かせ、掠めるように唇に触れました。
とくんと鼓動がまるで部屋中に響いたかと思うほど音を立てました。
何度かわからないほど唇を柔らかに押し付けられた後、何時の間にか深く繋がっていました。
りんの身体を徐々に力を込めて抱きしめていき、りんは力を入れようにも入れられません。
身を預けたまま長い口付けを受けて頭も痺れて何も考えられなくなっていました。
唇が離れたとき思わず漏れた吐息にりんは自分のものとは信じらずに赤くなりました。
”?いつのまに横になったんだろ・・・”りんは眼を開ける前と状況が変っているのを不思議に思いました。
開いた眼を殺生丸に向けると優しく熱い眼差しは真っ直ぐ見下ろしていて
りんはそれだけで溶けそうに身体が火照るのを感じて見詰め返す睫も震えていました。
”綺麗・・・殺生丸さまの瞳って・・・吸い込まれそう・・・”
「お前の瞳は美しいな」と自分が今殺生丸に対して思っていたことを言われて驚きました。
「殺生丸さまのほうが綺麗・・・」りんも思っていたことを口にしました。
ほんの少し驚いたように思えてりんは微笑み、「ほんとよ。」と付け加えました。
「私にはお前のほうが・・・」と聞こえたのはそこまでで続きは耳に這わされた舌のせいでわかりませんでした。
耳を弄ばれると自分でも驚くほど反応してしまい、汗がじわりと浮かぶ気がしました。
「・・・良いのか」と問われたのには返す答えが見つからず、首を振りました。
りんを眺めながら楽しそうな殺生丸に少し口惜しい気がしてきました。
しかし何か言い返そうと思ったとたん殺生丸の手がりんの乳房を捉えたのでぎょっとなり
何も言えなくなってしましました。指先と掌で先端や全体を刺激されると思わず声が出てしまいました。
その声が恥ずかしくてりんは頭に血が上るのを感じましたがどうにもなりません。
りんの感じやすさに舌でまで刺激が増やされてしまい、「ああっ!」と小さく叫んでいました。
手や舌は更にりんの身体の隅々へと反応を確かめるように滑っていきました。
「あ・ああ・あ・・・」恥ずかしくて堪らないのに抵抗できずにりんは喘ぎました。
怖くはないのですが羞恥がどんどん加速していってりんは泣きそうでした。
自身でも知らなかった感じやすい処を覚えられていっている、その焦るような想い。
りんは知らない自分が曝け出されていくことに困惑しながら
何処かに連れていかれそうな甘い期待感のようなものを微かに感じ始めていました。





                     続く