鬼の床入り
〜裏ばーじょん〜その弐



朝餉を済ますと二人は新婚早々ではありましたが仕事に出ました。
天気も良いのでりんは畑仕事に精を出し、今朝方のことはすっかり忘れていました。
殺生丸とは少し離れた場所にいたりんが向こうで手を振る人物に気が付きました。
「あ、珊瑚さーん、琥珀ー!おはようございますー。」元気に手を振り返しました。
二人はりんの所へやって来て簡単な挨拶を済ませるとりんに尋ねました。
「りんちゃん、疲れてない?朝から精出して。」気遣う娘は琥珀の自慢の姉でした。
りんも初めて会ったときからこの気立てよくさばさばとしていながらも
女らしく、その上凛として美しい珊瑚が大好きでした。
村でも評判の娘で嫁に欲しいと思う村の男が大勢いました。
「はい、大丈夫です。珊瑚さんありがとう。」りんは笑顔で答えました。
その横で琥珀は少し複雑な面持ちでりんを見詰めていました。
「りん、いつもと変らないね・・・」琥珀の何かはっきりとしない言葉に
「?うん、どうして?」りんはきょとんとした顔で聞き返しました。
「琥珀ったら、何言ってんのさ。」珊瑚に咎められ琥珀は下を向いてしまい、
りんはますます不思議に思いましたが横から珊瑚に「気にしなくていいよ。」と言われ
「はい。」と返事したものの妙な気がしたままでした。
「えっと旦那さまはどこかな?届け物を言いつかったんだけど。」
「あっちです。お届け物ってなんですか?」
「うん、これ、酒なんだけど重いから旦那さまに持って帰ってもらうね。」
「お酒?うわあ、これそうなんですか?珊瑚さんって力持ちなの?」
「ああ、結構ね。」珊瑚は家業も手伝う男勝りな所もあり、りんより背も高くて
体格も良く、りんはそんな処も憧れていました。
「隣村の鍛冶屋の爺さんからなんだけど旦那さまのお父さんの旧知の仲なんだって。」
「祝言のことを出かけて知らなくて、帰ってから慌てて父さん頼んだんだってさ。」
「そうなんですか。お礼しなくちゃ。村長さんにも。」りんは嬉しそうでした。
「じゃ、旦那さまんとこ行ってくるね。」珊瑚はにこやかに言って離れて行きました。
琥珀も同じような荷を抱えていて、これは俺が家まで運ぶからとりんに告げました。
琥珀に礼を言って二人は家へと並んで歩き出しました。
家の玄関に荷を置いた琥珀に「上がってお茶でも飲んでいってね。」とりんが言うと
「いいよ、気をつかわなくて」と何故かりんから視線を反らすように言いました。
どうしたんだろうと琥珀の顔を覗き込もうとした瞬間、りんはピタリと動きを止めました。
りんの目に殺生丸と珊瑚の二人がこちらへやって来るところが見えました。
珊瑚から受け取った荷物を持って歩く殺生丸に何か話し掛けているらしい珊瑚の姿。
二人が並んでいるところはなんだかとても絵になって、珊瑚の美しさは際立ちました。
何か言われて殺生丸がふと珊瑚の方を向き、二人は向き合う格好になりました。
りんはその光景にどきんと胸が鳴るのを感じました。そして同時に息苦しいとも。
琥珀に「りん、どうしたんだ?」と訊かれてはっと我に帰りました。
「う、ううん。なんでもない・・・」りんは動揺してつまずくとよろめきました。
それを咄嗟に琥珀が支えたちょうどそのとき殺生丸と珊瑚が玄関を入ってきたのです。
抱き合うりんと琥珀を目の当たりしてに殺生丸の顔色が変りました。
琥珀とりんはすぐに離れましたがその急な動作は却って誤解を招いてしまいました。
「何をしている。」殺生丸の冷たい声にりんは「何って・・・?」と疑問を口にし、
そのこともどうやらまた悪い影響を与えてしまったようでした。
「りんがつまずいたから支えただけだ。」琥珀はりんを庇うように言うのですが
それも逆効果でした。殺生丸は不機嫌な様子で「用が済んだら帰ってくれ。」と言いました。
「琥珀はりんちゃんに妙なことはしていないよ!」珊瑚の言葉は耳に入っていないようでした。
「帰れ。」と声こそ大きくはありませんでしたが有無を言わせぬ迫力で言われて
りんを気遣いつつ姉弟は帰って行きました。
殺生丸が徐に自分の腕を掴むまでりんはぼうっとしていました。
引っ張って部屋の中に押し込むように連れて行かれ、ぽいと捨てるように手を放されました。
「どうしたの?何を怒ってるの?せっ・・・」りんが質問を口にしたとたん、
りんはあっと叫ぶ余裕すらないまま殺生丸の大きな身体に組み敷かれていました。
「何をしていた。」もう一度さっきのことを尋ねられました。
「つまずいて転ぶところを助けてもらったって言ったでしょ!」りんは必死に答えました。
「お前から抱きついたかに見えたが。」殺生丸が何故そんなことに怒るのかりんはわかりません。
りんはなんだか腹が立ってきました。先ほど見た珊瑚と殺生丸のことを思い出すと
訳の分からぬ苛立ちまで感じて「そうだったらいけないの?」と叫んでしまいました。
そのあとりんはしばらく自分の身に何が起こったがわからないほどの恐慌を来しました。
両手を封じられ、両足の間に殺生丸の身体が進み入ったかと思うと帯を解かれていました。
怯えるりんの身体を乱暴に弄りながら殺生丸は問いました。
「教わったと言ったな、りん。」「あいつから教わったのか。」
殺生丸の言っていることがりんにはわかりませんでした。
「な、何を・・?」りんは本当にわからずに訊いたのですが「子の作り方だ。」と言われ
一瞬分からずにいたその意味に思い当たったとき顔を赤らめました。
りんは「子作り」のことを思い浮かべると今朝初めて知った接吻を思い起こし
俄かにそのことが恥ずかしく思えてしまったのです。
しかしその恥じらいも頭に血の上った殺生丸の誤解を更に深めてしまうことになりました。
殺生丸が更に烈しくりんを責めようとするのをとどめる術も無く
抗うことも出来ず混乱したまま次ぎ次ぎと襲ってくる感覚がりんを翻弄しました。
そしてとうとう込上げてきた涙とともに抑えていた声を吐き出しました。
「い・や・・!・いやだあ、せっしょうまるさまあ!」「やめてええ!」
りんは必死で叫びながら抵抗しようとしましたが男の身体はびくともせず
涙と汗にぐしゃぐしゃになりながら虚しく「や・め・て・・・」と懇願の呟きを漏らすだけでした。





                     続く