鬼の床入り
〜裏ばーじょん〜



殺生丸はりんのことを愛しいと思いはすれども
あまりの幼さと無邪気さに”コト”に及ぶのは抑えていました。
それほど焦ってもおらず、また嫁になると約束していましたので
他の男に奪われることはないと安心していたのかもしれません。
もちろんこのまま無邪気なまま大事にしたい気持ちもありました。
ただひとつ気になったのは村に住む若者の存在でした。
りんがこの村へ来て殺生丸以外で初めて出逢った少年です。
年は若いですが村長の孫息子で気立てもよく、頭が良いばかりか、
家業の鍛冶屋の仕事や野良仕事にしても逞しくよく働くのです。
優しい外見や物腰でりんもすっかり気を許し、仲良くなってしまいました。
気になるのはその琥珀という若者のりんを見る目でした。
どう見てもりんを特別な想いで見詰めていると解りました。
当のりんも無邪気に琥珀って優しくて大好きなどと言うので
りんの方にその気は感じられなくとも心配でした。
「男と二人きりになったりするな。」と窘めてもりんはきょとんとするばかり。
さっぱりその意味がわかっていないようでした。
一度少々手荒に腕を引き寄せ抱き寄せたことがあったのですが
りんは殺生丸を危険には微塵も感じておらず、されるがままでした。
何も知らないりんに手を出すのはまだ年若い琥珀だろうと簡単なことだと思えました。
村の者達と打ち解けていくうちに琥珀がどんどんとりんに接して来るのです。
どうしてもそれだけは許せず、よく不機嫌になってりんを不思議がらせました。
ですがとうとう祝言を挙げることになってもうあきらめるだろうと思っていたのです。
それなのにりんに「嫌なことは我慢しないで何でも僕に相談して。」などと言う所を目撃し、
殺生丸は琥珀があきらめていないと悟って愕然としました。
祝言を挙げた日も辛そうにはしていましたが目はじっと美しい花嫁に注がれていました。
殺生丸はりんを手放すつもりは無く、まだ早いと思ってはいたものの
初夜の晩、りんを抱くことであのいまいましい若者から引き離したい欲望に駆られました。
ですが当夜、りんがさっぱり色気のない言動でそんな気も削がれてしまいました。
”まあ、急ぐこともないか”と思い直し、その夜は何も無く更けていきました。
りんを子供のように抱えて添い寝から覚めた朝、寝惚けたりんの唇に初めて口付けました。
ぼおっとしたまま唇が離れるとりんは意外にも恥ずかしそうに顔を赤らめました。
「どうした?」と訊くと「え、えーと。おはようございます。殺生丸さま。」
俯いて殺生丸の顔から目を反らすりんの顎を捉えて「昨夜その顔を見たかったな。」
と微笑むのをりんは大きな目を見開きながら首を傾げて聞いていました。
「あの、殺生丸さま。」「今の何?」りんが尋ねるのを面白そうに
「色々教わったと聞いたが」と意地悪く言いました。
「せ、接吻?」と言う言葉が最後まで聞こえるか聞こえないかの一瞬のうちに
りんはもう一度唇を塞がれ、今度は深く口付けられました。
ぎゅっと目を瞑り殺生丸に縋ると急に身体が浮いてしまい焦りました。
蒲団の上に押し倒されたからです。りんは急にどきどきと胸の音がやかましく感じました。
聞くと実際に感じるのとでは随分違うとりんは痺れていく頭の端で思いました。
「う、まっ・・・せっ」りんはなかなか思うように言葉が出なくて焦りました。
少し身体を放されてから「なんだ」と優しい声が掛かり、りんはほっとしました。
「殺生丸さま、よかったー!」少し怖いなと思ってしまったことを隠そうと元気に言いました。
「何が?」体勢がそのままなので顔が近くてりんはどぎまぎしてしまいます。
「殺生丸さま、なんかいつもと違うんだもの・・・」心細い表情でりんが呟くと
「お前も随分いつもと違うが」と怯えた顔を優しく撫でてやりました。
「そんなことないもん。でも・・・なんか」「ちょっとコワイ・・・」
殺生丸はこのままりんをと思いましたがその言葉を聞いて思い留まりました。
「お、お腹空いたね。」りんが気まずいのか話題を変えようとしました。
ふっと溜息をついて「・・・そうだな。」と殺生丸は身体を起こしました。
「飯にするか。」とりんに言う殺生丸を見上げながらりんはぼうっとしていました。
「どうした?もう少し横になっているか。」と肩に手を置かれりんはびくっとしました。
「りん?」驚いた顔の殺生丸に「あ、ごめんなさい!」謝ってりんは飛び起き
「ご飯、こしらえます!」と言って大急ぎで身繕いを始めました。
「慌てなくていい。」優しい夫の言葉にりんはにこっと笑いました。
ですが先程からの動悸が去らず、”なんだろう?同じ殺生丸さまなのに・・・”
りんは初めての途惑いと怖れと訳のわからない身体の火照りをごまかそうと必死でした。




                                続く