「恩返し」参



その指の優しさに嬉しさを隠せず、りんは微笑みました。
「殺生丸さま・・・」
見上げるその澄んだ瞳に妖の金の瞳も震えました。
「さっきもそうだったけど、殺生丸さまの目がとても綺麗。」
そういうりんの大きな瞳には自身が映されていました。
「きらきらして吸い込まれそう・・・」
うっとりとした顔つきでそう言われると金の瞳は僅かに絞られました。
「おまえは・・・困った奴だな。」
突然そんなことを言われてりんは大きな目を更に大きくしました。
「りん、殺生丸さまが困るようなこと言った?」
何もわかっていないのにりんは確実に殺生丸を揺さぶるのです。
その動揺を知れと言っても無駄なことも解かりきったことでした。
どこまでも信じ、慕い、そして己を誘う、それがりんでした。
惑わされてこんなところまで連れこんだものの、その無邪気さに屈服した敗北感を
どうにかして誤魔化そうと努力するもそれらをことごとくりんは打ち砕こうとし、
その匂いと所作と澄んだ瞳と柔らかな皮膚と体温で奪っていこうとするのです。
欲を抱いた己を嘲笑い、弄ばれたような気さえしました。
やはりこのまま甘い誘惑のままにまだ幼い身体を貪るか、否かと
今この瞬間も迷い惑わされているのが現実でした。
「殺生丸さま、ごめんなさい。りん、どうすればいいの?」
困ったように眉を顰める様さえ、不甲斐ない自身を責めているようにも感じました。
言葉で表現するのが不得手な面が表にでてしまい、つい黙ってしまいました。
りんはだんだん涙目になってきて、自分が何かいけないことをしでかしたのかと
不安を強く覚え始めていました。
「・・・好きって言ったら、いけなかったの?」
りんは先程までの自分の言葉を思い出し、思い当たる言葉を口に出してみました。
「りんは殺生丸さまを好きになっちゃいけない?」
見当違いな方へと想いが飛んでいき、少女の身体は震えだしました。
愚かで愛しいその姿にどう解からせて良いか迷ううちに
殺生丸は半ばヤケになったように思考を止めると
自分の言葉に傷ついているりんの唇を自身のそれで覆い隠しました。
あまりに小さくて柔らかいそれが溶けて消えそうに感じ怖れつつも
一瞬固くなった身体が徐々に解けるまで熱を与えるように触れつづけました。
りんが身を任せた頃にそっと舌でもって開き、口内を侵しました。
その行為は欲もなくただ相手に伝えたい、そんな無意識のものでした。
初めての感覚に目を閉じてされるがままであったりんも
次第にその想いを捕らえ、何時の間にか両の手で縋りつき受け止めようとしていました。
どれほどの時が経ったのかお互いに解からないほど二人は繋がっていました。
やがてゆっくりと繋がりが解けると、ほうっと溜息が零れました。
そのときのりんの充たされた表情がどれほど殺生丸を歓ばせたか
知る由もないりんは瞳を開き、恥らうように頬を染めました。
「・・・殺生丸さま・・・今の・・・なあに?」
口付けという言葉も知らないりんにふと揺るんだ口元を見て、
「教えてくれないの?」とりんは小さな声で拗ねるように言いました。
「いくらでも教えてやる。」と言うと再び口を音立てて吸い、
りんの顔中に雨のように口付けを降らせました。
そして留まることなく首、肩、鎖骨と熱い唇を這わせていきました。
「せっしょう・まる・・さま・・・そうじゃな・・く・て・・」
何と言う行為かと尋ねたつもりのりんは休みなく施されるそれに
溺れるように息苦しく喘ぎ出しました。
「あ・ん・・・は・・・・あ・・・んん〜」
りんはどうして良いかわからずにただ声を漏らし身を熱くして。
「・・・随分甘い声を出す。」
囁かれた言葉に更に全身を火照らせると唇は身体中を彷徨し始めました。
「はあっ・・あ・・」止めど無く声は流れ、男を楽しませ、
一度諦めかけた欲を思い起こさせてしまいました。
「りん・・・」
熱い吐息と囁きがりんの五官に響き渡ると
「せっしょうまるさま・・・」
応えるように切ない声が返りました。
あまりに素直なその姿に無け無しの理性でもって耐えた妖怪も
呆気なく欲望を滾らせてしまい、金の目はまた強い光でりんを射ていました。
「あ・・・」
気付くと無数の吸い痕と髪の貼りつく汗の雫がりんの身体を光らせていました。
”なんだ・・ろう・・・りんがりんじゃないみたい・・・”
酷く散漫になった思考は男の指の行方を止めるのも忘れ去り
びくついた自分の身体に驚いたのはりん本人でした。
「いたっ・・・せ・っしょうまる・さま? うっ・・・ああっ!」
弄られる身体の中心からは得体の知れない生き物がうぐめくかのような音。
おそろしくなってしがみついていた手指に力が入りました。
「りん、りんのなか・・・どうなってるの?怖い・・怖いよ、殺生丸さま」
りんは荒くなっていく息の下で未知の恐怖が襲いかかるのを必死で訴えました。
「怖れるな。何も考えるな、りん」
そう命じられ従うものの、涙は滲み、粟立つ身体と裏腹に冷えていく頭は戸惑うばかりでした。




                         続く