奥様は17歳 (その三)



 りんは暖かい感触を頬に感じてゆっくりと目を開けた。
すると自分を見つめている大好きな瞳があった。
ぽやんと見つめかえすりんに瞳は更に近づいていき
唇に再び暖かい感触を感じてやっと我に戻った。
「おはよう、りん」いつもの落ち着いた声がやさしく告げる。
「おはよう、殺生丸さま。」嬉しくて微笑んだ。
「あ、今何時?」思い出して時計を探すりんに
「まだ早い。大丈夫だ」と言葉の方が先に返った。
時計を確認してほっとすると、向き直り「起こしてくれてありがとう」とお礼を言った。
「朝食が出来たから、顔を洗って着替えて来い」
「え?今朝はりんの当番だよ、殺生丸さま」不思議そうに問う若妻に、
「昨夜、早く眠れなかったお詫びだ」と夫は答えた。
「あ!」昨夜のことを思い出しりんはぼっと顔を赤く染めた。
「あの、でもそれは・・・」はっきり口に出すのが恥ずかしいりんに
「妻の要望に応えたからな」とさらりと言われてますます顔を赤らめた。
「いやあ、殺生丸さま、やめてえ!」顔を覆っていやいやをするりん。
昨夜夫婦の営みの前、今朝は学校へ早めに出たいからと言っておきながら、
「やめないで、もっと」などと口走ってしまったのだった。
「私は嬉しい限りだが」真面目な口調が余計りんを恥らわせている。
「もう、勘弁して!りん、起きて顔洗ってくる。」急いでベッドから出てよろけてしまい
りんは支えられて見せたくない赤い顔を覗き込まれてしまった。
そのまま抱きすくめられて口付けされるとりんは降参して身を任せ、ひととき甘い口付けに酔った。
ゆっくりと唇が離れると「・・・続きは?」と聞かれて
「今はだめ・・・」りんは上目遣いで怒った風に見せたかったかもしれないが
赤い頬も潤んだ瞳も可愛くてベッドへ連れ戻したくなる。
なんとか踏みとどまって妻が身支度に向かうのを名残惜しげに見送った。



食堂には美味しそうな朝食が待っていて、りんは「いただきます」と挨拶した。
意外にも殺生丸は料理が得意で、海外であちこち暮らした経験もありレパートリーも豊富だった。
ただし掃除は嫌いで気がつくと本で埋まったり、あれこれと捜し物をしたりで
りんと暮らすようになって、家の中はすっきりと片付くようになり愛妻の評価も高まった。
りんは美味しそうに満足顔で「ごちそうさま」と手を合わせた。
「もういいのか?」コーヒーを飲みながらりんの様子を見守っていた夫が訊いた。
「うん、お腹いっぱい!」妻の笑顔に満足してコーヒーを入れてやる夫。
食器を食器洗い乾燥機へ入れて夫の元へ戻ってくるとピンポンとチャイムが鳴った。
「誰かしら?」りんが朝の訪問客を想像する間もなく、どかどかとやってくる足音が聞こえた。
「おお、早いな、りん。邪魔するぞ」元気でおおらかな声とともに大男が現れた。
「お父さま!おはようございます。」りんが嬉しそうに挨拶するとニッと頬笑み
「いい子だな。今日も可愛い」とりんの傍へ行って頭をなでている。
「・・・父上」不機嫌極まりないといった夫の声に驚くりん。
「お帰りください」冷たい視線を向ける実の息子に少しも動じることなく
「おまえに用はない。りん、今日は学校帰りに映画なぞどうだ」
「お父さま、お仕事は?」頻繁に遊びに誘う父を不思議に思うりんだった。
彼はりんがいたくお気に入りで、暇さえあればりんに会いにやって来る。
りんは両親を幼くして亡くしていてとても嬉しがったので余計に不憫に思ってかやって来て
当然だが新婚生活の邪魔をされる殺生丸にとって煙たがられていた。
そうこうしているうちにまた来客が増えた。チャイムも鳴らさず勝手知ったる振る舞いで
「また、来ているのか、闘牙」といきなりの声が降って来て皆が注目した。
「お母さま」「なんだ、お前こそまた来たのか」りんと父の声がダブった。





続く