お痒いところはございませんか?



りんが水浴びをしなくなった。
否、己の前で肌を見せなくなった---というのが、正しい。『悪戯』の後からである。
水浴自体は昼間、留守番の時に済ませているらしい。
恥仕方ない事とはいえ、嬉しくはない。もう、りんの育ち具合を正確に知ることが出来ないのだ。
もどかしいことだ。
今日も殺生丸は、りんの所へ夕暮れに戻ってきた。朝から奈落を追う為に、りんを残して出掛けていたのだ。
 「おかえりなさいっ」
りんは何時も通り、喜び勇んで駆け寄ってきた。りんの黒髪は濡れて、身体もこざっぱりとしている。のみならず、
 「何じゃ、阿吽と一緒に水遊びしとったのか?」
従者---邪見の言うとおり、双頭の飛竜まで濡れて湿っている。
 「遊びじゃないよ、練習だもんっ」
 「練習〜?」
りんの反論に、邪見は胡乱気だ。
 「うん。いつか、お狗様を洗うんだもん」
りんは、意気込んで答える。『悪戯』の一件以来、妙にそれに拘っているのだ。
 「…せっ、殺生丸様を洗うだとお〜っ!りんっ。お前、何て馬鹿な事を考えておるのじゃっ」
 「馬鹿なことじゃないもん。りん『しやんぷう』だって貰ったんだから」
りんが喚き散らす邪見の顔に、ズイと壷のような物を突きつける。
 「なんじゃ、コレは?」
 「だから、し、し、『しやんぷ〜』だよ。体を洗うものなんだって。この間、かごめ様が呉れたの。
 『お狗様専用』だからって。犬夜叉さんは使えないらしいの。ギャンギャン鳴くからって。
 『やっぱり、完全な犬じゃないと駄目みたい』って、言ってたよ?それで、りん、殺生丸様なら大丈夫だからと思って」
不思議がる邪見に一頻り説明すると、りんは期待を籠めた眼差しで殺生丸を見詰めた。
 「駄目じゃ、駄目じゃ!」
 「え〜。何で?殺生丸様も犬夜叉さんと同じなんだ?無理なの?」
反対する邪見に納得できぬ様子で、りんが殺生丸を窺う。
その言葉に殺生丸は不愉快になる。
 『犬夜叉と同じ』など、有り得ぬ。---自尊心を刺激された。
 「邪見」
  ドカッ!
 「あぁぁぁ〜!何故ですかぁ〜?殺生丸様ぁ〜!」
殺生丸はとりあえず、邪魔な従者を夕日の向こうに蹴り飛ばしておく。---これで、当分戻って来ぬであろう。
 「わあ!お狗様っ!!」
殺生丸が獣型になると、りんの歓声があがった。バフンッと勢い良く抱き付いて来る。
巨大な犬妖の姿に恐れもせず、嬉しげに頬ずる。
 「もこもこ〜!ふわふわっ!サラッサラッ!気持ちいいっ!」
 はしゃぐりんの着物を咥え、殺生丸は川へと向かった。




 「お痒いところはございませんか?」
りんは『しやあんぷう』という物で、殺生丸を泡だらけにすると訊ねた。得意満面だ。
殺生丸は答える気にもなれず黙っていると、
 「ふふっ。泡がいっぱい。ほわほわで、可愛いの」
りんが楽しそうに笑いながら、言い放つ。
 「きゃあっ」
殺生丸は『可愛い』呼ばわりされた意趣返しに、りんの着物を剥ぎ取った。そのまま川の浅瀬に押し倒す。
 「あんっ、・・・だめぇ、・・・やめてっ、・・・そんなとこっ、・・・殺生丸様ったらぁ・・・っ」
りんが嬌声をあげて暴れるのも構わず、殺生丸は全身を嘗め回した。
最近りんの成長の程を確かめられなかったので、殺生丸は良い機会とばかりに体中を検分する。
りんの色艶は良い---その事に、殺生丸は満足する。
拾ったときは、痩せて薄汚かった。
それでも、身体の内から発する匂いは良かった。そして、何より己によく懐いた。
慕われるのも、悪い気はしない---その事を、初めて悟った。
そして、今は。今では、りんが大人になるのを待ちわびている。
己を受け入れる事が出来る日を。
幸い、順調にすくすくと育っているようだ。
殺生丸は幼い女の秘花を、りんが悦び達するまで可愛がってやった。



 「りん、悪戯してないのに」
りんは拗ねている。
 「何で、りんはお仕置きされたの?」
既に獣型から人型に変化した殺生丸の膝に抱かれ、半べそである。
 「アレは仕置きではない。・・・お前も、悦んでいた筈だ」
殺生丸に指摘され、りんは泣き顔を更に真っ赤にさせる。それでも、納得がいかないという顔で、
 「・・・でも。りん、お狗様、まだ洗ってなかったのに」
恨めしそうに、涙の一杯溜まった黒瞳で見上げてくる。
りんが気絶している間に、殺生丸は泡を全て洗い流してしまっていた。
 「・・・また、一緒に水浴びすれば良いだろう」
 「本当っ?」
途端に、りんは眼を輝かせた。
 「ああ」
 「じゃあ、約束!」
りんは真剣な顔で小指を差し出してきた。殺生丸に念を押しておきたいらしい。
念を押しておきたいのは殺生丸も同じではあったのだが。
仕方なく殺生丸が小指を絡めてやると、
 「嘘ついたら針千本飲〜ますぅ♪指きったっ!」
りんは大喜びで歌い、指を振ってから離した。
 「約束したよっ。また水浴びしてくださいねっ」
現金なもので、りんはもうご機嫌だ。しかし、機嫌が良いのは殺生丸も同じである。
りんは『一緒に水浴びする』と明言したのだから。
但し、殺生丸は一言も『犬の姿』とは言っていない。
その事実に、りんが気が付くのは何時であろうか。
逢魔時の岸辺で、獲物を抱え込んだ猛獣のように殺生丸はほくそ笑んだのだった---。


    -終-





「狗神堂」のカナノさんからリンク記念に小説を頂いてしまいました。(驚)
「悪戯」という小説の続きになっていて、可愛らしいお話ですよね。
こんな贈り物が頂けるとは幸運です。いつも感想をくださってこちらこそ御礼が必要ですのに、
本当にありがとうございます。「裏」なのがちょっと心苦しいのですが、
アダルトサイトさまなので皆さまご了承願います。