旭光〜(後)〜



ふたりは「夜明け」を求めて旅だった
時が経てば訪れると気づいてはいなかった
離れているときの狂おしさと共に在るときの安らぎの
その落差についていけない
なぜ求めるのか答が見つからない
なぜ安らぐのかもわからない
お互いが寄せる想いはどこにでもあるようでどこにもない
そんな不可思議に思えて堂堂巡りする
まだ二人の飛んでいる空は暗かった



しばらくすると山の斜面を抉り取ったような一面があった
そこに巨石が積み重なっていて舞台のように見える場所がある
その舞台の中ほどへ静かに二人は降り立った
そこは自然の展望台のような所だった
りんは身体が離れるのを少し寂しいと思ったが
「ここ、殺生丸さまのよく来るところ?」と尋ねつつ離れた
「旭はここからよく見える」と殺生丸は答えた
「そうなの!?素敵!殺生丸さま、連れてきてくれてありがとう」
りんはそう言うと東の方へ視線を向けたがまだ空は暗い
少し寒さを感じて身を抱くようにするのを見て
殺生丸はりんを後ろからそっと包むように抱いた
幼い頃からの習慣かりんもすんなりとそこへ納まる
暖かさにほっとしたが突然思い出して殺生丸に
「どうして戻れないの?」とりんは恐る恐る聞いてみた
飛び立つ前に殺生丸が「戻れなくても良いのか」と言ったからだ
「りんはもう傍にいてはいけないの?」
答は返らず、りんは包まれて居心地の良いそこから抜け出し
向き直るように殺生丸を見上げた
見つめる金の眼は深く揺れるようで底が見えない
じっと見つめて答を待つと
「なぜ傍にいたいのだ」「私に何を求める」と逆に聞き返された
「わからない」りんの瞳も揺れた
「・・・さっきみたいに二人でいたいのかな」と眼を伏せてつぶやく
「ひとりで夜明けを待つのは寂しかった」「ずっと殺生丸さまを待っていたの」
「私がおまえを呼んだと言った」
「うん、声がして眼がさめるの、それで・・・」りんは顔を上げた
「私も夜明けを待ち侘びていた・・・」
「殺生ま・・・」最後まで言い終わることはできなかった
殺生丸に口を封じられたからだ
りんは唐突な行為に驚いて身をよじった
しかし執拗に重ねられやがて噛み付くようにりんの唇を啄ばむ
口は開かれ歯のうらから内を全て貪る
舌も絡めて吸い上げられ、りんの身体から力が抜けて行く
抵抗をあきらめされるがままにすると
いつのまにか横たえられたりんに殺生丸が覆いかぶさる
再びの長い口付けで身体が熱くなり眩暈すらする
ひどく痺れて舌が痛いし鼓動は早鐘となる
いったいどうしたというのかりんは理解が追いつかない
殺生丸はなにかに執りつかれたかのようで経験のないりんを翻弄する
やっと離れたと思ったとたん帯を解かれ
発かれるりんの白い肌は夜目にも鮮やかだった
今度は身体に焼け付く痛みが走り「あっ」と叫ぶ
落ちてきた唇と指がりんに更なる刺激を与える
柔らかなりんの胸に大きくて長い指が食い込む
焼け付く痛みは口で強く吸われたからだった
自分が何をされているかぼんやりとわかってきた
胸が絞られるように痛いのは指で揉みしだかれているから
先端を吸われたときはちぎれるかと思われた
りんも知らぬ間に涙が零れおちたが意味をなさない
喘ぐ声が自然と発せられて慌てて押さえこもうとした
聞いたこともないその声は聞くに耐えない恥ずかしい声だったからだ
それでも我慢できずに零れる自分の声はりんを打ちのめした
「は、ああ、あ、う、うん、」切れ切れに聞こえる自分の声に
身体はおろか頭にまで血が上り恥辱を味わう
苦しいのか感じているのか自分にもわからない
膝をすくって両足をたかくもちあげられ「ひっ」と悲鳴をあげた
りんの中心が彼の前に晒される
着物はいつのまにか一片もまとっていない
予想のつかない展開にただ驚き見開かれる目から涙が零れ落ちる
りんとは対照的に黙々と当然のごとく行動しているように見える目の前の男を
ほんとうに殺生丸なのかと濡れた眼を見開き確かめようとした
だが次に身に起こった事態にそんな思いも弾け飛ぶ
差し出すように晒されたりんの中心に指が下りてきてどうなるのか予想のつかぬまに
指でそこを開くように擦られはじめるとまた別の痛みと恥辱が襲う
「い、痛い!」りんは知らず爪をしがみつく彼の身体に立てていた
「や、やめ・て、い・た・・・」抵抗は虚しく途切れた
ふいに責めがやんだかと思うと今度は舌が這わされた
びっくりしてぎゅっと閉じていた眼を見開いた
痛くないのだがそのえも言われぬ感覚にじわじわと身体が震え出す
奥に舌を刺し入れられ指で敏感な周辺を弄られる
ぴチャぴチャと音が生じて自分の奥から生暖かいものが溢れるのを感じた
だんだんと息が荒くなり頭は痺れてぼんやりする
びくびくと掲げられた足が時折跳ねるのが視界に入る
抵抗が止んだのを待っていたのかどうか突然身体が離れた
ぼんやりと目をあけていたりんの目に見たことのないものが映る
殺生丸の身体の中心からそそり立つそれがりんの濡れた中心に宛がわれる
ぬるっとした接点に感じる異物感でやっとどうなるのか予想がついた
押し開き挿入されるのを感じたときりんは声を振り絞って叫んだ
「や、いや、やめて、殺生丸さまっ!」「あ、あああ、あ、やだあああああああ」
首を激しく左右に振って叫び声は引き攣れるような悲鳴に変わった
「ひっ!あああ、ああ、あ、あ、」腰を押さえられ深く根元まで挿入された
突き上げられる痛みにりんの爪も深く殺生丸に食い込んだ
しかしそれで終りではなく埋められたそれを更に擦り動かされはじめる
だんだん激しくなる動きで身体が千切れそうになり
気を失えたらと思えたが叶いはしなかった
どれほど耐えればよいのかわからず縋るように殺生丸を見た
だが眼に映った彼はいつもの彼ではなかった
絶望を感じているかのような蒼ざめて苦しげな様子に驚く
今自分が置かれている状況も忘れて心を痛め彼を思いやる
りんは自分が殺生丸を傷つけたのだろうかと思った
殺生丸さまは優しいからずっと我慢してたの?こうしたかったの?苦しかったの?
そう思ったとたん身体の痛みは軽くなったような気がした
思わず手を彼の頬に伸ばすと彼は動きを止めりんを見つめる
りんの差し伸べた手を握ってその華奢な指に口付けた
「りん」初めて聞く声がした
切なく掠れそうな声で「りん」と呼ぶ
「りん」泣いているのかとも思える声だった
「・・・殺生丸さま・・・」やっと名を呼ぶことが出来た
「殺生丸さま、大丈夫?・・・」
「りん」「私はおまえを傷つけたくないのに・・・」
「なのに欲しくて堪らない・・・」「もう押さえようもない・・・」
「殺生丸さま、りんは・・・」
「どうすれば」「どうすればおまえを・・・」
「りんは大丈夫よ、もう痛いって、嫌って言わないから、そんな顔しないで」
「殺生丸さま、傍にいたいのは・・・好きだから・・・それだけだよ」
「他に何もいらない」「りんをひとりにしないで・・・やめないで、もう怖くないよ」
殺生丸はりんの必死の訴えを聞きながら心のなかで何かが解けていくような気がした
ゆっくりとりんの首元へ甘えるように、許しを請うように頭を埋めた
何もかも委ねて力を抜き彼にしがみついてくるりんを強く抱きしめた
顔を上げお互いの眼を見つめ確かめるようにしながら殺生丸は再び動きはじめる
痛みはあったが先ほどとは違いりんは怯えずに身を任せた
だんだんと激しくなる動きに合わせ二人の息が荒くなる
どうしようもなく熱い身体は溶け合いそうになる
やがて何もかも忘れお互いを感じあえたような瞬間が在った
「ああああ、はっああっあ・・・」りんは恥ずかしさも忘れて声を出した
身体が何処かへ投げ出されるような浮遊感に似た感覚に襲われた
気が遠くなって抱かれたままりんは意識を失った



殺生丸はりんを抱いたまま汗をぬぐってやり乱れた髪を整えてやった
愛しい想いを込めて見つめ冷えぬように包み着物もかけてやる
呼吸が安らかになっていくのを確かめながら初めて味わう幸福に酔う
殺生丸にはこれまで女と交わることに心の底に嫌悪感があった
りんを傷つけてまで欲しいと思う己を愚かだと思っていた
父との会話をまた思い出す
”女を欲するのはそれだけではない””それ以外も在る”
”?”
”おまえにはまだわからんだろうが、いずれ解かる”
”私は女などに一生好きにはさせぬ”
”そうか”
父はそうかとだけ言って笑った
ただの繁殖行為、醜い自然の摂理と言ったのは己だ
幼い自分を今の自分も笑わずにはいられない
溢れ出す想いを確かめあうこともできると知らなかった
一人の女を愛し求めるなど考えもしない事だったのだから無理もない
だが気がつけばりんを欲していた
愛していることにさえ気づかなかった愚か者は私だ
自分を全て許して受け入れてくれるりんが教えてくれた
りんが神聖なものに思え、愛しさは重みを増す
ずっと見つめているとりんの瞼が動き眼を覚ます
その花開くようなさまを美しいと思い眼を細めるとりんが更に美しく微笑んだ
ふとまぶしさを感じてりんがそちらを向くと
東の空が輝きを放ちまぶしい日の光が二人を照らしていた
「きれい・・・」りんはつぶやいた
旭に見とれているりんの顔をくいと指で自分へ向けると
「私だけみていろ」と真面目な顔で殺生丸が言うので
りんは可笑しくなって微笑むと「はい」と答えた
「でも、旭を見に来たんでしょう?!」とりんがいたずらっぽく言うと
「旭よりおまえのほうが良い」と言ってりんをさらに紅く染めた
なにもかも夢のようにも思えるひととき
旭光に照らされた二人はぬくもりを確かめると
こうして共に在ることがお互いの真実だと思えた
他に理由などなくて良い
しばし黙ったまま寄り添い幸せを確かめる
山合いから射し照らす美しい光
その神聖な輝きはずっと忘れられない情景となり
二人の脳裏に刻まれ煌き続けた





END