火月・X 



痛々しい身体 熱に浮かされ
弱弱しい息 焦燥を呼ぶ
毛皮に包み 暖めつつ命確かめる
己のせいで命を削った娘 
愛しさを憎しみとすり替え
ひたすら思い知らせようと求め
傷つけ痛めつけた そして
全ては己に還り 命削られんとす
涙のあとを指で辿り 頬の熱さに身を抉られる
救いがたき愚行 後悔を知らず生きてきたものを
妖はただただ見つめ続ける 熱に浮かされる女を


喉を己の唾液で潤し 潰れんばかりの心の臓を聞く
りん、目を覚ませ わが名を呼べと声無き声
未來を見失い 妖怪は生死の狭間を知る
己の剣が命を救ったはいつのこと 
再び蘇るとは誰知らず 頼りなき証
祈りも知らず頼みも無く いずれ死ぬ命なれど
儚きは何 人の命か 我が想いか
永久に苦しもうと 傍に在れ
搾り出す願いが染みたのか 娘はうっすらと目を覚ます
「せっ・・しょうまる・さま・・・」
返事の代わりに覗き込み 身体絡ます毛皮を波打たす
「あったかい・・・」虚ろな目が彷徨う
「私がわからぬのか」声は掠れた
そっと手を伸ばし 妖怪を探す
手を握り引き寄せ 抱きしめる
「わたしを・・・置いていかないでね・・・」
置いてゆくのはおまえなのではないのか
「連れて行って・・・どこまでも・・」
地獄の底でもか この世の果てまでか
答えは声にならず 口付けて黙らせた
熱で熱く燃え 苦しげに顔を歪めた
荒く息を継ぎ 咽ると少し正気を取り戻した
「・・・殺生丸さま・・・」
やっと名を呼んだか 安堵で眩暈すらする
「りんは・・・悪い子?」
訝ると更に問う「りんが殺生丸さまをすきだといけない?」
「お願い、悪い子でも傍にいたいの」「痛くてもいいから」
「りんを噛んで」
何を想うのか濡れる瞳揺らす
「嫌いにならないで」「りんは殺生丸さまがすき」
何度も熱に浮かされるように懇願する
見ていられなくなり顔をりんの胸に埋めた
「・・・私を責めぬのか」「嫌おうと構わぬ」
「こんな苦しみは知らぬ」「それでもおまえが」
「りん、おまえだけが欲しい」
おそるおそる顔をあげ 女の瞳を覗いた
「りんも欲しい」「殺生丸さましかいらない」
女の瞳は燃えていた あの月のように





続く