火月・U 



幼子は歓び 犬妖怪は鼻白んだ
他妖怪の血の匂いすら畏れず 子ははしゃぐ
擦り寄った際 子にも血がついた
血に塗れて笑うその姿 気狂いにも見えた
妖の眼の奥に その姿は刻まれた
おまえを血にまみれさせる この快感は何ぞ
じっと見つめるその眼を知らず 子は微笑んでいた



あれからどれぐらい経ったか 子は姿を変えてゆく
匂いもともに少しずつ 女へと 
妖の眼にも鼻にもはっきり映しだす
どうする どうしたい 自らが女であることを女は知らず
変らない慕わしさで妖怪の傍らにあった
おのれこのわたしを惑わすか
いかなるものとて許されぬ



「いかがいたしました」老僕がいぶかしむ
主は答えず姿を消す そういえばりんは何処じゃ
消えた娘は水浴びしていた 妖怪たちに隠れたつもり 
まろやかな線を露にし 気持ち良さげに飛沫をあげる
夜目でも障りない 妖怪にとっては
ふと視線に気づく 女は背中で誰と知る
ゆっくりと振り返る 視線は身体につき刺さる
固まり見詰め 時が止まる
どうする どうしたい それが男であることを女は知らず
羞恥も知らぬ生娘は滴りおちる雫ごと
酷く無遠慮な視線に晒され 途方にくれる
見詰める男は獣の顔 見る間に姿も獣と化す
見上げた瞳は畏れたか
否 ただ見惚れるのみ 阿呆のごとく



ゆるりと近寄り喉元を舐める
女は声をたて 「くすぐったい、殺生丸さま」
どうしたの?と眼で問うが 答えなく
着けていた 白き襦袢を引き裂く
匂いはさらに馨しい
手を鼻面でどかされ 乳房がぷると震える
舐め上げられて硬く変る先端に 不思議そうな顔をする
「殺生丸さま、恥ずかしいよ」今頃言い出す
もう既にその身ほとんどが晒されているものを
未だ畏れぬのか 何も感じぬのか
これほどの視線にも気づかぬのか
呆れ果てども欲は留まらず 渇きで焦れる
犬から半分身を人形に戻す
女を押し倒し覆い被さる
相も変らぬ間抜けな表情
何故に畏れぬ 泣き喚かぬ
見せた牙さえ 驚かぬ
男の焦りは 押さえた腕からも牙からも
伝わらぬはずもあるまいに 女は訳を知りた顔
喉元のあてた牙により ぷつりと流れる血の匂い
女は知らず興奮し 男を更にかき立てた





続く