秘密



恋しいひとは居ない
身体中が呼んでるのに
もうあなたなしでは
到底満足できはしないのに

りんが何もかもを教え込まれ、妖怪のものになってからもうどれほどか。
少しずつ少しずつ、知らず知らず、もう以前のりんではなかった。
妖怪はりんを手に入れてから、どれほどその身を貪っただろうか。
飽くことなく求め、りんもまた何もかもを委ねて溺れていった。
気付くと妖怪の手や指、舌の先、ありとあらゆる所に残る妖怪の身体の感触。
何も考えずとも突然その感触が蘇り、ひとりの時に困ることが多くなった。
熱い息とともに囁かれた言葉が過ることもある。
烈しさに崩れてしまいそうな自身を不意に思い出してしまう。
身体を押さえてみても、何とか他のことで紛らわそうとしても
一旦火の点いた身体は妖怪を求めて熱さを増していく。
妖怪が自分に飽いてしまったらと思うと身は竦み、氷のように冷たくなった。
自分の指で慰めることを知ったのは最近のこと。
どうしても抑え切れず、唇に這わせたのが始まりだった。
指をしゃぶってみた。妖怪のものとはかけ離れていて寂しさは募った。
それでもあのときを身体は思い起こし、湿り気を感じる。
恐る恐るそこに触れて見ると、やはり濡れていた。
りんの細く小さな指はぬるっと容易く飲み込まれてしまった。
それはそうだろう、もっとずっと大きな物を知ってしまったあとだから。
溜息をつきながら目を閉じ、指を増やしては奥をさ迷ってみる。
不思議なことに自分の指ではあまり感じられない。
それでも擦っては音を立て、あの波を思い出して見る。
身体が物足らなさを訴えているのがわかる。
指は休めず、もう片方の手で乳房を掴み、揉んでみる。
固くなった先を指で弄んでいくうちに息はだんだんと乱れてきた。
「ふっ・・く・・・あ・・・・あふ・・・」
微かな声が静かな部屋に響いた。
りんは何時の間にか涙をこぼしていた。
どうしてもいけない、達することができない。
「殺生丸さまあ・・・・」しまいに懇願するように名を呟き、
えっえっとすすり泣き始めてしまった。
情けなくて、切なくて、愚かな行為に対しても泣けた。
寝具の敷き布を手繰り寄せて泣いているとひんやりと風を感じてはっとした。
「・・・待たせた。」
その声にびくりとして身体中に熱が走り抜けた。
いつのまに寝所へ入り込んだのだろう、暗くてりんには気付かなかった。
そして恋しさに泣いていたことも何もかも見られていたのかと思い、振り向けなかった。
恥かしさに目が眩む。かたかたと身も震え出してしまう。
しかし、後ろから妖怪の手がりんに触れた瞬間、歓びで我を忘れてしまった。
「殺生丸さま・・・」夢中でその胸に飛び込んだ。
縋りつくと抱き返してくれて、更に歓びに身体が熱くなった。
「待ちきれなかったの・・・」ぽつりと告白した。
妖怪は何も言わず、りんを抱え上げた。
床へ腰を下ろし、目でりんに指し示した。
そこには先程からりんの痴態を楽しんでいたためか、熱くそそり立つもの。
りんは吸い寄せられるようにそこへ自らの腰を近づけていった。
ゆっくりと妖怪の身体に馬乗りになり腰をその中心めがけて沈めていった。
「くふっ・う・う・あ・」りんはぶるっと身を震わせ、背を反らした。
「いきなり奥まで入ったな。」
その言葉に顔が熱くなったが、事実りんはすっかり腰を落とし、繋がっていた。
だが妖怪はいつもの律動を刻んではくれなかった。
「好きにしろ。」そう言われて、りんは途惑った。
身体は覚え込んだ快楽を求め、燻りはじりじりとりんを支配する。
りんは自らの腰をゆっくり揺らし始めた。
「んっ・・んん・はっ・あ・ああ・・・」
「どうした、もっと腰を振らぬか。」
意地の悪い声が耳に届くが、りんはその言葉通り、腰を更に烈しく揺らし始めた。
「あっ・あっ・ああん・はあっ・はああっ・・」
動きが烈しさを増せば、声もどんどんと大きくなっていった。
妖怪もまた、その目元口元に悦びを浮かべながら、りんをじっと見つめ続けた。
やがてりんが一際大きな声とともに達してしまうとぐたりと妖怪に崩れるように被さった。
「ひとりで楽しんで、ひとりでいくとはつれないことだな。」
言葉とは裏腹に嬉しそうな笑みが妖怪のその顔には浮かんでいる。
はあはあと荒い息をしながら、りんは悔しそうに妖怪の胸を叩き、
「・・・意地悪・・」と甘く切ない抗議をした。
りんを反対に床へ組み伏せ、妖怪は愉しそうな顔でりんの脚を大きく開いた。
「愉しませてもらったお返しをせねばな。」
りんは小さく震え、まだ涙の滲んだ瞳を潤ませながら見上げた。
「・・・お返し?」掠れた声で問うと妖怪の唇が降りてきて口を塞ぐ。
苦しさに喉を鳴らすりんを烈しく吸ったあと、一度唇を離しこう言った。
「ああ、たっぷりとくれてやる。」
その晩から夜明けまで、りんは悦びの声を上げて鳴き続けた。
執拗なまでに与えられた情でりんは幾度か気を失った。
りんが己を求めて自ら慰んでいたことを妖怪はもう先から知っていた。
怒るであろうなと妖怪はそのことをりんに告げなかった。
りんが身を焦がし己を求めている姿は堪らない。
故意にひとり待たせることもあるのをりんはまだ知らなかった。