Blind fish



深い海に漂うわたしを
暗い海に泳ぐわたしを
捕まえて光のなかへ
溶けて消え逝くのだとしても


脱ぎ散らした着物が波のようにひろがっている
薄暗く灯っていた灯りは燃え尽きて暗闇がひろがっている
その暗い部屋に衣擦れと何か滴るような湿り気を帯びた音
そして苦しげな喘ぎ声が漂っている
その懇願するような声は掠れ
すがりつくような腕は滑り落ち
硬く閉ざされた瞳から涙が滲みでている
このまま暗い海の底へ落ちて消えてしまい
闇と同化し身体すべてが感覚器官となる
そんな風に女は感じているのかもしれない
もう既に思考は絶え闇の海を流されていた
ただ身体はせわしなく揺り動かされ
その動きにあわせて声が漏れる
果てしない海の底には光がやがて差し込むことを
女は知っていて身を任せ漂っていた


やがて魚になった女は大きく息を吸い
ぶるぶると震えたかと思うとぱたりと沈んだ
僅かな光が窓の障子から忍び込んできた
夜明けらしいその光に女の身体がうっすらと浮かび上がる
女の身体は柔らかく瑞々しくまだ幼さまで感じられた
動かなくなったその身体を飽かず見つめる瞳があった
金色に輝きその身体の美しさと醸し出す匂いに釘付けされ
流れ乱れた女の髪にそっと手を伸ばし梳る
落ちている着物を手繰り寄せ女の上に掛けてやる
静かな光は次第に明るさを増し
障子越しのため極光のようにも見えた
照らされる着物の海に打ち上げられた綺麗な魚
至宝のごとく綺羅めき見つめる金の瞳は眩しそうだった


深い海から漂ってきたおまえを
暗い海から泳ぎ着いたおまえを
どうしても捕まえきれず
溶けておまえとひとつになりたい