月待草 



夜は好き ただじっと待っていられるから
昼は食べ物を探したりとかでわりと忙しい
空を行くときも 路を行くときも
いつだって待ってるのは変りないのだけれど

夜ふと目が覚めるときはたいていそう
帰ってくるのだ 多分この夜明けほどに
一陣の風が草を揺らして教えてくれるから
外へ出て天を仰ぎながら膝を抱えて待つ
月が出ていればそれを探すことも忘れない
お月さまのいる方から帰ってくることが多いから
私が起きて待っていると初めは少し驚いていた
だけど咎められたりしたこともない

いつもそんな風に待ってるわけではないけれど
こんな風に待つ夜がとても好き
ただひたすら待っていられるから
あなたのことを遠慮なく想っていられるから
草花の一つになったようにじっとしている
膝を抱えて小さくなるのは寒いからではなくて
この想いを抱きしめていたいからかもしれない
風が揺らすそのときが来るまで動かないでいる
月の出ているときしか咲かない花のように
私の想いはきっとあなたの元でなければ咲かない
咲いた花は胸の奥にずっと隠しておくね
あなたの傍がどれだけ幸せかを抱いておくために
あなたを待つ夜がどんなに幸せかを噛締めるように


待っている 待つことができる幸せ
あなたと私が共にこの世に在る歓び
私が年を取りいつか朽ち果てても
待っている きっと帰ってきてくれる
あの月よりも美しい光りに包まれて帰ってくる
思い浮かべると知らず微笑みが浮かび 楽しくなる
できるなら私の生きた目であなたが見られるうちに
この幸せを伝えられるうちに帰ってください
待っていられる 想っていられる幸せな私を
見つけてください 


ざわざわと草が騒ぎ 風が起こる
ああ・・帰って来られたのだ・・
立ち上がり 風の起こった方へと駆け出す
ほら 光り耀く姿が見える 嬉しい
「殺生丸さま!」「お帰りなさい」
あなたは何も言わないけれど
その瞳が私を映すと何もかもわかる
私が待っていることなんて知っているのだ
予感がして目が覚めることもきっとわかってる
何も問わずに冷えた私の身体を包み
少し諌めるように抱きすくめる


わかりますか
とても嬉しいこの気持
伝わりますか
満たされて幸福で震える身体
この安らげる場所
あなたにしかない

いつか枯れてしまう小さな草花
大地も空も水も全てが嬉しい
私はその嬉しさがわかる
花咲けるのは隠し切れないから
あなたはわかってくれるのですね
どれほど離れていても
私のことを
どんなに遠くへいかねばならなくとも
私はあなたを想っています