永遠の約束U 


    りんの細い首に主の手が伸ばされた瞬間、邪見は叫び声をあげていた。

 「殺生丸さまっ! お許しをっ」

  だが首は締められたわけではなく邪見を無視して主はりんに問うた。

 「死ぬまで共にいたいというならこの場で死んでも良いのか」

 「一緒にいたいの、ずっと、ずうっと。」

   「夫婦になると死ぬまで一緒だってきいたの。」

 「そしてもしりんを置いていっちゃうなら、死んで魂になったらついていけるのかなって」

   「ずっと傍についていられるかなあって・・・思ったの。」

   「・・・」

 主は黙ってりんの言の葉に耳を傾けていた。なぜそうまでして自分と共に在りたいのか

 そして自分もまたりんを救ったあの日からなぜ放っておけず連れて歩いているのか

   と自問しているのかもしれなかった

 ”あの日”腕の中で息を吹き返したりんの暖かさ、それは小さな灯火のようだった。

 そしてそのちいさなあたたかさを消したくなかった。

 りんの笑顔をみればその灯火は妖怪の奥深くで輝き、生まれてから一度も感じたことのない

 充足感を彼に与えた。その正体を確かめたくて共にいるのかもしれなかった。

 首に手を巻かれたままじっとしていたりんは深い色をたたえた金の眼に

 自分の気持ちとともに黒曜石の瞳を注いでいたが、ふっと首が涼しくなり

 解放されたことを知った。 

 「おまえの好きにすれば良い」

   突然そう言われて、一瞬目を見開いたあとりんは微笑んだ。

 「はいっ」「ずっと傍にいますっ!」

 緊張して見守っていた邪見もほっと肩のちからを抜いた。

 「りん」

 「はい?」

 「・・・ただ私は嫁にはなれない」「子は産めぬ」

   「えっ?そうなの!?」「お嫁さんの方がキレイじゃないと変じゃない?」

ずるーっと邪見が派手にこける音がしたが二人はかまわず

 「じゃあ、女がなるんだね、でもりんがお嫁さんじゃ、やっぱり変じゃないかなあ?」

 「あっでも子供ってどうすればできるの?りんでも産める?」

  「い、いーかげんにせんかっ!」

 邪見がガマンならんと顔から湯気を出しつつりんを叱り付けた。

「なんで怒るの、邪見さま。」

くってかかる邪見をみごとに無視して、りんは白い花束を主に差し出した。

 「はい、殺生丸さま。」

 「お嫁・・・じゃない、殺生丸さまに似合うと思ってつくったの。」

 幸福そうな笑顔を見つめながら花束を受け取るとしばし考えて

   「おまえがもっていろ。」とりんにつき返した。

   「嫁になるのはまだ先だがな」

 「え・・そうか、もっと大きくなったら子供産める?」

    「・・・ああ」

 「約束ね、殺生丸さま。」

 後ろで邪見がひっくり返っているのも気にとめず、ふたりは幸せそうだった

 くだらぬことだ・・・だがりんがずっと共に在る・・・

 それは私が望んでいたことかもしれぬ・・・理由などいまはどうでも良い


   刹那にも似た永遠の約束、誰も知らない誓い。ふたりはいま永遠のただなかに在る