時の絆



「殺生丸さま、みーつけた!」
逃げも隠れもせぬものをりんはそう言った。
「おかえりなさい!」と飛びつくと首に腕回し微笑む。
「今日は早かったね!お疲れ様」
母親か妻のような口ぶりのりんに邪見が口を挟んだ。
「こりゃっ!いっつも言っておるじゃろう、りん!」
「え、なあに?邪見さま」
「いいから、即刻殺生丸さまから下りるんじゃ!!」
りんの返事を待たずに邪見は地面へと擦り付けた。
「せ、殺生丸さ、ま・・・うぐ・・しどい;」
「どうして邪見さまって踏まれるのかなぁ・・?」
「地面が好きなのであろう」
「そうなの?!邪見さまってヘンだね?」
「それより、大人しくしていたか」
「はい、殺生丸さま!りん、いい子だったよ」
「そうか・・」
下の方でぶつぶつ聞えるが勿論気のせいだ。
首元にしがみついているので匂いがよくわかる。
りんの周囲には変ったことは無かったようだ。
日々刻々とりんは成長している。
そのはずであるのに抱き上げる度に少なからずの落胆を覚える。
軽さも無邪気さもそのままでと望んでいるはずであるのに。
眼差しは僅かずつその奥を覗かせているというのに。
私はりんの成長を待ってどうしたいというのだろう。
ただこのままでいいと思いながらどこか足りない己がいる。
「殺生丸さま、どうしたの?」
「・・・」
りんは私の眼を覗き込むようにして首を傾げた。
小さな掌をそっと私の額に添えて考え込む。
「いつもとおんなじだよね・・・」
人間はそうして体調を診るらしいが意味のないことだ。
だがりんの手が心地よいのでいつもしたいようにさせる。
「元気出して?殺生丸さま」
「・・・じっとしていろ」
「うん」
りんを引き寄せると耳たぶを咥え、甘く噛む。
いつものようにりんはくすぐったそうに身を震わせる。
耳から首を口で辿り、血脈に沿って鎖骨へと向かう。
軽く吸うだけでりんの肌は赤く染まる。
ぎゅっと目を瞑り、大人しくしようとりんは身を硬くする。
下で邪見が泡を吹いているのが鬱陶しい。
反対の耳も同じようにする間、りんは目を閉じたままで。
「慣れぬか?」
「・・う、ううん!大丈夫だよ、殺生丸さま」
りんはやっと目を開けて笑顔を作ってみせた。
「まだまだか・・」
「?・・いつも殺生丸さま、何を待ってるの?」
「さぁな」
「りんには内緒?」
「いや」
「じゃあ、今度邪見さまの居ないときに教えてくれる?」
私の耳にこそりとそんなことを囁きかける。
「ああ、そうしよう」
りんは今度は作らないいつもの無邪気な笑顔で微笑んだ。
「なんだか嬉しくてどきどきするね!」


そんなに知りたいか、りん?
そうだ、私も知りたいのだ
私がおまえをどうしたいのか
何を待っているというのか
おまえも知りたいのだな
さぞ不可思議であることだろう
私はおまえに待つことを強いた
そして私もまた待つことを強いられている
時だけが待たず我らを繋ぐだろう
そして我らに刻み込むのであろう
離れられぬ絆というものを