ちいさき手



花冠を編む。器用なものだ。
食べ物を口に運ぶ。幸せそうに。
髪を梳く。楽しそうに。
阿吽の手綱を執る。事も無げに。
その手は不思議なことに良く機能している。
小さく、からくりのような妙がある。
その先端にある申し訳程度の爪は砂浜で見る貝殻。
砂に紛れて踏み潰しても気付かぬほどの薄桃色。
そんなものにしか過ぎぬのにそこにあるを主張する。
見れば見るほど興が湧く。
その小ささに初めて驚いたのはあのときか。
我が騎獣である阿吽をりんに扱わせんとしたとき。
覚束ぬ手つきに手を貸した。
毒で消し去ったかと思うほど頼りなく。
しかしながら温かく、そこに在った。

「わあ、殺生丸さまの手、おおきいね〜!」
内心の驚きを呑気な声が遮った。
「でもおっとうより白くて綺麗。長い指だね〜。」
感心しながら我を振り返る。
「前を向いて、集中しろ。」
「はあーい!」
りんはすぐに手綱捌きを覚えた。
すっかり阿吽はりんも主と認めて服従している。
あの小さき手に摩られると嬉しそうにする。
そんな頃を思い出した。  
今掌に収まるその手は僅かに大きくなった。
だが変わり無いと感じる。温みも、小ささも。


「殺生丸さま、さっきから何見てるの?」
「手だ。」
「どうして?」
「変わらぬなと。」
「そう?子供の頃より大きくなったでしょ?!」
「味は変わらん。」
「! 殺生丸さま、くすぐったいよ。」
「美味い。」
「・・・子供の頃はそんな事しなかったのに。」
「匂いで味は判る。同じだ。」
「そうなの?でも、ほんとに食べないでしょ?」
「・・・」
「な、なあに?」
「何も・・・」
「嘘、何か考えたでしょ?!」
「手以外も確かめたくなったな。」
「ほら、やっぱり!」


小さき手が叩く、掴む、引掻く。
優しく誘う、甘く縋る。
その小さき手の雄弁なことが心地よく、
愛しさを宿して止まない。
この手によってのみ開く。
己の全てが。