(1)触発 



 くるくるした大きな目は酷く無遠慮で愛くるしく。
 瞳の持つ威力は日毎に増してゆくばかり。
 そして笑顔の破壊力ときたら、更にそれを凌駕するのでした。
 
 「殺生丸さまはどうしてりんのこと見てくれないのかなあ?」
 「あ?何を言うておる。」
 「だって、最近特にお顔をあっち向けられてる気がするの。」
 「自意識過剰じゃ、おまえの顔など見飽きたのじゃろうて。」
 「ええっ?!・・・そんな・・・でもそうなのかなあ?」
 「う、まあそうへこむな!別にいつものことじゃろうが。」
 「そんなことないもの・・・最近、特に・・・くすん・くすん・」
 「あわわ!お・おい、りん、泣くんじゃない!って、どっわ〜っ!!!!」
 「あ、殺生丸さま・・・お帰りなさい・・・」(邪見さま飛んでっちゃった)
 「何を泣いている。」
 「殺生丸さま、りんの顔、見飽きたの?」
 「?!・・・何を・・」
 「!!ほら、また!どうしてりんの顔見てくれないの?」
 「・・・別に・・」
 「お願い、りんを見て!」
 「鬱っとうしい。あっちへ行け。」
 「う・ひっく・・・う・あああ〜ん!」
  ああ、可哀想なりん。(+邪見)泣きながら走って行ってしまいました。
 ですが、妖怪は困り顔。その胸に浮び突き刺さっているのは・・・
 先ほどのりんの泣き顔。大きな目に大粒の涙。潤んで切なげな表情。
 そう、妖怪は目が合わせられないからりんを見ないようにしていたのです。
 その零れ落ちそうな目を見てしまうと心の臓が痛むからなのです。
 笑顔を見ると胸が張り裂けそうです。まして涙に溢れた泣き顔は・・・
 成長していく少女、りん。
 妖怪は初めただの下僕みたいに思っていたはずなのに。
 どうしてこんな思いをしなければいけないのか。
 実は妖怪はこんな風に一人の娘に想いを募らせた経験がありませんでした。
 おまけに相手は幼い人間の少女、理解も取り扱いもまるで初心者同然。
 「りんはまだ子供だ」と呪文のように繰り返す日々なのでした。
 ですがそんな風に悩み苦しんでいることをりんは知る由もありません。
 しかし殺生丸の想いは今にも堰を切る瞬間を待っているかのようでした。