篠笛 



「邪見さま、この綺麗な音なあに?」

「これは『篠笛』の音じゃ。珍しいことじゃな〜!」

「笛の音なの?とても素適・・・心が透き通るみたい・・」

「何か思うところがおありなのかもしれん、りん、おまえ邪魔をするでないぞ。」

「・・・うん。でも聞いてるのは良いよね?」

りんは邪見が去った後、笛の音に引かれるようにたどって行った。

すると広大な屋敷の片隅に辿り付いた。

邪魔をしないように距離を置いてりんはその笛の音に聞き入った。

「・・・何か用か。りん」

突然音が途絶え、調べに浸っていたりんは我に返った。

「あ、殺生丸さま。ごめんなさい、とても綺麗な音だったから・・・」

「・・・なら、何を泣く?」

「え?あ・・・」

りんは言われてやっと気付いたが頬は確かに雫を伝えていた。

「ほんとだ、変だね。悲しくなんてないのに。」

「今はこれしか吹けぬ。」

「他にもたくさん吹いたことあるの?」

「・・・母に教わった。片手ではこれしか吹けぬ。」

「あ・・・でも優しい音だった。殺生丸さまのお母さまもお上手だったんだね。」

「おまえも吹くか?」

「教えてくれるの?殺生丸さま、りん、嬉しい。」

「気に入ったならこの笛はおまえにやる。」

「え、どうして?だめだよ、大事なものでしょう?」

「吹かねば役にも立たぬ。」

「だって、さっき吹いていたじゃない。」

「覚えているか試しただけだ。もう吹くつもりはない。」

「そんな・・・とても綺麗だったよ?りん、夢を見てるみたいに好い気持ちだった・・」

「おまえが代わりに吹け。」

「りんではそんなに上手く吹けるかどうかわからないよ?」

「おまえはおまえの音を奏でれば良い。」

「りんの音?」

「そうだ。」

「さっきのは殺生丸さまの音なんだね。りん、とても好きです。」

「・・・・そうか。」

「はい、だから、また吹いてください。」

「・・・・気が向いたらな。」

りんは嬉しそうに微笑んだ。本当に美しい音色だった。彼はやはり優しく、美しい。

少女の眼差しに遠い昔の面影を思い出す。母と少女は似てはいない。

だがあのひとは『優しい音ね』そう言って微笑んだ。今のりんのように。

殺生丸はりんの音もまた優しく温かいのだろうと心のなかに調べを想う。

茜に染まる空を仰ぎ、殺生丸は愛しき少女の手に笛を持たせた。

「おまえが持っていろ。」

「でも・・・」

「その方が母も喜ぶ。」

「そんな・・・」

「覚えたら、私に吹いてくれ。」

「・・・はい。」

懐かしき音色は今も心の奥に響いている。

そしてこれからは、また新たな優しき音を響かせるだろう。




 
「篠笛の音」しのさんへお礼の捧げ物です。
いつもありがとうございます。