「お早う」から「お休み」まで 


当たり前なんだけれど、護さんは大人で
私は今はどうしたって子供扱いなのだけれど
現在の状況を心の底では歓んでいることを、
知られたくないけど隠し切れないときもある。

「お早う」と寝起き顔で言ってもらえること。
「よく眠れたか」とお父さんみたいな台詞も 
甘い砂糖たっぷりのカフェオレを啜る横顔が
とても可愛いことも。独り占めできる時間が嬉しい。
そして私のことをありのまま受け入れてくれている。
亡くした父母よりも敏感ではないかと思うくらいに。

迷惑を迷惑としないでくれる優しさが胸に染みる。
出来る限りの日常を与えようと努力してくれている。
そして私の心の中まで見えているのかって驚くほど 
濃やかに気遣ってみせる。言葉は少し乱暴だとしても。

「何が食いたい?今日は俺が作ってやる」

それは彼なりの落ち込んだ子供への配慮なんだろう。
なので子供に為りきって面倒な注文を押し付けてみる。
我侭であればあるほど嬉しそうな顔を見せてくれて
ドサクサ紛れに彼に擦り寄るなんて大胆な行動も起こす。 

「!!・・・護さん、なんですか!?」

胸が大きな音を立てて顔が自然と熱くなる。
偶に護さんの方から私に近付くといつもだ。
少し辛いこともあって気分が沈んでいたから
引き上げるつもりでしてくれたんだと思うけど
頭を撫でる手は優しいし、何より顔が近過ぎた。
思わず押し退ける格好をしてしまったけれど
動悸が伝わるのを怖れたからだ。だってだって・・
あなたは小さな子供にしているつもりなんでしょうけど
普段は誰からも怖れられているあなたがそんな無邪気に
頬刷りするなんてびっくりしてもしょうがないでしょ?

「おヒゲが痛いです!もおっ・・」
「そうか?そりゃすまん」
「ちっとも済まなそうじゃないです」
「む・・慣れないことするもんじゃないか」
「・・・ううん、嬉しい・・です。けど・・」
「?」
「ちょっと子供扱い過ぎます。」
「中坊なんざ充分子どもだろう?」
「ひど過ぎ!いくら私が子供っぽいからって」
「・・・ま、多少発育は遅めのようだな。」
「っ!!?・・・せっ・・・セクハラですっそれっ!!」

私は体中から火が出たみたいになって大慌てで彼を振り解いた。
ヒドイヒドイ!意地悪。見えないのにどうしてそんなこと・・

「まっ・護さんのバカっ!えっち!キライっ!!」

つい叫んでしまった。キライだなんて嘘なのに。ごめんなさい;

「お・おいおい・・・・!??」

「何やってんの!?今の声って遥ちゃんだろ?!」
「頭撫でたまではよかったらしいが・・怒らせた。」
「ちょっとおじさん何したんだ?!ダメだろ、女の子なんだからさあ・・」
「なんもしとらん。多少発育が遅いと言っただけだ。」
「うわあ・・;おっさんおっさん・・・そりゃマズイよ・・!」
「事実だろう?何がイカンのだ。」
「説明させる?!わかってないのなぁ・・可哀想に遥ちゃんも」
「嬉しそうにしてやがったんだぞ?頭撫でたとこまでは。」
「ハイハイ・・気軽に触るのはそこまで。」
「なんなんだ・・・わかるように話せ!」
「10年はかかりそうだよ、そんなの・・」




「・・どうしたの?遥。こんなとこで縮こまって。」
「あ・・いえなんでもないです。ほっといてください」
「まさかあのダンナに何かされた?顔真っ赤じゃない」
「ちっ違います!逆ですっ!!」

ぽかんとされるだけならまだしも大笑いされてしまった。
んもう・・女心のわからない人だわ。失礼しちゃう!
だけど、おかしくても当然かもしれない。私って子供だ。
こんなことで腹を立てているんだから。返す言葉が見つからない。
落ち着いて気を取戻そう。嬉しいことでもあったんだもの。

立ち上がり、伸びをしてみた。深呼吸で嫌な気分を一掃する。
一緒に居られて、少しずつ距離を縮めて・・私は護さんを知っていく。
現実は厳しいことだらけだけど、護さんがいてくれるから頑張れる。
いいんだ、子供扱いで。そうでなければもっと落ち着かないに違いない。
あの人と「お早う」から始まる一日が無事に「お休み」で終わること、
それらが今の私の幸せだ。学ぶこと、覚えることはたくさんたくさんある。
子供でいられる今を大事にしなければ。守られてばかりでいないためにも。



「・・遥。」
「!?・・護さん!」
「悪かった・・からその・・」
「謝らなくていいです。私こそキライだなんて言ってごめんなさい。」
「気に食わんことは何でも言え。それも謝る必要はないぞ」
「ありがとう!でも嘘だから。キライじゃないです、護さんのこと。」
「・・・・」

私は護さんに抱きついた。これで二度目。最初はとても驚いていたけれど
今度は護さんは慌てたりしないで私の頭に大きくて頼もしい手を置いてくれた。

「・・・無理して好きになることもないぞ?」
「!?無理なんかしません!怒りますよっ!」
「お?何故そこで怒る?!」
「護さんって鈍いって言われません?・・女の人から。」
「はあ?!・・言われるもなにも・・」
「もしかしてそれほど親しい人、いなかったとか?」
「生意気言うな。俺はそんな暇じゃなかったんだ!」
「・・・・ぷっ・・っくふふ・・」
「笑うな、ガキが勘繰るんじゃねぇ、そんなことを」
「何も考えてません。護さんが意外にもてなかったのかなとかそんなの」
「この・・・」
「きゃあっ!暴力反対。子供っぽいですよ!腹いせとか。」
「そんだけ小生意気な口が利けるんなら心配いらんと井川に言っとくぞ」
「どうぞ。いいですよ、困りませんから。」
「確かに子供にしておくには・・・」
「えっ!?」
「手応えがありすぎるな。おまえは」
「・・・・・・・・・・反則・・・」
「・・?」

私は全身から力がすうっと抜けて護さんに凭れかかってしまった。
時々とんでもないことを言うの。この人は危険だわ、もてないはずない!
過去にどんな人と何があったとしても・・・もう私と出会ったからには
浮気は許さないんだから。この人をよーく見張っていなくちゃだめだ。
ああ、どんどん好きになっていくのがわかる。護さん、責任取ってください。
私の運命はやっぱりあなたにあるの。この未来は揺るがないでいてほしい。
病めるときも、健やかなるときもずうっとあなた一人を思い続けますから。

「随分・・甘えるようになったな。」
「護さん、迷惑・・ですか?」
「いや・・我慢することもない。俺でいいなら」
「あなたがいいの。あなたでないとダメ。」
「・・・・いっぱしの女みてぇに・・・・」

抱き締めた胸の上から呟きが聞えた。そうよ、女ですもの。
わかってないでしょうけど。いいの、まだ言わない。
いつかあなたが私を一人の女として認めてくれるまで。
離さないんだから。覚悟してくださいね、護さん


私は目を閉じて優しい未来の伴侶に身を預けたまま、
はっきりと映し出される二人の姿へと想いを馳せる。







天然ジゴロ説!?ってわけじゃないけど。
単に剣術バカだから女とは深い関わり少なかったんだと思いまして。
気付かないうちに遥ちゃんにすっかり絆されて、降参すればいいですv
護×遥で初書き。楽しかったですvvv