幸せをあげる



四葉をたたえたものを見つけるのは難しい
それを見つけると幸せを運んでくれるという
しろつめくさの冠を作っているとき
それはやさしく笑いかけていた



「殺生丸さま」
いつものように草原で待っていたりんが駈け寄る
妖怪はその手に大事に携えられたちっぽけな草に目を留めた
だがすぐに興味なさげに少女の顔へと視線を戻した
「おかえりなさい、殺生丸さま」
少女の無事を見てとるとふわりと抱えあげる
驚いた風でもない少女を膝に乗せて妖怪は腰を下ろした
「あのね、これ見つけたの」
「・・・」
「この四つ葉は珍しいんだよ、りんとっても運がいいの」
「はい、これ殺生丸さまにあげる」
「・・・何故」
「持ってると幸せになれるんだって」
「そんなものはいらぬ」
「あげたいの」
「・・・」
「殺生丸さまが幸せだとりんが嬉しいから」
「いらぬ」
「・・・どうして?」
「いるならおまえがもっていろ」
「りんはいらない」
「何故だ」
「もう幸せだから」
「ならば捨ておけ」
「せっかく見つけたのに・・」
「りん、私が不幸に見えるか」
「・・・ううん・・」
「そういうことだ」
「そっかあ・・・」

少女はふんわりと微笑んだ
風がするりと通り抜ける
その風に誘われるように妖怪は少女を引き寄せた
もう四葉を見つけても摘むことはない
手の中に納まった少女はまどろむように目を閉じた
いつのまにか手からは幸せの葉はこぼれ落ちた
風に運ばれ、誰かさびしい人に届くといい
りんはあたたかい胸にもたれてそんなことを思った



「殺生丸さま」
「なんだ」
「・・・なんでもない」


〜そう、これ以上の幸せはいらない〜