お伽話し



「伽」・・・夜の退屈を慰めるために、寝つくまで話し相手などをすること。(人)

邪見は盛大に溜息をつき、大声でぼやいた。
それはもちろん主が傍に居ないことが判ってのことだ。
そうでなければすぐにでも空の彼方へ飛んでゆくこととなる。
「まあ〜ったく!困ったのお。主はまったく何を考えておるんじゃ?!」
「”夜伽”の世話に悩むのならばまだしも、何がかなしゅうて、こんな・・・」
「邪見さま。」
「やれやれじゃ。大妖怪、殺生丸さまともあろうお方が!」
「邪見さまったら!」
「いったい何処でおかしゅうなったんじゃ、やはりりんの奴めが・・・」
「りんがどうしたの?邪見さま!」
「煩い奴じゃな、だから、おまえがだな・・・って、うわあっ!な、なんでおまえがここに。」
「さっきから呼んでるのに何をぶつぶつ言ってるの?」
「は?い、いや、その・・な、なんでもないわい!」
「?なんだか怒ってるみたいだったけど、りんが何か悪いことした?」
「う、いや。そうではない。ただちょっとその、ぼやいとっただけでじゃな・・・」
「よとぎってなあに?邪見さま。」
「よっ!?っとっと・・・って、おまえはそんなことは知らんでよいわ!」
「さっきから変なの、邪見さま。それってお伽話しのこと?」
「う、ううむ、そのちょおおおおっと違うが、まあ、似たようなものじゃ!」
「りん、殺生丸さまにお伽話ししてあげたいな。」
「どわーっ!おまえはどうしてそう、余計なことを・・・」
「何よお、邪見さま。夜にお話しすることなんでしょ?!えーと、よとぎって。」
「そ、そっそうじゃが、その言葉は使ってはならん。女子は、いやおまえは禁止じゃ!」
「だめなの?どうしてかなあ。りんもおっかあがよく寝る前にお話ししてくれたよ。」
「うう、そうじゃなくてだな〜、共寝をすることを言うのじゃ、だから聞かんかったことにしてくれ〜。」
「ともねって、何?あ、一緒に寝るの?」
「ぐわー!?そ、そうじゃが、あからさまに言うな!」
「・・・それがどうしていけないことなの?」
「へっ?!そ、それはその〜、なんじゃおまえそんなことも知らんのか・・・」
「殺生丸さまと一緒に寝たらだめ?偉いから?」
「ま、まあ、そういうことじゃ。それはそれに相応しい女子が勤めるものじゃ。」
「殺生丸さまにお話し、したかったなあ。」
「そうじゃ、これを機会に言っておくぞ、りん。」
「本来ならば許されんことなんじゃ!夜寝る前に殺生丸さまにまとわりつくのは止めい。」
「え?だって、殺生丸さまは怒ったりしないよ。」
「そうじゃ。だからぼやいとったんじゃろうが!おまえなどにいつもいつも・・・」
「・・・だって、最近は夜もよく居てくれるし、お話ししたり傍に居たいんだもの。」
「おまえももう幼子でもないのじゃから、分はわきまえんといかん!」
「分って・・・?」
「さっきも言ったようにじゃな、おまえなぞが夜殺生丸さまの周囲を張り付いておったら、」
「それこそ、夜伽どころではなかろうが。」
「りんが傍に居ると邪魔ってこと・・・?」
「あまりはっきりと言うと可哀想じゃと思っておったが、そろそろおまえも気を遣ってだな・・・」
「うん・・・。」
「・・・・」
「あっ、殺生丸さま!」
「おお、殺生丸さまからもよく言ってきか・せ・て・・・やっ!!!!!!!」
「・・・」
りんがあっと叫ぶ間もなく、小妖怪邪見は空へと吸い込まれて行った。
「ああ、邪見さま!」
「りん。」
「はい、殺生丸さま。」
「おまえはいつも通りにすれば良い。」
「りん、お邪魔じゃないですか?」
「夜伽なぞ要らぬ。」
「りんがしちゃだめですか?」
その言葉にはさすがの無表情な妖怪の面にも驚きが浮かんだ。
「りん、殺生丸さまに寝る前のお話し、してあげたいな。」
「・・・」
「殺生丸さまの知らないお伽話しをたくさん聞かせてあげる。」
「・・・そうか。では・・・りん。」
「はい。」
「今宵より夜伽はおまえに申し付ける。」
「りんがしていいの?!嬉しい。」
「おまえだけで良い。」
「わあ、りん、頑張ります。」
無表情な妖怪は幼い勘違いをした少女を優しく見つめた。
で、その夜はどうなったかということは・・・
また、後日。



                         続く