鬼の床入り



村は整備も進み、やや不満気な殺生丸でありましたが
村人達にも手を貸してもらいながら順調に事は進みました。
りんはすっかり村の者達と打ち解けて、今や人気者になっています。
殺生丸はりんが自分以外と親しくなったことが内心面白くありませんでした。
しかしりんが楽しそうな様子に結局は勝てないのでした。
りんが村へやって来てもうすっかり暖かくなった或る日、
りんがお使いで留守の間に村長が殺生丸を再び訪れることがありました。
その帰りを見かけたりんは家へ戻るなり尋ねました。
「ただいまあ!殺生丸さまあ。」玄関へ走って飛び込んで来て
「村長さん、何のお話だったの?」と勢いづいて話し掛けると
「・・・」沈黙が返ったので不思議そうな顔になりました。
「? 殺生丸さま、どうしたの?」言い渋る男を促すと
「お前との祝言のことだ。世話をしたいと・・・」と打ち明けました。
「祝言って何?」まだりんは知らない事の方が多いようです。
「夫婦のなる儀式のことだ。」やれやれと教えてやると
「へええ?楽しそう!」りんは目を輝かせました。
「まだ早いと言ったのだが」視線を落として呟きました。
「なんでー?りん早くお嫁さんになりたい!」まるで遠足です。
「子供が子供を産むのか。」溜息交じりに言いました。
「なんでそんなに嫌なの?殺生丸さま」りんは悲しそうな顔になりました。
「嫌だとは言ってない。」少しばかり焦りました。
「だって・・・いつも早いって言うでしょ。」りんはじわりと涙を端に浮かべ
「りんが好きって言ってくれたのに・・・」とうとう泣き顔になってしまいました。
「わかった!泣くな、りん。」男は珍しく慌てて承知してしまいました。
「ほんと?!うわーい、嬉しい!」りんはころっと態度を変えて笑顔になりました。
目にはまだ涙がたまってはいましたので嘘泣きでは無いようでした。
しかし嵌められたような気がしないでもありません。
殺生丸は観念して「さっさと面倒は済ませておくか。」と言いました。
「面倒?祝言って面倒なものなの?」りんが訊いてみると
「おそらく。」男にとってはそうかもしれませんが諦めたようです。
「どんなんだろう〜?」りんは未知の行事に興味津々でした。
その後とんとん拍子に話が進み、想像以上にややこしいことをこなしてゆきました。
ですがとうとう祝言の日がやってきました。
殺生丸の幼くして亡くした母の花嫁衣裳に身を包んだりんは
思った以上に美しく、周囲も可愛らしい花嫁に感嘆の声をあげました。
殺生丸も雪のように白い衣装がこれほど似合うとはと驚きを隠せませんでした。
祝言はつつがなく執り行われ、夜は宴会が開かれました。
村中から祝福を受け、こういった行事には興味なかった殺生丸も
柄にも無く厳かな気持ちを味わい、幸せを感じるのでした。
こっそり覗きに来た神様は二人の気付かないうちに琥珀の姉を口説いていました。
賑やかな宴もおひらきになり二人は初夜を迎えることになりました。
「ねね、殺生丸さま、今日から一緒のお蒲団で寝るの?」
「・・・ああ。」旦那さまは少々緊張気味でした。
「わあ、嬉しい。」りんは無邪気なものでいつも通りに微笑みました。
「お前、ちゃんと教わったのか?」殺生丸は不安気に尋ねました。
無知なりんに色々とした知識を伝えるよう村長の娘などに頼んでおいたのです。
「え?お床入りの話なら聞いたよ。」事も無げに答えます。
「ほんとうか?」かなり疑われているらしく、りんはぷうとふくれました。
「もーう、大丈夫だもん!」しかし可愛らしいとはいえ色気に欠ける新妻でした。
「殺生丸さまこそ、大丈夫?」とやり返しました。
「何がだ。」むっとした殺生丸は次のりんの言葉にショックを受けました。
「殺生丸さまだってちゃんとやり方知ってるの?!」
その質問に頭を抱えてしまった殺生丸にりんは眉間に皺まで寄せて、
「この村で小さい頃から知ってるおばあちゃんが殺生丸さまのこと心配してたよ。」
「?何を。」抱えていた頭をあげて訊いてみると、
「殺生丸さまは子供の頃から人嫌いだったし、そういう練習を実際にはしてないかもって。」
「あ、あれ、どうしたの?殺生丸さま!」
「もう、いい。寝る。」すっかりダメージをくらった感じの殺生丸は蒲団に潜ってしまいました。
「殺生丸さまー、なんで?なんで?」りんがゆさゆさと彼をゆすっていますが
ヤル気を無くした旦那さまは起きてくれません。
鬼のりんは「りんだって初めてだもん、下手でも気にしなくていいんだよー!」と畳み掛けています。
そんな言いたい放題の新妻が困っておろおろするのを狸寝入りの旦那さまは
”しばらく放っておこう”とすっかり意地悪モードです。
どうすれば旦那さまがその気になるかなんてまだまだ鬼のりんには難しいようです。
やれやれせっかくの夜なのですがまったく良いムードは漂ってきません。
しかし旦那さまはそんなに落ち込んではいませんでした。
”まあ、これから少しずつ楽しむことにするか”と今後の計画を頭に描いているようです。
”そうだな、まずは・・・”


というわけでこの後どうなったかは皆様のご想像におまかせいたします。




                         お終い