夢の続き  


繰り返し見る夢 白昼にも 真夜中にも
綻びる花弁にも 茜の空雲に 吹き抜ける風に
いたるところに堂々と 病のように浮かされる

いつからとははっきり覚えてはいない
気付くと毎朝、その夢の欠片が残っている
”どうしちまったのかな・・?”と軽く落ち込む
夢の中のアイツはどうしてだろう? 泣いているんだ
現実のアイツはいつだって笑っている たまに怒るが
けれど大抵は夢の中とは正反対で偉そうで活き活きとして
だから違和感を覚え ”ありえないよな・・”と笑う

泣いている姿が辛くて手を伸ばす 掴めた事は一度もない
いつも霧のように消えて握り締められるのは己の拳のみ
言いようのない虚しさに包まれる 後味の苦い夢の記憶
昼間アイツの小さな手がオレに触れるたびにほっとする
軽く触れる髪も頬も温かくて オレの知っているほのかだと

「最近なっつんよくほのかのことじっと見るよね・・?」
「あ?・・そうか?」
「そうだよ。それに・・・何か聞きたそう・・」
「・・・オマエがオレに何か言いたいんじゃないのか?」
「えっ・・ウウン?・・・なんにもないよ。」

正直なほのかの顔には”嘘”だと書いてあった
オレはそれを確かめたいとは思わない 言いたくないのなら
コイツにだってプライバシーがある オレとは関わりない部分が
妙に突き放された気分だ もしかしたら本当の妹みたいに
大人になって離れていくことに 寂しさを感じているのだろうか
いつまでも傍には居ないだろう そんな当たり前が待つ未来
そんなことがこれほどまでに 空しいと感じるものなのか

ただ気になったのは 言い出せないオマエの言葉が
もしかしたらオレの予想とは違うかもしれないということ
オレには”もう来ないよ”とかの別れに関する言葉しか思いつかない
夢で見るのはおそらくオレから離れていくオマエ
言葉は聞えてこない ただ涙を零し”サヨナラ”を予感させる
オレはその腕を掴みたくていつも手を伸ばしてしまう
けれどどうしても届かない オマエは目の前からいなくなる
こんな夢を見るようになってどれほど経ったんだろうか


「ねぇ、ほのかって・・いつまでなっつんの『妹』かな?」
「・・・オマエは妹じゃねぇだろ?最初っから・・・」
「じゃあ友達?・・・それとも・・」
「なんか呼び名がないとだめなのかよ?・・・ただのオマエじゃ不満か。」
「そうか・・・そうだね・・ただのほのかでいいよ。」
「オレにどうしてほしいんだ。」
「ウウン、もういい。ごめんなっつん、変なこと聞いた。」

ほのかが一瞬泣き出しそうに見えて胸が鳴った
夢の中の顔がまた思い浮かんだ あちこちで浮かんでどうしようもない
今ここに居るほのかは実体だ 掴もうと思えば掴める
しかしずっとそうしなかった それはできないと踏み止まってきた
受け入れる準備をしてきたはずだ だから見る夢なのだと
そのときのためにも 深く関わらないようにと気遣って
押し切られて互いのことを知ったり知られたりすることに気を揉んで
ずっとそうしてきたつもりだった なのにいつのまに・・・

夢の中でも現実でも オレはもう これ以上
待てない 諦めきれない この手で掴みたい

「・・・オマエ覚えてるか?」
「・・・なぁに?」
「昔オマエに”待ってろ”って言っただろ。」
「・・ウン・・・言ってたね、何度も・・」
「それでずっと待ってんのか?オマエ・・」
「待ってちゃ・・・ダメ・・みたいな言い方だね?」
「それはオマエの自由だ。・・別に守る必要はない。」
「それって・・・もう待たなくていいってこと?」

ほのかの顔が歪んだ 泣き出す手前の表情だ
夢と現実が交差したように ほのかの瞳が潤んでゆく

「いやだ!約束したよ?!破らないで・・・なっつん・・」

涙がどんどんと瞳から溢れ出す 手品か魔法みたいに
オレは一呼吸置いて 今が現実だと認識してから拳に力を込めた

「だから、もう待たなくていんだよ・・」
「っ・・もうほのかは・・いらないの・・?」
「よく聞けよ。待つ必要ないっての、わかんねーのかよ?」
「わっかんない!どういう・・」

現実のほのかの腕は冷たくて細くていつも思うように折れそうだ
引き寄せると目の前に濡れた瞳がプールみたいに水を湛えて
高い飛び込み台に立っているような感覚に陥った 目が眩む
だがオレは高い場所が好きなんだ 目が眩むほどの高さが
心地良くオレを誘惑する ここへ来いと手招きするかのように

「オレも待ちきれなくなったんだよ。」
「・・・・ぇ・・?」

ほのかはまだ分からない様子で目を丸くし、首をほんの少し傾げた
丸くした拍子にまた一粒、堪え切れない涙がぽろりと零れ落ちる
それを舌で舐め取って零れ落ちるのを留めたあと 確かめた

「わかったのか?」
「・・・・ぅ・・ん・・でもよく・・わかんない・・」
「何度も言わせんなよ。」
「言ってよ・・・間違ってないか確かめるから。」
「オマエをこのまま離してなんかやらねぇっ!・・て言ってんだよ・・」
「・・・そう・・なの・・?なんか・・ホントっぽくない・・」
「なんだとう!?・・もうオマエが嫌だっつっても遅いぞ。」
「遅いのはなっつんじゃん!ほのかだっていつまでも待っててあげないよって・・」
「・・・そう言いたかったのか?」
「そうだよ待ちきれないって。でも『待たなくていい』って言われるのが怖くて・・」
「・・・そっか。そりゃ悪かったな。」
「いいよ・・ほのかは寛大だから・・」
「オマエさ、ホントはよく泣くだろ?ヤセ我慢しすぎなんだよ。」
「うー・・・ナイショにしてたのになんで知ってるの!?」
「じゃないかと思ったぜ。無理すんな、バレバレだ。」
「・・泣いたらブスになるんだもん・・!」
「へぇ・・じゃあ見たいからもっと泣けよ。」
「ひっど!なっつんって意地悪だねっ!?」
「泣き顔な・・・実は見飽きてるんだ・・・」
「え?!なんで?・・ちょっ・・」

もうあの夢は見ない 続きはこの手に掴んだから
離さないと握り返された手の温もりが応え合う
しっかりと繋いだまま連れて行くんだ 未来へと
今日からは 空にも 花にも 風や日差しにも
泣き顔でなく笑顔が浮かぶ きっと病にも似て
囚われて 繰り返すのは甘い薬のような言葉

腕の中は温かさで一杯で ずっと閉じ込めていたい
泣き顔は見飽きたはずだった 現実はやはり夢とは違う
嬉しそうな顔に浮かぶ涙は もっと見ていてもいい
夢でも現実でもオマエはオレを手招きする ここへおいでと
目が眩みそうになりながら そこへ向かうと恍惚が待っている

「ふ・・オモシレー顔!」
「ひどっ!もおおっ見ないでっ!」
「もっと怒っていいぜ?」
「ヘンな顔とか怒ってる顔ばっかりいやっ!!」
「なかなかイケテルぜ?」
「ウソツキ!なっつんなんてキライだ・・」
「オマエだってウソツキじゃねーか・・・」


何度でもみる度に 愛しさが募る 輝きが宿る
夢の中であっても この腕の中にいても
呼び寄せられ 幸福を手にする 生きる糧となる
続きはふたりで夢みよう 現実にするために