夢の中 


温もりを思い出すと寂しさが募る
笑顔が浮かぶと胸がつんと痛む
夢を見ると心がざわざわと波立つ
アナタに呼ばれたような気がして

鍵を預かってからも日々は過ぎて
持て余した時間もなんとかやり過ごして
それでも毎日家には足を運んだ
おかげで掃除は少し上手になった
泣きたいときは思い切り泣いた
誰にも見られなくて都合がよかった
元気を取り戻して暗くならないうちに帰る
夜眠るのが少し楽しみになった
一番確実に逢えるから
でも起きてるときもふっと振り返る
いつも気のせいで我に返るけれど
何故かいつも呼ばれたような気がして


「ほのか、おまえ何も聞いてないのか?」
「うん、お兄ちゃんもでしょ?」
「ああ、そうだけど・・」
「心配しなくてもそのうち帰って来るよ。」
「ほのか・・・」
最近お兄ちゃんがよく心配そうにしている。
気持ちはわかるけど、本当に行き先は知らない。
知っていたとしても行けないかもしれないけど。
そんなに心配そうな顔しないで欲しい。
私はそんな顔しないように気を付けてるけど
つられて寂しい顔になってしまいそうだから。

お兄ちゃんは友達を心配してるんだろうと思ってた。
けれど心配してたのは私の方だと兄の想い人が言った。
「ほのかちゃんのことが心配でたまらないんですって。」
「お兄ちゃんが・?」
「ええ。それに私も、ですわ。ほのかちゃん。」
「心配しなくていいのに。」
「そんな風に平気そうに振舞うからですわ。」
「・・・でも泣かないの。そう決めたの。」
「谷本さんが帰ってくるまで、ですか?」
「・・・なんで?」
「女同士だから・・・ですかしら?」
「お兄ちゃんのこと、好き?」
「私ね、ずっと兼一さんのこと弟みたいに想ってましたの。」
「・・・ふぅん・・」
「だから谷本さんの気持ちもほんの少しわかりますのよ。」
「わかんなくていいよ。」
「ふふ・・ほのかちゃんにはかないませんけれどもね。」
「・・・ふぅん・・」

ちょびっとまだ憎たらしい綺麗で強い人
言われてみれば少しあの人に似てるかもしれない
強くて綺麗で少し寂しそう・・・だった
お兄ちゃんは強くなった この人のために
私はあの人のために 何ができるだろうか


夢の中のあの人はやっぱり綺麗で
どこか寂しそうで 夜が似合ってた
でも私の名を呼ぶときだけは
違うのだ だから思わず振り向いてしまう

「なっつん!」

私も夢の中で一生懸命に呼ぶ
あの人はそうすると安心した顔になる
それが嬉しくて 胸が熱くなって
私も安心してまた前に向けるの


そうだ、私には何もできないことはない
あの人の名を呼んであげられる
あの人が呼べば答えてあげられる
それだけで幸せになれる

なっつん、ほのかを呼んで?
いつでも答えてあげるから
そんなことしかできなくても
あなたは優しく微笑んでくれるのだもの







次回予告を少し。兼ちゃんの出番です。
探し出したのは彼の悪友の力添えです。
ガンバレ、お兄ちゃん!!