夢見る頃は過ぎても 7 


”はなしてほしくない・・はなしたくない・・このまま・・”


ほのかは夏に想いの丈と同じくらいに強く縋りついた。
これまで自分は本当の気持ちから目を反らしてきたのだ。
夏に出遭ってすぐに恋をした。想いには気付かないまま時を重ね、
気付きそうになった頃に、”恋じゃない”と否定してしまった。
何故なら・・その頃には夏が暗い目をしていた訳やひねくれた行動の意味も
ほのかなりに気付いていたから。”ああ、夏は・・寂しいんだ”と。

不遇な出自、辛い家族との別れ、思うままにならない過去だったのだろう。
ごく普通に育ったほのかには想像の及ばないところが多かった。それでも
本能的に悟ったのは、夏が手に入れられないと思っている節のある家族を
心の底では求めているということ。けれど夏はそのことを諦めて拗ねていた。

素直になればいいのにとほのかは思っていた。簡単なことなのにだなんて。
ただそんな夏に好きだと告げても多分に受け入れられないだろうと思った。
防衛本能のようなものだろうか、求めていないのだから無理だなと諦めた。

叶わないと勝手に思い込むことで自分を守ろうとした。いつだって傍にいたくて
理由を探してまわって夏を追いかけた。そうだ、家族なら彼は求めている!
だから妹だろうが親友だろうが、どんな関係でもいいから近い存在になりたい。
夏の望む自分でいれば離れなくてすむ。そうしてずっと世話焼く振りをし続けた。


”なんて子供だったんだろ・・なっちは知ってた?ううん、きっと知らない。”

傷付いても特別になれなくてもいいですと宣言した山本が教えてくれた。
自分が大人になれない理由は・・自分の中にあった。認めざるを得ない。

”ちゃんと言うんだ。まだ振られてない。いや振られても――逃げてちゃだめだ!”







―――時を少し遡り、夏とほのかが屋上から飛び立った頃。


「お前!そこで何をしている!?」

夏との邂逅数分後、山本は一人の怪しい男を見つけて呼び止めた。
鋭い声で誰何された男は腰を抜かさんばかりに狼狽しながら振り返った。
管理室から出てきたのを一目見た時既に怪しいと感じた。周囲を窺う様子が
火事に遭遇して逃げてきた風体ではなく、妙に落ち着いていたのもそうだが
男の目元口元にうっすらと浮かんでいたしたり顔が激しい警告を授けたのだ。

「お・・お前こそなんだ!?」搾り出した男からは取るに足らない小者臭がする。
「俺は、かっ火事に気付いて逃げてきただけだ!何もしてはいない。」
ならば慌て過ぎだろうと、呆れる程の下手な芝居に山本も眉を顰めてしまった。

「それなら俺が一緒に行ってやるから着いて来い。」
「行くって・・どこへ連れて行くつもりなんだ?!」

山本はにやりと笑い「事情聴衆せねばな。さっき警察も着ていた。」
そう告げた途端、あからさまに男は悲鳴を上げ踵を返したのが決定打だ。
山本は遠慮なく男の片腕を捕らえ、背中へと捻り上げることで拘束した。

「うわあっ!なっ何をする!?離せ、離してくれ!痛いっ!!」
「これしきで情けない声を出すな。お前は事故に居合わせた当事者なのだろう?」
「うっ・・うっ・・・そ・そうだ・・!」

「ならば、何故逃げようとする!?」
「うるさい!俺には関係ない!」

じたばたもがく男の手指の一本が負傷していることに山本はふと気付いた。

「お前の利き手はどっちだ?・・その指は・・折れているようだな。」

山本が尋ねたのはまるきり素人の男にしては珍しい負傷の仕方だと感じたからだが
男は言い当てられたことに驚き口を滑らせた。それは男の運の尽きを示す言葉だった。

「これは・・あいつの・・白浜のやつ・・男がいやがっ・」

それは掠れた呟きだったが山本にははっきり『白浜』と聞こえた。
ぶちりと切れたのは山本の理性か、一瞬で逆上し男の肩関節を外してしまった。
男は失神し、糸切れた人形のように崩れ落ちた。あまりの苦痛の為か悲鳴ではなく
妙に甲高い音が喉から短く絞り出ただけで、目を剥いたまま哀れに横たわる。

「お前がっ・・ほのか先輩を!」

山本は噴き上がる怒りが抑えきれず、両の拳を握り締めた。
男への憤りを更にぶつけたいのを必死で堪える。相手は素人でましてや失神している。
自分に許されるのはここまでと言い聞かせながら怒りを鎮め、目の前の男を肩に担いだ。
おそらく男の指を折ったのは夏であろうと冷静を取り戻しつつ思った。ほのかのために
したことを逆恨みでもしたのだろうと担いだ男に冷たい一瞥を落とし、再び前を向いた。
消防車に遅れて到着していた警察の元へと足を向け、山本はほのかのことを思い浮かべた。

”ほのか先輩・・もう・・もうこんなことはありませんよ。あの谷本氏が・・”

これからは危険な目に遭わぬよう夏が気遣うだろうと思うとやるせなさが圧し掛かる。
しかしそれを怠るような男なら自分は黙っていない。せめてそう念じることにした。
今回は自分もほのかを救う手伝いができた。それは大切に心に仕舞っておこうと思った。








「ほのか、寒いのか!?今上がるから待ってろ、横風がキツいから・・」
「ちがっ・寒くない!なっち、お願い。このまま・・こうしてて・・?」

縋りついてくるのを寒いのかと気遣う夏は腕の中でほのかが泣いているのに気付いた。
強い風に煽られて真珠のように涙がぽろぽろとほのかの頬から滑り落ちていく。
息が苦しいのかと不安が過ぎったが間近に感じる息は苦しさよりも切なさが勝る。

「このままがいいなら・・・空の散歩にするか?」
「!うん・・うん!ありがと・・だいじょうぶ?」
「お前抱えてこうしてるくらいどうってことねえよ。」

こんな時に不謹慎かもしれないがほのかは目の前で夏があまりに優しく囁くので
何もかもどうでもいいような気分になる。好きだとはっきり意識したからだろうか
まるで想いが通じた夢を見ている気分でもあった。無論そうではないというのに。

「なっち・・ごめんね・・」

思わず零したほのかの謝罪の意味がわからず、夏が怪訝に眉間を皺寄せる。

「妹じゃ・・いやだ。好きになってごめん。だけど、だけどね、好きなんだよ・・!」

泣きながら訴えるのは本音だ。しかし夏は呆然としてただ見つめるだけだ。
耳に入ってくる言葉が夏の都合の良い夢のようで信じられないという顔だった。
いま、こうして自らの腕で抱き寄せるほのかのぬくもりは明らかな現実であるのに。



夏はこれまでずっと、ほのかに手を伸ばすのを諦めて一歩引いて見てきた。

大切に育てられた子供を穢さないためというのも理由の一つだが一番はそうでない。
彼は愛することに飢えていた。護るべき者を再び失うのが怖くて愛さないと決めた。
欲しくてもそれは要らないんだと自ら言い聞かせた。まるでイソップの童話だ。

誰にも言わなければ知られない。心の中の奥深くに隠し鍵を掛けた。

目の前に飛び込んできた幼い少女を『見つけた』と思ったこと、予感がしたこと。
そしてその通りになった。ほのかが愛しい。知れば知るほど惹かれていく。
何故兼一の妹なんだと腹を立てた。羨ましかった。妬ましさからそう思うのだ。
俺だって大事にしたい。護りたい。愛してはいけないなら何故出逢ったとまで思った。
妬みや恨みだらけの醜い本心。幾ら綺麗に蓋をしたつもりになっても夏は知っている。
ちっぽけで弱く情けない己をいくら隠したとしても消え去りはしないということを。

ようやく隠しても無駄だと悟り、隠した心の奥へと潜るところまではたどり着いた。
それでもまだ隠した答えを引き出すのが怖い。まるで呪いのように夏を縛っている。
それが何なのか、夏には長いことわからなかった。まだ何か足りないピースがある。
隠した場所が心の中なら、開く扉の鍵も心のどこかにあるだろうか、ではそれはどこだ。

夏は長年自分を抑え付けてきた呪縛から今にも解放される予感がしていた。いつからか
それはほのかに会いたい、会って伝えたいと素直に思ったのがきっかけだったかもしれない。

ほのかが頭の中で何度も尋ねる。『ねえ、美味しかった?』『次はいつ会えるの?』

”いつだっていい、会いたい。待ってたんだよ、いつでもお前が来るのを・・”
”待ってばっかりでお前に期待して。俺にだけ作れよって素直に言えなかった”

夏に会いたいと何度も訪ねてきてくれたほのか。夏はその度嬉しくて次を待った。
来るなと言えなくなった。来なければ落ち込むくらい待ち望んでどうしようもなくて。
なのに自ら足を運ぶことはなく、約束したから仕方なく出向くということにした。
会いたいなら会いに行けばいいものを、鍵ではない、枷だ。足に、体に枷ばかり付けていた。
自分でそうしておいて・・・莫迦にもほどがある。ほのかが危険だと察したときには
一瞬も迷いはしなかったのが証拠だ。欠片の途惑いなく体はほのかの元へと飛んだではないか。

泣いていないか、苦しんでいないかと思うだけで夏の心は軋んで悲鳴を上げた。
部屋の隅で蹲っていたほのかに駆け寄り伸ばす手に躊躇はなかった。微塵もだ。
小さな体を抱き締めると叫んでいた凍えそうな心は蘇り、安堵と充足が夏を充たした。
届かないはずもないのに、何故か届かないと思っていたほのかは腕の中で小さく震えた。
絶対に救う、誰の手にも委ねない。それが答えだ。足枷が跡形もなく砕け散った瞬間だった。

非常の事態は続いていたがほのかを見つけたとき夏のなかには一つの確信が生まれた。
答えも悩みも過去の苦しみも何もかも、ほのかに出会う為に在ったのなら全てを受け入れられる。
悔いなく現在に向き合える。晴れ渡った空のように心は軽くなり、透き通ってしまった。

”ほのかが・・いるから・・・俺は・・・いきてる!”


うちから生まれて曝された本当の希は少しも弱くなく、汚くも情けなくもなかった。
なんだと拍子抜けするくらい光耀いている。知ろうとしなかっただけだったのだ。
愛してやまないこと、誰を妬むことなくそうしていいということ。いくらでも望むままに。

腕の中の存在に注がれている想いに目眩すら覚えている夏に追い討ちを掛けたのは
やはりその愛しさの対象たるほのかだった。聞き違いかと疑いそうな甘く切ない告白だ。



「なっちに・・振られるのが・・怖かったんだよ・・だから・・」
「泣くな。そんなの・・俺もおんなじだ。なぁ・・哂うかもしれんが・・お前よりずっと前から」


両手が塞がっていたから、ほのかの涙を唇で止めた。驚いて目を丸める瞳が
煌いて眩しい。夏はそのまま濡れた唇をほのかに押し付けた。瞳に映った自分は
誰も見たことの無い顔をしていた。自分自身も知らない正直で素直な男だった。





びっくりして勢いで瞼を下ろしたほのかが最初に感じたのは”しょっぱい!”だ。
次に感じた唇の熱さに息を飲む。体全体が硬直した。何が起こったかまだ理解していない。
そうして真っ白になった頭が事態をぼんやりと把握したのは接していた部位が離れたとき。
震えたのがわかった。唇と体もだ。それから硬直していた体が弛んでいくのを感じた。
すると今度は力が抜けすぎて落ちてしまいそうになった。勿論夏が支えているのだが。


「・・・ずっと前から?」
「!?・・だっだから、その・・」
「なんで大事なこと飛ばすの!?」
「飛ばしてねえよ、伝えたろ!?」
「・・・そう・・・なの・・?」
「・・だよっ!」
「えっ聞こえないよ!もういっかい!」
「カンベンしろよ!もう言えねーっ!」
「どうしてそう・・へたれなのさ!?」
「ぐ・・そんでも・・好きでいてくれ。」
「なっちも好きでいてくれる?ほのかちっとも大人っぽくはなれないけど。」
「当たり前だろ、ってか結構・・前よりは・・それっぽくなってんじゃ・・」
「・・・大人になったとこもある?ほんとに!?おばさんになっても嫌いにならない!?」
「なんなんだよ、そんな心配早くないか!?俺だっておっさんになるんだからいいだろ!」
「おばさんでもおばあちゃんになっても好きだったらいいなって・・思って・・」
「そんなら証明してやる。死ぬまでお前のこと嫌いになったりしないって。」
「!?いいの?ずっとずーーーーっと傍にいてくれるの?!」
「ああ、お前が嫌にならない限り離さないから覚悟しとけ。」
「ならないよ!ほのか・・・だいだいだいだい大好きだもんっ!」

再び首に巻きついた腕を受け止めて夏も抱いていた腕に力を込める。
耳元で囁いた言葉はほのかの”大好き”への返事で、真っ赤になったほのかが頷いた。
そのときようやく二人は空が茜色に染まり、宵闇に沈もうとしていることに気付いた。
美しい光景に夏とほのかも赤く色付いて、穏やかになった風に吹かれ微笑みを交わす。

「綺麗だね・・あっ一番星。」
「・・空の旅も悪くないな。」

夏の視界に自社の屋上のヘリポートが映り、空中旅行が終わることを示した。
ほのかを抱いたまま夏が社屋に降り立つと、部下が数名ほど出迎えていた。
その中にほのかの知った顔を見つけた。あのときの秘書だ。髪を束ねているが間違いない。
少し以前と印象が違うとほのかは感じた。それが彼女の浮かべていた表情だとふと気付く。
恭しくほのかと夏に頭を下げると、医務室へ案内された。夏が手はずしていたようだ。
病院よりも会社の方が近かったこともあるが、夏の信頼に足りる病院が無かったのだ。
自社に医局を設け、信用できる医師を社内医院として招いて開業させているのだった。

ほのかは一応の診察を終え、無事を確認されると夏の待つオフィスへと秘書が案内した。
案内の途中、秘書はほのかの弁当箱を洗ったことを打ち明けた。

「洗ってくださったんですか、どうもありがとうございます。」
「社長の大切な私物を勝手致しまして・・申し訳ありません。」
「え?なっ・・じゃない、えーと怒られたんですか?!」

夏をなっちと呼びかけて慌てて止めたのに気付かれたのか秘書は微笑んだだけで答えない。
不思議に思い首を傾げつつ、夏の待つ部屋へと着いた。出迎えた夏は渋い顔をしていた。
退いた秘書を一睨みする様子に驚く。一体どういうことなのかとほのかは益々怪訝になった。


「え・えええええええええっ!?!!」


ほのかの悲鳴が夏のオフィスに木霊した。夏も渋い顔を益々顰めている。

「どっどこから・・・?もしかして・・・全部!?」
「定かでないが・・概ねは・・聞こえてたようだ。」
「恥ずかしい!!もう会社に来れない!!」
「お前はいいだろうが!俺の会社だぞ!?」

実は先程の空中散歩途中の夏とほのかの会話が部下達に筒抜けだったのである。
無線は夏の側がONスイッチを入れない限り受信側には伝わらないはずである。
そのスイッチが甘かったのは夏の与り知らないことであるが、結局のところ、
偶然の悪戯、である。結果部下達に二人は温かく迎えられ、潤んだ目を向ける者まで
あったらしい。幸い数名の夏のごく身近な部下達であったが、居た堪れない話である。

「だって・・秘書の資格取る勉強してるんだよ・・ここに就職するつもりで。」
「なっなにい!?」
「そんで絶対受かってなっちの秘書になって、他の人追い出しちゃおうと・・」
「・・・・・・・」

秘密にしていたことを暴露して少し気不味いほのかだが、窺う夏はというと
意外にも頬を染めていた。ほのかが顔を上げると横を向いて誤魔化そうとした。

「なっちー・・もしかして、うれしい、の?」
「いっいや、その・・意外だったからちょっと驚いたんだよ。」
「素直に言ってごらんよ。ねえ、嬉しいんでしょ!?」
「〜〜〜ああ!けど、そう簡単にはなれるもんじゃねえぞ!?」
「お嫁さんになるよりむつかしい?」
「!?・・まっまだ・・それはまず・・卒業してからだろ・・」
「そうだね。あ、お父さんという難関もあるから、ヨロシクね?」
「なるほど、そっちも簡単にはいかねえようだな・・」
「がんばってね、なっちぃ!」
「あーもーっ・・わかった!」
「どうしようかな・・夢は叶えたいから資格は取るとして・・」
「なんだって好きにしろ。俺はお前が笑ってればそれでいい。」
「・・・殺し文句はさらっと言えるんだね、『好き』が言えないのに。」
「はあ?!んなもんが殺し文句なのか?よくわからんが・・?」
「なっちはもしかしてほのかに夢見すぎてないかな、気になってきた。」
「見てねえ。哂われてももう構やしねえよ。どうにでもしろってんだ。」
「そうか、そうだね。ほのかも笑われたって好きにする!ね、なっち。」
「夢だって哂うやつは哂わせとけ。一生夢見ててやるとでも言っとけ。」
「なっちってば・・・開き直るヒトだったんだねえ〜!」

ほのかが感心したように微笑むと、夏も穏やかに微笑んだ。

「山本直樹、な。あいつが放火犯を捕まえたとさっき知らせが入った。」
「えっ!?直樹くんが!?すごい、けどどうしてわかったんだろう!?」
「怪しいのがうろついてたのを見つけて警察に突き出したら自白したそうだ。」
「へ〜・・カッコいいなぁ!お礼しなくちゃ。」
「あいつ、随分でっかくなったな。」
「あれ?会ったの!?いつの間に?可愛かったのにねえ?!」
「・・過去形だな。」
「なんか・・さっきからどうしたの?ものすごく・・悪い顔になってるよ?」
「お前は・・やっぱ一人で放っておけねえなって思ったんだよ。」
「・・・なんか誤解してるの?直樹くんとはなんにもないよ。それより・・」
「なんだよ、お前こそ悪い顔しやがって。」
「あの秘書さん!ちょっと気になるんだけど。さっきだって・・」
「なんもねえよ、バカ。あれは移動するから来月秘書でなくなる。」
「えっやめちゃうの!?」
「いや、結婚して相手のいる海外の部署に行くらしい。」
「へえ〜・・・そうなの。なんだ・・」
「なにがっかりしてんだ、わかんねえな。」
「色々教えてもらえるかもって思ってた。」
「また戻ってくるかもしれん。伝えとく。」
「うん、お願い。」


沈黙が降りると夏とほのかは二人同時に居心地の悪さを覚えた。
正確には居心地が悪いのではなく、曝け出した後の気恥ずかしさだ。
あれほど怖がっていたのが嘘のようだ。二人して顔を見合わせる。

見知らぬ女と感じていたほのかは昔と変わりなく目の前にいる。
叶わないと思って諦めていた男が隠さない想いで応えてくれた。

夏は幸せだった。苦しくてもがいていた過去に感謝すらできる。
ほのかは嬉しい。誰より愛しい人だと皆に公表したいくらいに。


「なっちぃ・・からあげ、どうだった?」
「絶対俺以外に食わせるなよ、ほのか。」

「うん。お弁当作るからね、これからも。」
「弁当だけじゃなくて・・お前の作るもんは全部俺のだ。」
「へへ・・素直だね!慣れなくて・・なんだか照れるよ。」
「大丈夫か?俺は心の狭い男だからな、色々覚悟しとけよ。」
「知ってるでしょ、ほのかはね、あきらめが悪いんだから。」

長い平行線を辿ってきた。道はいつの間にか重なって広がった。
まだこれからも道は続く。このまま重なっているかどうかわからない。
それでも ――― 心はもう迷うことがない。見つけて確かめた。
夏とほのかは幼い頃出逢い、大人の入り口で少し迷いはしたが
一緒に大人になろうと誓い合える気持ちを手に入れた。これからは、

夢は一人でなく二人で描き、創りあげてゆくことだってできるだろう。







    〜END〜









とりあえずここで一区切りです。読んでくださった方ありがとうございますv
番外編などのシリーズ展開を夢見てますのでこれからも宜しくお願いします。