ゆあまいさんしゃいん 


歌はお父さんに聞いた。お母さんとの惚気話の中に出てきたのだ。
それでお母さんに確かめてみた。お父さんがお母さんを見初めた話などだ。
すると大げさでなくごく当たり前に「そうよ」とお母さんは微笑んだ。

好きになったらお母さんもお父さんが輝いて見えたそうだ。なるほど皆そうなのか。
私はどうだろうと思い浮かべたのはやっぱりというか、その人だったのだ。

「今夏くんのこと考えたでしょう!」とお母さんは勝ち誇るように言った。
悔しかったけど頷いて、「あのね、遠くからでもよくわかるなぁって思ってたよ。」
「ああ、夏くんがほのかをよく見つけてくれるのね。まぁごちそうさまですこと。」

なんだか照れくさかった。もしかしてなっちはほのかが好きみたいに好きでいてくれてる?
友達だとばかり思ってた。なっちだって最初はちっとも女の子扱いじゃなかったしね。
けど覚えてるんだ。迷子になってなっちがほのかを探して見つけてくれたときのことを。
嬉しくて涙が込み上げた。なっちの姿全部が金色に光って見えたのもはっきりと覚えてる。

”なっつん!” ”会えた!ウレシイ!!”

そうそうあのときは”なっつん”だったなぁなんて思い出したら顔が火照ってきた。
大好きだと自覚した。お兄ちゃんとも友達とも違ってる。特別に大好きだって。
離れていて会うたびにそれを感じる。だから嬉しくて名前を呼ぶのだ。大きな声で。

「なっちーっ!ここだよーっ!」

恥ずかしがって大声で呼ぶなと言う。ほのかのことはすぐ見つけられるから必要ないとか。
だけどやめたくなくていつだってイヤだって伝えるのだ。何故ってそれは・・

「絶対呼ぶよ。なっちそうすると笑ってくれて嬉しいんだもん。」

そう告げると驚いて首を傾げた。笑っている自覚はなかったらしい。

「ちょびっとだけね。もしかしたらほのかにだけわかるのかも。」と言ってみた。

なっちは不思議そうに目を細めていた。時々なっちはほのかを見てそうすることがある。
まるで眩しいみたいな顔だなぁと思うけど、それは言わない。ほのかにも覚えがあった。
会えたときの感激のためか、なっちは光って見えるのだ。お父さんたちと一緒だなと思った。
どうもなっちはその理由に思い当たっていなかったらしく、不思議だとほのかの首を掴んだりした。

「何がそんなに不思議なの?」
「・・不思議じゃねぇかよ。」
「ちっとも。だってほのかだってそうだよ。」
「オマエも?」
「なっちを見つけるの得意だし、見つけたらぱーっと光って見える。」
「そうなのか。」
「そりゃもう。」
「変だと思わないか?」
「全然。」
「納得しかねる。」
「皆そうなんじゃない?ダイスキな人はわかっちゃうものだよ。」
「だっ・・待てよ、それは・・」
「認めたくないってのかい!?」
「そ、それはちょっと・・バカみたいじゃねぇかよ;」
「んん?それってどういう意味さ??」

「なんとなく失礼だ!」と言ってみたけれど、なっちはきょとんとした顔。
どうして怒っているのかさっぱりわからないと顔には書いてあった。やれやれ・・

けどそれは仕方ないかもしれない。なっちは今まで苦労したり普通と違う生活だった。
誰かを好きになったりする余裕もなかったのかもしれない。ほのかも実のところ初めてだけど。
ずっとお兄ちゃんが大好きでお嫁になるなんてことを真剣に考えていたからだと思う。

それがいつの間にかお兄ちゃんには好きな人ができてしまって置いていかれた。
なっちと知り合ってあんまり傍が居心地良くて、その寂しさを忘れていったみたいだ。
優しくて子供っぽくて可愛いなっち。護ってあげたくなってしまう。それなのに

おかしいんだ。気がつくと護ってもらってるのは私なのだ。私を見る目はどんどん優しくなる。
胸がどきどき音を立てるようになった。あんなに居心地の良い場所が気付くと胸の痛む場所だった。

「オマエのは・・力強くて・・儚さなんか微塵もないんだ。」
「へ?なんのこと言ってるの?ほのかの何が強いって?」
「・・何かはわからん。ただ強烈で沈んでも何度も・・毎日昇ってくるって感じがする。」
「・・太陽みたいだね?」
「たまに暑苦しいし、それに近い。」
「誉めてる?いやなんか微妙に悪く言ってない!?」
「バカにしてないぞ。誉めてるわけでもないが。」
「わかった。ほのかはお日様みたいだと。そういう意味に解釈する。」
「・・・良いも悪いも・・そのまんまだ。」
「とにかくほのかちゃんが必要だってことでしょ!」
「待て待て、それじゃあオレがオマエになんか・・バカみたいじゃねぇかよ!?」
「そういうのをべたぼれとか、バカ惚れと言うのだよ。知らないのかね、ちみは。」
「バカ惚れなんて初耳だ。アホか!そんなんじゃねぇよ。」
「ふんだ。ほのかだって好きだけどね。負けないよっ!?」
「・・・なんで悔しそうなんだ?意味がわからん。」
「べーだ。知らないよっ!」

顔の熱さを誤魔化すようにあかんべしてやった。けど誤魔化せたかどうか自信はなかった。
だってなっちは全く照れずにさらっと他人事のような顔して言うんだから。どうしてなの?
なんだか悔しかった。ほのかも好きだと言ってることに気付いてるのかどうかも怪しい。
おんなじだよ、眩しいみたいに光って見える。いつもならニブイと言われるほのかなのに
そのときは逆転したみたいになっちがちっともわかっていないようで悔しかったのだ。

「やべぇ・・どうしてくれんだ。洗脳か!?」
「え?・・どうしたの?」
「ちょっとこっち見るな。」
「なんで!?」
「いいからちょっとあっち向いてろ。」
「ヒドイじょ!意地悪言うんじゃないよ、この子は。」
「そうじゃない。とにかく・・うわ!まともにっ・・」
「ヤダ!なっちが見えないとほのか死んじゃうよっ!」
「なにアホなこと言ってんだ。頼むからちょっと離れ・・」
「なっちだってほのかのお日様みたいなんだから。ないと生きていけないんだじょ・・」

胸のドキドキがピークになってもうどうしようもなくなって顔を隠した。なっちの懐に。
おそるおそる抱き寄せられた手が熱くて体に火がついて燃えたらどうしようかと思った。

「・・オマエ・・オレのことそんな好きなのか・・?」

なっちがダメ押しみたいなことをきくから、頷くだけで精一杯。息をするのも苦しい。
確かめたのは、そうだと気付いてなかったってことだよね。それともう一つ・・・
なっちもほのかが好きなのだと、さっきからそう言ってたんだよね?違うのだろうか。

「オマエの理屈だと、オレもオマエに・・バカ惚れなのか?」
「・・そうじゃないの?」

違うも何もなっちはわかってないみたいで少しがっかりもしてしまった。片想いなの?
ウウン、知らなかったからそうだと確かめたんでしょう!?そうだと思いたくて手を握った。
押し付けた胸は自分のとは違う鼓動がちゃんと聞こえてきて、応援されている気になってきた。

「そうかもしれないな。いや、そうだ。だったら・・嬉しいのか?」

一つ一つ確かめないとなっちはダメなのかもしれないなと思いながらゆっくり首を縦にした。

「どうしたんだよ?顔・・見せてくれよ。」
「ヤダ・・恥ずかしい。なっちってば天然過ぎだよ!ばか。」
「ばかなんだろ?オマエが太陽みたいだって思うから。」
「ほのかもだよーだ!おあいこなんだからね。」
「さっきもそうだが、何が悔しいのか教えろ。」
「ちっとも照れないんだね。」
「結構恥ずかしいと思ってるぞ。それより・・抱きしめたいんだが、いいか?」

涙が出そうになった。なっちにあわせて落ち着きたいけどさっきから足元がふわふわ頼りない。

「なっちってなっちって・・なんだよ!ほのか一人恥ずかしいってどゆこと!」
「怒るなよ。オレも恥ずかしいと言ったじゃねぇか。」
「じゃあなんでそんなに余裕なの!惚れてるって認めるの?いつもみたいに否定しないのっ!?」
「・・・どうやらそれが事実らしい。」
「う・・・なっちがおかしい。」
「だよな。オレもそう思うぜ。」
「不思議とか言ってたじゃない!ついさっきまで。」
「オマエが事実を教えたんだろ。何怒ったり泣いたりしてんだ。」
「ううう・・・悔しい。なっちのバカ!恥ずかしい!離してっ。」
「悪いがそれはできない。」
「ええっ!?」
「オマエが好きなんだと理解した途端色々と問題も浮上した。」
「なにそれぇ・・」
「オマエが光って眩しい理由はそうとしても・・困ったな。」
「聞くのが怖いよ・・どうしよう!」
「わからんことだらけだ。例えばオマエが今慌ててる理由とか。」
「そっそんなの・・ほっといて!ほのかもわかんないんだもん。」
「あぁそうか。オマエも他の男好きになったことないんだな。」
「ウン・・なっちが初めて。お兄ちゃん以外はね。」
「オレもそうだ。だからどうしていいかさっぱりわかんねぇ。」
「・・・そうか。あれ?それでどうして離せないの?」
「さっきから抑えようとしてはいるんだが・・」
「だっだき・・あわわ・・そのあの・・ぎゅってしたい?」
「オマエは嫌そうだな。」
「イヤなんじゃ・・ものすごく胸がドキドキいってて・・」
「まぁオレも結構・・」
「うそだあ!ちっとも見えない。落ち着いてるしっ!」
「なんなんだよ、悔しがったり、責めてるのか?それは。」
「悔しいのはほのかもすごく好きなのにうまく伝わってない気がするから。」
「はぁ・・それから?」
「む、やっぱり伝わってない。それとほのかすごく緊張してるのかな、さっきから・・」
「震えてる。怖いか?オレが。」

思い切り顔を左右に振った。不安を拭い去ってあげたいのにどうしていいかわからない。
泣きそうになったほのかの体からなっちは離れた。そして両手同士を繋ぐように握った。

「離してくれたの?なっちの手、熱いね。」
「オマエの光のせいかな。あたたかくてほっとする。」
「なんだか・・ほのかもおさまってきたかも・・」
「そうか。よかった。それからな、伝わってるから心配するな。」
「えっ!?」
「オマエは最初からずっとオレを気にかけてくれてた。好きになってもくれた。」
「ウン。」
「それだけでも充分嬉しい。すまん。抑えようとするのは逆だった。」
「さっきの?」
「無理矢理押抑え込もうとするからできなかったんだ。オマエを見れないと思ってた。」
「あっち向けって言ってたよね。」
「目を閉じても反らしても無駄なのにな。」
「見えるの?」
「見えるし、見ようとしないからできなかった。オマエを見ていればいつでも抑えは効く。」
「・・・抑えなくてもいいよ。」
「言葉じゃなくそう感じられたら、そうする。」

色んな感情を飲み込んでなっちと向き合ってみた。真直ぐな視線が眩しくてくらっとしたけれど
反らさずに見つめ返した。なっちの瞳には大切なものを包むような力強い光が宿って見えた。
さっきまでの震えが止まっていた。握り返すと掌は二人の体温が交じり合って一つになっていた。
ゆっくりと顔を近づけてキスしてみた。これだって確かめることになるでしょう?好きだってことを
そうしたら返事をするようになっちもキスしてくれた。目を閉じてその夢のような心地を味わった。
一度離れたけれど、今度はお互いに自然と引き合うままに重なった。色とりどりの光が見えた気がした。
間違っていない、私たちは二人共見つけたの。太陽のようになくてはならない人だと確かめ合えたんだね。








夏さんサイドとセットです☆