You are my sunshin. 


初めにわかったのはおそらくアイツが迷子になったときだったと思う。
人ごみの中で見つけたときだ。ぱっとそこだけが明るく見えてほのかだとわかった。
そのときはほっとするばかりで、そのことを特に不思議とは思わなかった。

その次は少し驚いたのを覚えてる。オレの学校の舞台を見に来たときだった。
アイツの兄の学校でもあり隠し切れなかった。来るなと言って聞き入れるはずもなく。
オレに気付かれないと思っていたんだろう。内緒だと(言うあたりバカだ)前置いていた。
当日アイツなりにこっそりと入ってきたようだった。しかしそのときに早くも気付いた。
一瞬入ってきた場所にスポットライトが当たったようにはっきりと姿が見えたからだ。
そのときは怪訝しんで辺りを見回したが、当然ライトなど当たってはいなかった。

当時は街中で待ち合わせにするには便利だなと、その程度の意識の仕方だった。
しかし9割方ナンパされるのを目撃して頭にきたので街中で待ち合わせは止めにした。
その後はっきりと海辺でも街でも山でも、アイツの居る場所は浮かび上がって見えると認識した。
その姿を捉えるとほっとするのは最初の刷り込みだったのかもしれないが。それはともかく、

”見つけた” ”あそこだ”

その瞬間の感覚は口で説明するのは難しい。ほっとするのも確かなのだが、
それだけではない。真逆に落ち着かない、浮き足立つような感覚も味わうのだ。
笑顔が浮かぶと、遠目でもすぐにわかる。手を振るとき爪先立っていることも。

「なっちーっ!ここだよーっ!」

大きな声で呼ぶなと言うのにアイツはいつだってオレを見つけると大げさに喜ぶ。
わかってるからやめろと何度も伝えた。そのたびにアイツ・・ほのかは言うのだ。

「絶対呼ぶよ。なっちそうすると笑ってくれて嬉しいんだもん。」

オレは笑った覚えがなかった。そう顔に出たのか、ほのかはくすくす笑いながら、

「ちょびっとだけね。もしかしたらほのかにだけわかるのかも。」と言った。

笑うほのかは幸せそうに見えて眩しくて目を眇めた。発光してるのかと疑ったほどだ。
錯覚なのか確かめようと別の日に頭や顔を掴まえてしげしげと観察したこともある。
けれどどう見てもいつもと同じ跳ねた柔らかい髪と、小さめの頭があるだけだった。
丸っこい大きな目はくるくると廻る万華鏡みたいではあったが、変わらない同じ瞳で。

「何がそんなに不思議なの?」
「・・不思議じゃねぇかよ。」
「ちっとも。だってほのかだってそうだよ。」
「オマエも?」
「なっちを見つけるの得意だし、見つけたらぱーっと光って見える。」
「そうなのか。」
「そりゃもう。」
「変だと思わないか?」
「全然。」
「納得しかねる。」
「皆そうなんじゃない?ダイスキな人はわかっちゃうものだよ。」
「だっ・・待てよ、それは・・」
「認めたくないってのかい!?」
「そ、それはちょっと・・バカみたいじゃねぇかよ;」
「んん?それってどういう意味さ??」

ほのかは眉間をしわ寄せ、オレに「なんとなく失礼だ!」と怒り出した。
ほのかが気分を害した理由に見当がつかず、オレは途惑うばかりだった。

そうなのか?そういうものなのだろうか!?オレは・・人を好きになった・・覚えがない。
記憶を手繰り寄せた。妹と居た頃はどうだっただろうか。妹はいつも傍にいた。
楓の光・・そうだ。確かにあったが・・それとは感じ方が違う。あれは命の灯火だ。

あの光は縋るような祈りに似ていた。生きていて欲しいと、この世を照らすたった一つの。
そしてその灯が消えたとき、その通りになったのだ。オレの世界は暗闇に包まれてしまった。
随分長い間、暗い闇の中にいた。それが当たり前になるほど長かった気もしていたが・・

いつの間にかオレの視界は明るく拓けて暗くない。なんてことだろう・・いつから・・?
遠い山の奥から上る光を見た、アレはいつの記憶だろう。朝が、新たな一日の始まりを感じた時は。

「オマエのは・・力強くて・・儚さなんか微塵もないんだ。」
「へ?なんのこと言ってるの?ほのかの何が強いって?」
「・・何かはわからん。ただ強烈で沈んでも何度も・・毎日昇ってくるって感じがする。」
「・・太陽みたいだね?」
「たまに暑苦しいし、それに近い。」
「誉めてる?いやなんか微妙に悪く言ってない!?」
「バカにしてないぞ。誉めてるわけでもないが。」
「わかった。ほのかはお日様みたいだと。そういう意味に解釈する。」
「・・・良いも悪いも・・そのまんまだ。」
「とにかくほのかちゃんが必要だってことでしょ!」
「待て待て、それじゃあオレがオマエになんか・・バカみたいじゃねぇかよ!?」
「そういうのをべたぼれとか、バカ惚れと言うのだよ。知らないのかね、ちみは。」
「バカ惚れなんて初耳だ。アホか!そんなんじゃねぇよ。」
「ふんだ。ほのかだって好きだけどね。負けないよっ!?」
「・・・なんで悔しそうなんだ?意味がわからん。」
「べーだ。知らないよっ!」

ほのかは思い切り顔を顰めて長い舌を出した。そんな顔をしているのに何故か頬が赤い。
そうなのだろうか、やはり。オレはオマエに自分でも気付かないほど・・そういうことなのか?
なんだかどんどんほのかの言った通りのような気がしてきて、オレも頬が熱くなってしまった。
なんだ、オレ。ホントにバカみたいだな。バカ・・っつうかもう・・死ぬほど間抜けというか
突然目のやり場に困った。ほのかのことがまともに見れない。直視すると目が焼けそうな気がした。

「やべぇ・・どうしてくれんだ。洗脳か!?」
「え?・・どうしたの?」
「ちょっとこっち見るな。」
「なんで!?」
「いいからちょっとあっち向いてろ。」
「ヒドイじょ!意地悪言うんじゃないよ、この子は。」
「そうじゃない。とにかく・・うわ!まともにっ・・」
「ヤダ!なっちが見えないとほのか死んじゃうよっ!」
「なにアホなこと言ってんだ。頼むからちょっと離れ・・」
「なっちだってほのかのお日様みたいなんだから。ないと生きていけないんだじょ・・」

消え入りそうな語尾と一緒に赤い顔をしたほのかはオレの胸に体ごと顔も埋めた。
そうっと抱き寄せると見間違いでないとわかった。ほのかの全部が熱かった。

「・・オマエ・・オレのことそんな好きなのか・・?」

自分で言っておいて突っ込めそうな台詞だった。恥ずかしくて顔から湯気が出そうだ。
ほのかはオレの胸に顔を隠したまま首を縦にした。こくんと揺れたとき見えた項が赤い。
何かとても大切なものをもらったような気がした。同時に手が火でも点いたように熱かった。

「オマエの理屈だと、オレもオマエに・・バカ惚れなのか?」
「・・そうじゃないの?」

ほのかの声は普段から想像もできないほど弱弱しくて、自信がなかった。
それこそお日様のような笑顔と自信たっぷりのほのかだというのに、どうしたんだ!?
けれどその自信の無さはオレのせいなのかと思い当る。オレがあまりに認めないから?

「そうかもしれないな。いや、そうだ。だったら・・嬉しいのか?」

ほのかは再び首を落とした。消え入りそうに小さくなったほのかにオレはまごついた。

「どうしたんだよ?顔・・見せてくれよ。」
「ヤダ・・恥ずかしい。なっちってば天然過ぎだよ!ばか。」
「ばかなんだろ?オマエが太陽みたいだって思うから。」
「ほのかもだよーだ!おあいこなんだからね。」
「さっきもそうだが、何が悔しいのか教えろ。」
「ちっとも照れないんだね。」
「結構恥ずかしいと思ってるぞ。それより・・抱きしめたいんだが、いいか?」

びくりと体全体を揺らしたほのかがいきなり顔を上げた。目には涙が滲んでいた。

「なっちってなっちって・・なんだよ!ほのか一人恥ずかしいってどゆこと!」
「怒るなよ。オレも恥ずかしいと言ったじゃねぇか。」
「じゃあなんでそんなに余裕なの!惚れてるって認めるの?いつもみたいに否定しないのっ!?」
「・・・どうやらそれが事実らしい。」
「う・・・なっちがおかしい。」
「だよな。オレもそう思うぜ。」
「不思議とか言ってたじゃない!ついさっきまで。」
「オマエが事実を教えたんだろ。何怒ったり泣いたりしてんだ。」
「ううう・・・悔しい。なっちのバカ!恥ずかしい!離してっ。」
「悪いがそれはできない。」
「ええっ!?」
「オマエが好きなんだと理解した途端色々と問題も浮上した。」
「なにそれぇ・・」
「オマエが光って眩しい理由はそうとしても・・困ったな。」
「聞くのが怖いよ・・どうしよう!」
「わからんことだらけだ。例えばオマエが今慌ててる理由とか。」
「そっそんなの・・ほっといて!ほのかもわかんないんだもん。」
「あぁそうか。オマエも他の男好きになったことないんだな。」
「ウン・・なっちが初めて。お兄ちゃん以外はね。」
「オレもそうだ。だからどうしていいかさっぱりわかんねぇ。」
「・・・そうか。あれ?それでどうして離せないの?」
「さっきから抑えようとしてはいるんだが・・」
「だっだき・・あわわ・・そのあの・・ぎゅってしたい?」
「オマエは嫌そうだな。」
「イヤなんじゃ・・ものすごく胸がドキドキいってて・・」
「まぁオレも結構・・」
「うそだあ!ちっとも見えない。落ち着いてるしっ!」
「なんなんだよ、悔しがったり、責めてるのか?それは。」
「悔しいのはほのかもすごく好きなのにうまく伝わってない気がするから。」
「はぁ・・それから?」
「む、やっぱり伝わってない。それとほのかすごく緊張してるのかな、さっきから・・」
「震えてる。怖いか?オレが。」

ほのかはぶんぶんと首を今度は真横に振った。赤かった頬は静まって涙も引いていた。
そうっと腕をゆるめて、代わりに両手を握ってみた。震えが鎮まるようにと思ってだ。

「離してくれたの?なっちの手、熱いね。」
「オマエの光のせいかな。あたたかくてほっとする。」
「なんだか・・ほのかもおさまってきたかも・・」
「そうか。よかった。それからな、伝わってるから心配するな。」
「えっ!?」
「オマエは最初からずっとオレを気にかけてくれてた。好きになってもくれた。」
「ウン。」
「それだけでも充分嬉しい。すまん。抑えようとするのは逆だった。」
「さっきの?」
「無理矢理押抑え込もうとするからできなかったんだ。オマエを見れないと思ってた。」
「あっち向けって言ってたよね。」
「目を閉じても反らしても無駄なのにな。」
「見えるの?」
「見えるし、見ようとしないからできなかった。オマエを見ていればいつでも抑えは効く。」
「・・・抑えなくてもいいよ。」
「言葉じゃなくそう感じられたら、そうする。」

大告白大会だ。それらはオレにしては珍しく本音も本音、普段なら言わないだろう台詞だと後で焦った。
握っていたほのかの手の温度が上がった気がして見上げると頬どころか熱でもあるような顔。
眩しいが、見ていなくては。見失いはしないがこの時が貴重であることくらいはわかる。
ほのかの震えは止まっていて、強く握り返す掌。愛しさは温かさに癒されてどこまでも溢れ出た。
ぼんやりと潤んだ目元の辺りに見惚れていた。呆けたようなオレの唇に熱い吐息ごと唇が重なった。
眼の前で光が弾けた。やっぱりオマエってさ・・光ってるじゃねぇかよ!と心の中で毒づいて
目蓋を下ろしてオレからも重ねてみた。閉じていても耀きは鎮まらずにオレ自身を包み込んだ。








ほのかサイドもあります☆^^