Wish for love. 


「よう、谷本。元気そうだな!」と不遜な態度で話しかけてくるのは
新島だ。心底悪い奴でもないのだが、およそ人間外の変態で付き合いたくはない。
「今日は”カノジョ”連れてないのか〜い?」とはいつも軽いノリの武田(元先輩)。
「ほのかは今日学校だよ。けどこの後逢うんだよね?」とほのかの兄、兼一。
「逢いたかったですわ〜。ほのかちゃんお元気ですわよね?」兼一の隣で風林寺。
「まだ高校生だよな。この前思ったけど随分綺麗になったよなぁ!」と宇喜田(元先輩その2)。
「おまえそればっか・・うぜぇんだよ!」と蹴り付きで宇喜田を睨むのは南條。皆相変わらずだ。

新白の会合なんざどうでもいいんだが、時間が空いたためつい今回も顔を出してしまった。
荒涼高校のOBだけでなく、他校のやつらもなんら変りなく脳天気に寛いでいる。
陰では相当修行を積んできているという点では、普通の同窓会とは違うだろう。
くだらない近況報告ばかりで情報も無いのなら帰ろうとしていると、新島が呼び止めた。

「谷本、この間ほのかにやった写真見たか?懐かしかっただろう?!」
「・・・おまえ前から言ってるだろう、アイツに近寄るなって。」
「写真をくれてやったくらいで妬くなって。」
「妬いてねぇ。余計な真似は一切するな。」
「ときに・・俺様あの写真を渡したときのほのかの様子でピンときたぞ。」
「はぁ?何のことだ・・?」

新島は声のトーンを落とすとオレの肩を抱いて(馴れ馴れしい!)囁きやがった。
「・・・察するにあの後しばらくしておまえら・・『デキ』ただろう!?」
「なっ!?」

小声だったにしろ、コイツ何を言い出すんだと首根っこを掴んで壁に追い詰めた。
「こらこら、皆居るんだぞ!?ばらしてもいいのか〜?!あーん?」
忌々しいが手を離してやると、「やれやれ・・これが恩人に対する態度かねぇ?」などとほざく。
「ほざくな!根拠も無い恩を売るんじゃねぇ、この宇宙人め!」
「まぁ、放っておいてもなるようになるとは思ってたがな。ケケケ・・」
「さっきから・・・どうも言ってることがわからねぇな。」
「とぼけても無駄だぞ?即否定しなかったってことは当たりなんだろう〜?!」
「うるせぇ!あまりにもくだらねぇ内容だったからだ。死にたくないなら邪推は止めろ。」

他の奴らの手前もあって、その場は許してやったがホントにむかつく奴だ。
奴の思惑に乗せられるなんざあるはずも無い。コイツ自分を優位に立てようとしやがって。
荒涼高校時代の芝居の写真・・・まぁその・・偶然その後に変化があったことは否めないが。
むかついたが蒸し返すのもなんなので、努めて気にしていない風を演じた。
そんな気疲れした会合の後、すっきりしない気分のまま待ち合わせの場所に向かった。
待ち合わせの相手、ほのかは学校帰りの制服のまま約束より少し早いが既に待っていた。
オレに気付いて手を振るほのかの傍に数人の男が近付いていたのが目に入る。
最近アイツの周囲に”虫”が纏わりつくようになってマジで腹立たしい。
目線で大抵の奴は逃げて行くが、ほのかは少しも気付いた様子もなく暢気なもんだ。

「なっつん、お疲れー!皆元気だった?!ほのかも行きたかったぁ!」
「学校があるから仕方ねぇだろ。別にどいつも変りねぇよ。」
「けど皆と会う機会って意外と無いよ?」
「あの地球外野郎にだけは絶対に近付くなよ。」
「・・?新島の会長さんのことかい?なんでさ?」
「理由なんぞ上げてたらきりが無い。それと宇喜田とか構うなよ。」
「ウッキーは優しいし、ほのか好きなんだけど・・」
「アイツにその気はないが横に居る奴が煩いぞ。」
「あぁそっかぁ!ヤキモチ妬くんだね、キサラちゃんがv」
「何で嬉しそうなんだよ・・」
「了解、了解。ほのかは好きだけどね、連合のひとたち皆。」
「フン・・オマエ嫌いな奴なんているのかよ?聞いたことねぇぞ・・・」
「心配しなくてもなっつんだけは特別だから!」
「んなこと言わなくていい、阿呆!」


二人で買い物をしてウチへ向かう途中、ほのかが突然思い出したと声を上げた。

「そういえば会長さんこの前なっつんの写真もっと欲しくないかって言ってたよ。」
「何!?いつの話だ?前の会合のときか!?」
「ウン。もうイラナイって言っといた。」
「アイツは何考えてんだまったく・・」
「最近なっつんは優しいかなんて聞くし・・」
「・・・なんと言った・・?!」
「いつも優しいよ?って言ったら、笑うの。おかしなひとだよ。」
「・・・もう金輪際口を利くな!オマエもほいほいとなんでもしゃべるなよ?」
「そんなしゃべってないよ。でね、『アイツなら間違いないから離すな』って。」
「・・・」
「だからそんなに心配しないで。悪いひとじゃないよ、なっつん。」
「ホントにオマエは・・しょうがねぇな・・」
「?だって間違ってないもん。そうでしょ?!」
「言われなくてもオマエがそう思ってりゃいーんだよ・・」
「ウンっ!」

アイツはアイツなりに友情ってものを示したのかもしれない、そう思うことにした。
その裏に何らかの姦計があったにしても、だ。オレも随分丸くなったもんだぜ。
気を取り直すと、隣でほのかが笑顔を浮かべてオレを見上げて言い出した。

「あの写真見たときさぁ、実はすごくヤキモチ妬いちゃったんだ・・」
「あんな写真どうってことないだろ?」
「学祭じゃなくてもね、学校違うし、学年も違うし・・色々と羨ましかったんだと思うよ。」
「ばかばかしい・・・」
「へへ・・今は思ってないよ。」

ほのかは満足そうに笑ってから前を向き直した。
少し伸びた背をぴんと延ばして跳ねている髪を揺らした。
そんな風にのんびりとウチへ着くと「オセロ勝負」が待っていた。
連敗記録については・・・まぁ更新中だ。長い勝負になったもんだ。

「ふふん!今日は何してもらおうかな〜?」
「やれやれ・・・お茶淹れるぞ?」
「ウン・・なっつん悔しがらないね、最近。なんで?」
「・・そうか?悔しいぞ。」
「全然悔しそうじゃないんだけど・・?」
「悔しい分は後で取り返してるんだ、この頃は。」
「後で・・?」
「お茶飲んだ後で教えてやる。」

立ち上がるときに軽く顎を持ち上げて頬を唇で掠めると途端に赤く染まった。

「!?・・後って・・ソレ・・」
「当り。」

台所に向かうオレの背中にソファのクッションが投げつけられた。
ごちゃごちゃと叫んでいるが、無視して行くとしばらくして追ってくる。
怒った風だが、どちらかというと”恥ずかしい”と描かれた顔はまだ紅潮気味だ。
二人で過ごす時間で以前と一番に変ったのはやはり”そういう”ところだろう。
ほのかとオレはどこも変ってはいない。知るところが増えただけのことなのだ。
『綺麗になった』と誰かが気付いても”そうだろうか?”と思うほど緩く静かな変化だ。
知らなければ良かったなどとは思わない。知れば知るほど想いは深くなり、離れ難くはなった。
溺れはしないかと懸念した頃もあったが、それは『なるようになった』というところか。

「なっつん?」
「なんだ?」
「最近さぁ、わざと負けてない・・?」
「いや?そんな訳ないだろ!?」
「そおかなぁ・・ほのかの気のせいか・・」
「勝つぜ、絶対。」
「ウン!そうだよね、ほのかも負けないよ!?」

意外と鋭いところのあるほのかが勘繰ってきた。
実をいうと当らずとも遠からず、といった心境だった。
オレは勝つつもりで勝負している。コイツが手強いのも事実だ。
焦らなくなっただけのことなのだ、勝敗を着けることや色んなことに。
勝てたときオレはほのかに願うことが出来たのだが、叶えるには時期尚早と思う。
そんなことも焦らなくなった理由の一つだった。ばらしたくない秘密でもある。
新島は『デキた』などと下世話な表現をしたが、あれも当りとも外れとも言える。
確かに以前とは明確に違う部分も生まれはしたが、基本オレたちは変ってないからだ。
それにしてもアイツ・・・やっぱ深く関わりたくねぇな・・!

「なっつん何考えてるの?」
「別に。あの地球外生物も含めてオマエの周囲の男が最近煩いなと・・」
「煩いって?会長さんとはさっきも言ったけどそんなに会わないし・・」
「待ち合わせんときも男が来ただろ?何人か・・」
「あぁ!待ち合わせだって言ったけど信じてくれなかったっけ、そーいえば。」
「目障りで腹が立つ。」
「なんでだろうねぇ!?この頃よく道を聞かれたりするけど関係あるのかな?」
「ほとんどナンパじゃねーのかソレ!・・はぁ・・なるほど学校違うと面倒だな。」
「いや道聞かれたくらいで・・大丈夫だよ、ほのか浮気なんかしないから。」
「隙だらけのおじょうさんだから安心できないんですよ・・」
「うわっなっつん『王子様』ヤメテよ、気持ちわるーい!」
「オマエって変ってるよな?」
「普通だよ。王子様ななっつんはオカシイもん、いつものなっつんでいて!」
「あれだな、オマエも『お姫様』ではないものな?」
「むっ・・まぁその・・柄じゃないかもだけど・・そういうのは気持ちの問題でだねぇ・・」
「へー・・気持ちは『お姫様』なわけか?そりゃ失礼したな?」
「なっつんほど気持ち悪くないと思うよ!ふんっだ。感じワルイのぉ、ちみは。」
「お姫様扱いしてやってるじゃねーか・・・」
「何時!?」
「そうだな・・お茶淹れてやったり、肩揉んでやったり・・」
「えー!?それお姫様かなぁ?」
「要するにオマエの好き勝手させてやってるだろ?」
「あのねぇ、ソレ全部勝負に負けたからでしょ!?」
「オマエ以外にこんなコトするオレだと思ってんのかよ。」
「・・なるほど・・ほのかは『特別扱い』なのだね・・!」
「そーゆーことだ。感謝しろ。」
「じゃあさぁ・・今日は”お姫様抱っこ”してよ、なっつん。」
「・・・ああ・・こういうやつか・・?」
「ふわっ!?う、ウン・・そうだけど、もうちょっとこう・・ろまんちっくにだねぇ・・」
「悪かったな、乱暴で。」
「こういうときだけは『王子様』でもいーよ?」
「っとに勝手なヤツだな!」
「えへへ・・嬉しいよ、なっつんダイスキ・・」
「おっと、忘れるとこだったぜ。取り返さないとな、悔しかった分を。」
「ふ?・・ぇ!?えっと・・それって〜;」
「好都合な態勢だしな。」
「や、そんなつもりは・・ねぇ、まさか・・」
「オマエから抱けって言った以上期待していいんだな?」
「やー!もう下ろしてくださーい!」
「やかましい。」
「こんなの王子様じゃないよ、王子様になって、なっつ〜ん・・!」
「それでは姫のお望みのままに。」
「ぎゃああっ!二重にヤだーっ!!気持ち悪いー!!」


ふざけて遊んで、やっぱいつもと変り無い。キスだけは特別念入りにさせてもらうが。
悔し紛れにふざけたりからかってても実情は同じだということにほのかは気付いてねぇ。
オマエの望みのままにしてるってのに。最後まで手を出さずにじっと耐えてだな・・・
代わりと言ってはなんだが、オマエを未来ごともらうって望みは絶対に叶えるからな?
頭痛いぜ、全く。悪い虫はうろついてるし、コイツは益々もてそうな予感がするし。
じゃれあって眠る午睡から目覚めた後は、しっかりガードして家まで帰す。
帰りたくないとごねるほのかを帰さないですむ方法をあれこれ思索しながら。
そして”気が気じゃねーから、早く卒業しろよ”と心の中で急かすのも・・まだ秘密だな。






一応これでお終いの予定でしたが、あと一回続きます。
お断り:これは数年後のお話です。夏くんたちは荒涼高校を卒業しています。