When I kissed the teacher. 


今日も担任教師が愛想良く笑っている。それを見てほのかは溜息を吐いた。
少々顔が良いのは認めるが、胡散臭いにも程がある笑顔だとほのかは思う。
しかしその他の年頃の娘たちは、そんなことはどうでもいいらしい。
授業中はうっとりとその姿を見つめ、目配せ等の秋波を送り、
宿題には必ずといえるほど愛の言葉や誘い文句が書き添えられる。
ロッカーどころか、職員室にまでも贈り物が山積みになっていて、
男子生徒達は陰口を言ったら最後”もてない”烙印を押されるために
ぐっと苦々しい気持ちを押さえ込み、彼女持ちすら平安ではいられない。
そんな男がほのかの担任の教師である、谷本夏だ。受け持ちは数学。
容姿だけでなく、家柄経歴なども立派で、要するにどこにも欠点が見つからない。
女子生徒は日々、彼に気に入られようと必死になっているといった現状だった。

「・・・皆だまされちゃって・・演技力はあるよね。」
「白浜さん、ハイ再提出。」
「えっ!また!?うそだあ・・!」
「間違ってる。見事に全部だ。」
「教え方が悪いんだよ・・もうやだ帰りたい〜!」
「それと・2−AのSに呼び出されたそうだが行くんじゃないぞ。」
「えーっどこから聞いてくるの、なっちってやらしい・・!」
「オマエこそ浮気するなよ、そんな気はなくとも隙だらけなんだからな。」
「自分は女の子に迫られまくってるくせして・・勝手だよ!!」
「なんだと!?心配してんじゃねーか!それとも浮気したいのか!?」
「そういうわけじゃないけど・・もー・・面倒くさいなあ!」
「しょうがねぇだろ。」
「そりゃ付き合ってるってバレたらひどい目に合うだろうけどさ・・」
「学校変えられたらオレも困る。」
「そんなに心配なの?信用してよ。」
「学校変ったら毎日顔見れないじゃねーか。卒業するまでの我慢だ。」
「良いカッコしいだよねぇ・・実態はこんなんなのにさ。」
「うるせぇ、オマエはこっちのがいいんだろ!?」
「そうだけどさ・・」

ほのかが谷本と知り合ったのは学校外で、その時谷本はまだ大学生だった。
他校の男子が自分の学校の生徒に絡んでいるのをほのかが止めに入り、
ほのか自身も危険なところを偶然通りかかった谷本が救出したのだ。
どこででも聞くようなお決まりな展開だが、少しだけ違ったのは、
ほのかが普通の女子生徒ではなかったということであろうか。
怪我をしたから手当てしろと谷本に迫って家へ押しかけ、寂しそうだからと

「ほのかが友達になってあげる。」と女子にしては色気ゼロの提案をした。

しかしそんな色気のないほのかに、谷本はころっと惚れてしまったのだ。
一番彼がほのかを気に入った理由は、その色気の無さだったかもしれない。
自分がそういう趣味だったかと疑問を持ったほどに、ほのかは見た目が幼い。
その上、その性格も行動も彼の知る女の概念を覆すのに十分なほど変っていた。
複雑な過去の経験などから、女性に対して不信感を持っていた谷本には
どれもが新鮮で魅力あるものに映った。当然”お友達”のスタートではあったが、
彼にとって、一緒にいて肩も凝らず、寧ろ寛げる初めての存在だった。

そんなわけですっかりほのかに参った彼はほのかに色気込みの提案をした。

「なぁ、オレと付き合わないか?オマエが高校卒業するまでは”お友達”でいいから。」

「ほのかのこと好きなの?ウン、いいよ。」

子供をたぶらかしているという罪悪感は一応谷本も感じることは感じた。
だが将来ほのか以上の相手は見つからないのではないかとも思い、要は焦ったのだ。
あっさりと承諾したほのかとはその提案後も約束どおり、”お友達”の域は出なかった。
そうこうしているうち、谷本は卒業してあっさりと高校教師の採用試験に受かった。
いきなり赴任してきた教師が谷本で、ほのかは驚いた。知らされていなかったからだ。
風紀上、学校教師と生徒の交際はマズイ。二人のことは秘密ということになった。

年の差があるのに同じ学校に居るということが不思議で初めはほのかも嬉しかった。
ところが谷本は思った以上にもてた。異常ではないかと思えるほどもてたのである。
うんざりするほど周囲の女子は彼を崇拝し、自分はますます立場を明かせなくなった。
おまけにほのかも年頃で成長してきたせいで、以前よりもてるようになってきた。
すると今度は谷本が意外なほどに嫉妬するのだ。信用されていないようであまり愉快ではない。
そして二学期が過ぎる頃、ようやく気がついた。付き合ってるといっても自分たちは”お友達”のようなものだと。
ほのかが二人の関係に不安を抱き始めたそんな頃、事件が起きた。

「ちょっと、C組のさやかが谷本に迫った話聞いた!?」
「えっ迫ったって・・?」
「うまく放課後に呼び出して制服脱いで待ち構えてたんだって!」
「えっ?!」
「そんで”抱いて”って迫ったんだってよ〜?!」
「・・で、・・・まさか・・?」
「谷本は逃げたらしいよ。でもこれってヤバイよね、処分ものだよね!?」
「・・・ふーーーーーん・・・」

”私なんてまだキスもしてもらってないのにどうゆうことさ!?”


バラしてしまっては彼も立場がない。しかし、このままでは辛い。
ほのかは悩んだ。やきもちを妬いてる場合じゃない、そういうことじゃなく・・
彼女は自分が本当に女として愛されているのか、ということにも疑問を持ってしまった。
約束だから、真面目だから、ほのかのことを思ってくれているから、そう考えていた。
それは疑ってない。彼は意外と律儀で頑固で、約束は絶対護る性格なのだ。
しかしこのまま特定の彼女がいないままにしておくと、女子生徒は放っておかない。
いやもしかしたら、彼女がいようがいまいがお構いなしということも考えられる。
そんなことは嫌だ。ほのかはそう思った。同じ学校にいられなくなるのも嫌なのだが。

学校から帰ってきた谷本をほのかは彼の自宅で待っていた。
ほのかの様子から、”事件”のことを自ら説明してくれた。

「とにかく何もなかったから心配するなよ?」
「・・・でも見たんでしょ?他の子の・・・」
「下着はな。だがほとんど見てない。」
「そう・・」
「その話聞いて・・嫌だったのか?」
「ウン・・・なんでかなぁ・・別に何もしてないって聞いても・・ヤだな。」
「そうか。・・そろそろ付き合ってるってこと公表するか?」
「でもそれすると学校変らないといけなくなるんでしょ?」
「たぶんそうだろうな。」
「別に何も・・悪いことしてないのに。」
「”付き合ってる”ってだけで良い事じゃないんだよ。」
「どうしてさぁ・・?」
「んー・・そうだなぁ・・」
「付き合うってほのかとなっちみたいなのは普通じゃないの?」
「!?」
「お友達だったら言う必要ない?どこからお友達じゃなくなるの!?」
「それは・・」
「ほのかなっちのこと好きだけど、今はまだ”彼女”とは言えないのかな?」
「・・オレはそのつもりだ。」
「ホントに?」
「実際にすることしてなくたって・・したいと思ってたら同じことだ。」
「・することって?・・キスとか?」
「・・ああ。」
「したくない?」
「約束したから。」
「ほのかがしたいって言ったら?」
「・・ホントか?」
「・・・ウン。」
「嘘吐くなよ。怒るぞ!」
「ホントだもん。」
「じゃあオマエオレの前で裸になれるか?」
「えっ・・う・・なれるよ!」
「へえー?そんでオレがオマエに触っても平気か?」
「・・・・どこを?」
「どこならいいんだ?それって触られたくないとこもあるってことだろう!?」
「う・・うん・・」
「よし。正直でいてくれよ、その方がいい。」
「なっち・・」
「卒業なんて嫌でも時期になったら来る。そしたら少しずつ・・頼むから。」
「まだずいぶん先だよ?」
「オマエがそんな顔してるの見てる方が辛い。」
「なっちってば・・やさしいんだから・・」
「単に嫌われたくないからだぜ?」
「へへ・・それでもやっぱり・・やさしい。」

ほのかがなんとか笑顔になると、谷本はほっとしたようにその前髪を撫でた。

「やさしいだけかよ?」
「ぷぷっ・・好きだよ。」
「おー・・合格。」
「先生ぶっちゃって。」
「オマエの担任でもあるからな。」
「だから卒業するまでは我慢するんだね?!先生。」
「それもあるし・・」
「あとはなぁに?」
「もったいないから、大事にとっとくんだ。」
「なにそれ・・・」


ほのかが今度は無理せずに笑うと、谷本はちょっとだけと言い訳をして、
前髪越しに、ほのかの額へと唇を寄せた。それはいいの?と呟くほのかに
谷本は、これくらいは許してくれよと笑う。その笑顔を見ながらほのかは思った。

”私の方が・・待ちきれないかもしれないよ・?”








パラレルでリクエストの夏くん教師、ほのか生徒の学園もの(?)です。
これは裏のネタが元になってますので、番外で(裏を)書くかもしれません。
ここでは明るく、なるだけ健全に・・を目標にガンバリマス☆(^^;
こんなんでいいのかな、Sぶえちゃん!?(まだ続きますけれど)