わたし色の瞳 


またほのかとの約束を破ったんだから仕方ないんだよ。
破ったんじゃなくて延期だなんて言い訳はきかないさ。
悪い子のなっちの膝に乗っかると、ほっぺをつまんだ。

「この口にお仕置きだじょ!おもしろ顔にしてやるー!」
「なるか!」

むかつくことに抵抗するなっちの顔はちっともゆがまない。
指が疲れちゃった・・噛んでやってもなっちは固くて困る。
悔しいから腹いせになっちの膝上でじたばた暴れてやった。

そしたらお兄ちゃんが美羽と一緒に新白アジトへやって来ていて

「ほのか!なんてはしたないことしてんだ!!やめなさい!」

驚いて振り向いた。はしたないってなんだろう?わからない。
どうも驚いたり怒ってるのはお兄ちゃんだけだ。周りは呆れてる。
なんでかっていうと、こんなことしょっちゅうしてるからだろう。
それに『はしたない』ってことがどういうことかも知らないしね。

「お兄ちゃんは黙ってて。ほのかとなっちの問題なのだからね。」
「そういうことを言ってるんじゃない!おりるんだ、ソコから!」
「そこって・・ここ?いつも乗っかってるんだけど。」
「っ・・にしても腰を振るな!恥ずかしい!夏くんも叱ってよ!」
「お前こそ言葉を選べよ。ほのかはそんなことしてねえだろ。」
「夏くん?!美羽さん、女性として言ってやってくださいよ!」
「え?お二人の仲がよろしいのは微笑ましいですし・・何を?」

援軍は頼めずに周囲を見回すお兄ちゃんは孤立したみたいになった。
ちょっと可哀想になったほのかが何か言う前に新島会長さんが来た。

「落ち着け、兼一。こんなこと見慣れとるんだが確かにイカンな。」
「見慣れて!?まさかお前が賛同してくれるとは意外だったけど。」

「・・外野がうるせぇから帰るぞ、ほのか。」
「よっし続きはお家でリベンジするじょっ!」

「ああ、そうしろ。そんな込み入った話はここではやめとけ。」

新島会長が後を引き受けてくれたのでほのかとなっちはアジトを出た。
なっちもここへ来るのはあまり気乗りしないらしいけど事情があるの。
なんでも会長さんに情報集めとかあるばいと?を頼んでいるらしいから
時々報告やらお仕事みたいな手続きが必要んだってなっちは言ってる。
でも会長さんから日程を決めてくるときがあってほのかが迷惑するんだ。
いつもならほのかの約束が最優先なのに後回しにされてしまうからだ。
ホントはそれが一番口惜しいんだけどなっちは全然わかってくれない。

「もーっ!お兄ちゃんってときどき何言ってるかわかんない。」
「気にするな。あいつの心配するようなことしてねぇしな・・」
「心配って?お兄ちゃんはほのかのこと心配して怒ってたの?」
「まぁな。前に俺以外にこういうことするなと言っただろう。」
「ああ!・・そうか。うんと仲良しでないとイケナイんだっけ」
「俺も確かめたいぞ、本当にしてないんだろうな!?」
「なんでほのかが怒られるの!?してないよっ!ぷんぷん!!」

ちっともむかむかがおさまらない。どうしてくれようか!この気持ち。
帰る前に寄り道をしてほのかの大好物のフルーツタルトを奢ってもらった。
それでちょびっと嬉しくなったけど、そう簡単に許してあげないんだじょ。
なっちはほのかとの約束は全部守るって言った。だから間違ってない。
お家に着くとなっちはとっておきの紅茶をおろしてくれた。すごくいい香り。
ふわ〜と気持ちも体も軽くなってしまう。イカンイカン、危ないとこだった。

「まだまだ!ほのかが怒ってるんだからね。誰にも譲らないじょ。」

むきになってるほのかに溜息吐くのは失礼だと思う。なっちは涼しい顔。
悪いなんて思ってない証拠だよね。ほのか・・ワガママかなって思うけど。

「そんな顔するな。俺が悪かった・・今日はお前疲れてるかと思ってな。」
「だから遊びに行ってすっきりしたかったんだよ。試合・・負けてさ・・」
「次勝つんだろ。そんでいいじゃねぇか。俺も今度のが良かったんだよ。」
「どうして?」
「次ならお前も俺も休み前だから思い切り遊べるだろ。」
「そっか・・うむ・・そういう理由なら許してあげないこともないのだ。」
「・・・兄キには言っておくがあまり虐めてやるなよ。」
「えっ!?なっちがお兄ちゃんをかばうなんて・・!?」
「兄という立場では俺もあいつの気持ちがわかるから。」
「なんでなっちに乗っかるのがダメなの?前も似たようなこと言ってた。」

なっちはふーと紅茶を冷ますように長い息を吐いて一口飲み込んだ。
何か考えてるんだ。ほのかには難しいことかもしれないけどそれはわかる。
きっとわかるように説明する方法を考えてるんだ。なっちは優しいからね。
紅茶のカップを受け皿に置くと、なっちはほのかの目を真直ぐに見た。

胸がきゅっとなる。痛いようなそうじゃないようなヘンな感じ。
なっちがほのかをこんな風に見るとよくなる。病気かなって最初思った。
けど別に何日経ってもどうもしないから違う。どきどきもたまにするけど
すぐ元気になるし、それに・・やっぱりいやじゃないって思うんだ。

「お前も意味がわかったらしないだろうから、教えたくないな。」
「・・・じゃわかんなくていい。ほのかなっちがイヤじゃないならいい。」
「俺以外はダメだと前から言ってるが、それ守ってんだろ?」
「うん。それにこんな口惜しい思いはめったにしないもん。なっちだから・・」
「俺が約束を違えたから我慢ならねぇんだろ。だから好きにさせてんだ。」
「そうか。ならいいよ。なっちわかってたのか。ほのかねぇ、なっちだと」
「俺じゃなきゃそこまで怒らないんだよな。」
「なんでかわかんないけど・・なっちほのかのこと嫌いにならない?!」
「ああ」

なっちが真面目に頷いたので自然と顔が弛んだ。嬉しくなったんだ。
だからなっちに飛びついた。ちゃんと紅茶飲んでないスキにだよ、エライ。
慌てたりしないでソファに凭れたなっちにまたまたがる。怒らないから。
へへっと笑って頬すりした。なっちがすきだ。それは悪いことじゃないよね。
なっちはいつもみたく髪を撫でてくれる。妹というより飼い犬扱いなんだ。
だけど、いいの。わんこでもにゃんこでも、ほのかっていう子供だとしても。
大きくなったのに恥ずかしいってそういう意味で叱ったのかな、お兄ちゃんは。
そうだね、恥ずかしいかも。だけどなっちだけ。なっちが怒らないならいい。
イヤじゃないって言ってくれるから。ほのかもこうしてるとすごく幸せで・・
ついつい・・ねむたく・・なっちゃうん・だ・・

目蓋が重くなったら体も多分重たくなるんだろうね、だけどなっちがいる。
膝上だったり、ソファだったり色々だけど眠ってしまえばあったかいんだ。
なっちの体温だったり、掛けてくれる毛布だったり。大きな掌だったり。

「・・・・なっちぃ・・だいすき・・」

返事はないけどきっとイヤじゃない。時折下りてくるもの、綺麗な顔が。
あまり覗き込まないようにしろて言われたことのあるあの瞳で見てる。
それはね、なんでもわかってしまうから。ほのか名探偵の素質あるのかな。
きっと恥ずかしいんだ。素直ななっちがそこにいるからだ。知ってるよ。

なっちはこんなとき素直な瞳でほのかを見てるんでしょう?
ほのかが映っている瞳がすき。深くて透明な泉に潜ったみたい。
そこはほのかだけの秘密の場所だよ。誰にも教えてあげないの。
眠っているのに顔が笑ってないかな、心配だ・・・だって気持ちイイ・・



柔らかいものが頬をあったかくすることもある。唇かな、多分そう。
このことも秘密にしときたいんだろうから、言わない。言ってない。
いつか起きてるときにしてくれないかなって思うんだけどね。


ほのかは眠ってしまって目が覚めたらいつも通りだ。すっきりした。
そんなどうってことない一日だったよ。だけどお兄ちゃんは違ったんだって。
また別の日なんだけどね、


「ほのか、あのな・・いやいい。任せとくよ・・・はぁ・・・;」
「何を落ち込んでるの?なっちに何言われたのさ。怒っておこうか?」
「いや、いいんだ。うん、けど・・先を越すなよ、兄としてそれだけは」
「????さっぱりわかんない。お兄ちゃんってばしっかりしなよ。」
「そうだよな!うん。がんばるよ。僕だって美羽さんと!よっしゃあ!」
「なんでむちぷり?変なの。いいよ頑張りなよ。ほのか寛大になったから。」


「行っちゃった・・お兄ちゃん一体何しにきたんだろ?」
「アイツも気苦労だな。・・谷本が何て言ったか教えてやろうか?」
「あ、新島会長!?いつから居たの?なっちに怒られないかい!?」
「口止めされてねぇし、別にいいと思うぜ。」
「ふ〜ん・・・なんて言ったの?」

「新島、楽しいお話してるんだな。」
「なっち!?皆スゴイね?いつ来たのかゼンゼンわかんないじょ。」
「いいじゃねえか。あ、なるほど自分で言いたいか。そりゃ失礼。」
「会長さ〜ん?・・・逃げ足速いね、ほんとに。」

「で、なっちが教えてくれるの?」
「手は出してねぇから安心しろって言っただけだ。”出しても責任取るって言ったし”」
「手?ナデナデはいいのかい?ふーん・・」
「そういうことだ。さ、行くぞ。余計なこと考えなくていい。」
「らじゃっ!今日は遊ぶぞーっ!なっち、出発だーーーーっ!」

ほのかとなっちの延期した約束。果たしてもらえたその日は快晴で絶好調!

「めいっぱい遊ぶよっ!なっち、覚悟はいいかい!?」
「ああ、覚悟ならとっくの昔に出来てるぞ。」

幸せだ。その日もなっちの瞳には元気なほのかが映ってた。







やってらんねえ!を目指してみましたが・・いけてます?