「知りたくない」 


奪われたのだと思った 
怒りに我を忘れた
何も考えず走り出していた
あいつだけはと心が叫んだ
何度も何度もあいつの顔が浮かんだ
空虚だったはずの場所はもう埋まっていたのだ
取り戻したその後などどうでもよかった

だから 見つけたときも
この腕に取り返したときも
あいつの涙交じりの笑顔を見たときも
何も考えてなどいなかった
当たり前のように抱き寄せた
小さな頭を引き寄せて胸に仕舞い込むようにした
あいつは何度も何度もオレを呼んでいた

オレをずっと呼んでいたと言った
嬉しそうにオレを見て笑った
脇目もくれずに飛び込んできた
大きな眼は涙ごと零れて落ちそうだった
しがみついてオレに噛み付くように顔を押し当てた
手離したことを責めるように
辛い思いをぶつけるように
痛い思いをしたのはオレもおんなじだ
なのにオレに浮かんでいたのは笑顔だった

連れ帰ったいつもの部屋でも離れようとしなかった
怖いのだろうと思うとやはり離せなかった
結局朝までオレの懐に顔を埋めたまま眠りについた
オレも昨夜寝ていなかったせいで眠気を感じた
抱えたままの格好で朝を迎えることになった
腹が減ったと鳴く声に起こされた
いつもの朝がやってきたのだ
オレは苦笑しつつも朝食を拵えた

あいつはいつもの通りでオレを責めるでなく
文句を言うでもなく、機嫌よくオレの傍に居る
どうしてだろう、泣きたい気持になった
一緒に居られる毎日がこれほど大切だと思わなかった
本当は知っていたのに
ワケを知りたくなかった


もう失って怖いものなど無いと思っていたのに
いつかおまえを失うことを心の底から怖れている
知りたくない そのワケを
この腕のなかに捉まえておける今はまだ
ぬくもりだけを確かめていたいんだ








おまけで詩のようなもの?を書いてみました(蛇足ともいうか・・;)
話は長くなるので書かなかったですが、猫ほのかは奪われたのです。
でもって彼は取り戻したっつう話なんです。(絵はブログに貼った落書き)