「Up and down」 


 
まだ夏でもないのに最近の陽気はとんでもない。
暑くて困るのはほのかの服が露出を増すことだ。 
本人に言ってもどうしようもないとわかっていても
日々振り回される身には頭の痛い問題の一つだ。
とにかくひっつくなって言いたいんだ。
暑いだけならまだ我慢できるんだよ・・・



「なっつん、コンニチハー!お邪魔しまーすv」
「・・・今日は早いな。」
「あれ、シャワー浴びてたの?」
夏は頭からタオルを被ったままのお出迎えだった。
「ああ、汗かいたからな。」 
「毎日修行に励んで偉いね、なっつんv」
「つってもおまえに随分邪魔されてるんだが・・」
「まーまー、それよりアイスあるんだ!食べよう、なっつん。」
目の前に突き出された箱はそれらしいが、ほとんど食べるのは本人だ。
「おまえ、太るぞ?」
「だーいじょぶだよ、ほのかもね、ちゃんと運動してるもん。」
ほのかは小さいなりで結構よく食べることはもう承知している。
成長期の食べ盛りなのだからわかるが、栄養はどこへ行っているのか
出会ってからそれほど大きくなった風でもない。
相変わらず子供っぽくて口は悪いし、ずうずうしく態度はデカイのだが。
「おまえ、食うわりにはちっとも成長しないな。」
「なんだとー!?ちゃんと背伸びてるよっ!なっつん気付いてないの?!」
「ああ、背は少しな。あと体重。」
「ええっ?!なっつん、なんで体重なんてわかるのさ?!」
「おまえしょっちゅうオレに飛びついて来るからな。」
「う、そーか・・でも何キロとかまではわかんないでしょ?」
「そうだな、去年までと比べて2キロってとこか。」
「!?・・・うえ〜、なっつんてヤラシイ!もう飛びつくのやめよ・・」
それを聞いて夏は内心、”うまくいった!”とほくそえんだ。
とにかくよく自分にひっつくほのかをなんとかしたくて夏は考えたのだ。 
暑いと言っても、すぐにほのかは忘れてまた寄ってくるし、
”誘ってんのか?!”と疑うも本人はさっぱりその気とは思えない。
ときに甘えて擦り寄られたりすると困惑は深まるばかりで。
ほのかが飛びつくのをやめてくれるのはありがたいことだった。
ほっとしていた夏だったが、しばらく大人しかったほのかが口を開いた。
「でもやっぱり、いいや!なっつんに体重知られても。」
「何!?」
「なっつんにひっつけない方が嫌だから仕方ないや。」
呆気に取られていると、ほのかがまた夏に飛びついて来た。 
「うわ!」 
「でも体重は内緒にしといてね?」
正面から肩に腕を回し、夏にぶら下がってほのかは囁いた。 
柔らかい髪が頬をくすぐり、甘い匂いが鼻腔を突く。
全く躊躇しないのをどうかと思うが、胸も押し付けられている。
それほど大きく自己主張してはいないが、しっかり柔らかさを感じる。
そのうえ大きな眼で夏を覗き込み、極めつけの笑顔。
耳元で可愛い声を立てるというおまけまでついてくる。
「・・・おまえな・・・」 
「なーに?なっつん。」
溜息を吐いてもほのかは降りる気配もなく夏にしがみついていた。
「おまえは猿か?!それとも犬か?!降りろよ。」
「やだ。」ほのかは首を大げさに左右に振った。
「ほの・・!」
引き剥がそうとした夏の頬にほのかが唇を押し付けた。
「びっくりした?!えへへ・・」 
夏はというと、先ほどからの連続攻撃でかなりのダメージだ。 
脱力を感じた後すぐに怒りにも似た感情が頭をもたげる。
”コイツは!コイツは〜〜〜!!オレの気もしらねぇでー!!!” 
「どしたの?なっつん。」
きょとんとしたほのかをいきなり夏が抱きしめた。
「わっ!」と声をあげたが、ほのかは嬉しそうに自分も抱き返す。 
「なっつん、ダイスキ・・」
「おまえ、あんまりオレを困らせるなよ・・」
「なんで?なっつん何困ってるの?」
答えはなく、夏の唇に質問は塞き止められた。 
熱くて甘い時間が過ぎるとほのかが吐息を漏らした。 
「はふ・・なっつん、いきなり何すんの!?心の準備が間に合わないじゃないか!」 
「あのなぁ、おまえから仕掛けてきたんだろ?!」
「えぇ〜?!いっつもいきなりなっつんが!」
「人聞きの悪いこと言うな。おまえこそ!」 
「まぁ、ほのか嬉しいからいいけどv」 
「!!・・ていうか、おまえいつまでひっついてんだよ・・」 
「あ、気持ちよくて忘れてた。なっつんには癒しパワーがあるんじゃあ?!」          
「そんなもんあるか!」 
「ねぇ、なっつん!このまま抱っこしてリビング連れてって?」 
「は?」
「でもって一緒にアイス食べよ!」
「・・アイスなんてどこやったんだよ?」
「その辺にあるよ、それも拾って持ってってね。」
「・・・おまえ、オレをなんだと?」
「優しくってダイスキなコ・イ・ビ・トv」
ほのかの頭は小突かれたが、要求には応えてくれるらしい。
また嬉しくなってほのかは夏を強く抱き寄せた。
「ウソじゃないもん!」そう言ってしがみつく。
「しょうがねぇな・・」ぼやきながら夏は片手で支えて歩き出した。
途中で落ちていたアイスの箱をヒョイと持ち上げる。
その間もほのかは赤ん坊のように夏にしがみついたままだ。
「アイス食いすぎて豚になったら抱き上げてなんかやらんぞ。」
「やだやだ!太らないもん。ほのか何度でも抱きついてやるじょ〜!」
「色気の無いガキのくせに・・」
「なっつんのウソツキ!じゃなんでほのかにキスすんの?!」
「う・それは・・;」
ほのかはじとーっと夏の眼を見るがあからさまに反らされる。
「おまえがあんまり・・煩いからだな・・」
「ふーん・・?」
「なんだよ、ちっとは自分の身を案じろよ!」
「なっつんならいいよ?何しても。」
夏の顔が紅潮するのを間近で見てほのかは喜んだ。
「なっつん、顔真っ赤!かーわいい〜v」
「煩い!カワイイいうな!!マジで襲われたいのか?!」
「アイス食べてからにして?溶けちゃうもん。」
「おまえオレを馬鹿にしてるだろ・・?」
「ううん、信用してるのさ。」
「・・・なるほど・・・」
夏は大人しく負けを認めて口をつぐんだ。
オレ一人でおろおろしてるんだなと思うと落ち込むが
ほのかの言い分も嬉しい気がしないではない。
しかし全く問題は解決していないということだ。
つまりオレがどんだけ我慢できるかってことで・・・
とりあえずアイスでも食って頭を冷やすか?


「なっつんて意外と真面目だよね?」
「・・好きに言ってろ!」







苦労している夏くん、いつもご苦労様!ってな話でした。
あれ、あんまり甘くないですか?感覚が麻痺したかな?(笑)
ほのかは確信的に甘えてると思っておりますv(小悪魔)
夏くんが我慢できなくなるのっていつ頃ですかねぇ・・?^^