「繋がる幸せ」 


ほのかは誰とでも気安く話せる。ボディタッチにもなんの躊躇もない。
それと正反対なのがなっちだ。そんな二人が付き合うとなると支障も出る。
例えばほのかはわりとべたべたと触りたい方なのになっちはとても嫌がる。

「なっちー!腕相撲しよう。」
「耳が悪くなったかな。バカな提案が聞こえたが。」
「ハンデを付けるに決まってるじゃないか。」
「一応聞いてみてやる。」
「なっちは右利きでしょ?左手一本だよ、でもってほのかは両手。」
「・・それから?」
「なっちはちょっとでも動いたら負け。これならほのかの方が有利でしょ!?」
「それはともかくどうして腕相撲なんだよ?」
「してみたくなったんだよ。」
「へぇ〜・・」

バカにしたような視線は無視だ。なっちの左腕をがっしと両手で掴まえた。
ぐっと力を入れたけどなっちはびくともしない。なんとこれでもダメなのか・・
どんなにがんばっても埒が明かないので、とうとうギブアップしてしまった。

「いい色に茹で上がったな。」
「嫌味な言い方やめなさい。」
「すみませんね、どうも。」
「感じ悪いじょ!」
「力でオレに勝てるわけねぇっての。」
「んじゃあ色仕掛けは?」
「腕相撲でどんな仕掛けするんだ!?」
「そうだなぁ・・あっそうだ、胸の谷間を見せるとか!」
「オマエに谷なんて存在するのか?」
「ちょっ!?セクハラっ!!」
「や、すまん。」
「寄せればちょびっとくらい・・」
「対抗するな。」
「ツマンナイ。じゃあ次は・・指相撲にしてみようか。」
「オマエね・・無謀だとか少しくらいは思わないのか?」
「指だったら力要らないじゃん。」
「ほー・・そうかね。」

なっちとの手の大きさの違いからして無理があった。指の長さがまるで足りない。
大人気ないなっちに連勝されてがっかりして中止。でもいいんだ・・手を握れたし。
要は堂々と触れる状況を考えてるんだ。じゃないと嫌がる人が相手なもんだから。
ストレートに言ってもきいてくれないこともないけど・・こっちの方が効果的なのだ。

「えっとねぇ・・次はあ・・」
「そんなにオレに触りたいのか?」
「およっ!バレちゃった!?」
「ほのかさん欲求不満ですか。」
「バレちゃしょうがない。そうなの。」

あっさりと認めてほのかが笑うとなっちは口の端だけのいや〜な笑い方をした。

「だってなっちってば膝に乗るのもダメ、背中に乗っかるのもダメってダメ出しばっか!」
「オマエさっきセクハラだと怒っただろ?オレだってそういうことされたら困るんだ。」
「厳しすぎだよ!前はしてたのにさ、これじゃあ欲求不満にもなるよ。」
「オレの気持ちも汲んでくれ。」
「なっちもガマンしなきゃいいじゃん。触ったら?」
「・・どこを?」
「どこって、どこでもいいよ。」
「へー・・なら胸でも尻でも?」
「それじゃあチカンじゃないか!」
「・・そうだな。」
「ほんとにそんなとこ触りたいの?!」
「訊いてみただけだ。」
「なっち・・ほのかがダメって言ったら他の子を触ったりする?」
「それはない。オマエ以外興味ねぇ。」
「うぐ・・たまにさらっとスゴイこと言うね・・ちみは・・」
「そうか?」

なっちはよくほのかのことを天然だとか言うけど負けてないと思うのだ。
素でほのかのことすごーく特別だと感じさせてくれる。びびっちゃうくらいだよ。

「ほのかって思ってたより”触り魔”なのかな?」
「昔からよく腕にしがみついたり・・齧ったりしてたよな。」
「そのときはなんとも思わなかったの?どうして変わったのかなぁ。」
「なんともってことは・・むずかゆいというかくすぐったいというか・・」
「なっちってさ、ウソ吐くと無表情になるよね、もしやそうだったの?」
「・・・・さぁな。」
「ホラホラ、そんな顔だよ。ほのか気付いちゃったんだから。」

自慢げに言ったのがいけなかったのかなっちに頬を引っ張られた。これはなっちのクセ。
悔しいときにするみたい。頭を撫でたり、ぐしゃぐしゃにしたりもわりとする。
そうすると結構なっちからも触ってくれているんだ。でもなんか物足りないんだよね・・

「ほのかどうも深刻に欲求不満っぽい。なっち、チューして!」
「どこに。」
「んとね、お口・・」

ほのかが言い終わらないうちにちゅっと音がした。早い!あっという間じゃないか。

「ちょっと!そういう気持ちのこもってないのはどうなの!?」
「こもってなくないぜ?ヒドイな、オマエ。」
「え〜・・だって・・短くない?」
「長いのも文句言うくせして・・」
「今日は言わないであげるよ。ねっ」

眉間に少し皺を寄せて(これはちょっと困ってる顔)決意したような真面目な顔に戻る。
してくれるとわかって期待を込めて目を閉じる。わくわくどきどきの瞬間がたまらない。
頭がぼうっとなるよね。くらくらってしちゃうし。だけど気持ちいいの・・なんでだろ。

「・・・はぁ・・・」

離れるときつい零れちゃう息が熱くなってて恥ずかしい。でもって少し寂しい・・
なっちだって熱っぽい顔してるの。吸い込まれそうな、体が溶けちゃいそうな熱い瞳。

「・・あっちぃね?」
「だな。」
「あ、またその顔・・何ウソ吐いてるのさ?」
「ウソなんか吐いてねぇ。」
「ほのかチャンは騙せないんだよ。言ってごらん!」
「言っていいのか?触りたいとか・・思ってる。」
「どこを?」
「どこでも・・全部。」
「さわ・・ってみる?」
「やめとく。」
「ちぇ・・いっつもやめちゃうね。」
「スマン。」
「いいよ、待ってるから。」
「・・・オマエにはバレバレだなぁ・・」
「スゴイでしょ。尊敬して!」
「すげえ。オマエが最高。」
「ほのかちゃんじゃないとダメ?」
「そう。」
「ほのかもだよ。」
「調子乗っていいか?」
「乗っておきなさい。ゆるす。」
「ぷぷ・・・ほのか、愛してる。」
「・・ありがとう・・」
「オマエはオレの欲しいもの全部持ってる。憧れないわけにいかない。」
「そうだねぇ・・なっちはまずとんでもなく”こわがり”さんだしねぇ・・」
「そうなんだよな。キス一つするくらいでこんなじゃ・・かっこ悪い。」
「そのかっこ悪いなっちが大好きなんだから、気にしないの!」
「ありがとな、ほのか。」

素直なお礼はくすぐったい。素直じゃないなっちに慣れちゃってるから?
どっちだって好きだけど。なっちは全身でほのかが大事って思ってくれてる。
それがわかるから余計に愛しくなるの。護っていたい、宝物みたいにね。

「ほのかさ、なっちとくっついてたいわけがわかったよ。」
「?」
「ほっとするから。繋がってるって思うの。けど触ってなくてもわかるんだね。」
「どんなときだ?」
「なっちに愛されてるなぁって思うとき。触ってても触ってなくてもおんなじ。」
「繋がる幸せか・・」
「おや、なんかかっこいい言い方。そう、そんな感じ。」
「オレもオマエに愛されてるって感じるとそれだけでもう充分って気はするな。」
「それであんまり触ってくれないの?」
「・・違うな、オマエに嫌われたくないからだ。」
「またぁ!嫌わないって言ってるでしょ!」
「そうは言ってもな・・絶対引くぞ!オレが本気でオマエを・・どうこうするとなったら。」
「いやらしいの?そんなに?!」
「オレが女なら完全に引くな。怖くて嫌われるなんて可愛いもんじゃねぇかも。」
「いったいどんなことがしたいの・・?ほのかちょっと面白そうって思っちゃった。」
「はは・・さすがだ。怖れを知らないというか・・」
「繋がりたいのはほのかもだよ。むしろ嬉しいことじゃない?」
「ストレート過ぎだろ・・そりゃあ嬉しいだろうな。」
「なっちが怖がって逃げちゃうことが一番ほのかの怖いことだよ。」
「!?」
「ほのかを安心させてよ。それがほのかの”触りたい”理由。」
「・・・・」
「なっち?聞いてる!?」
「・・・・聞いてる。」
「怖いのは悪くないよ?怖がって逃げるのがダメなんだからね!わかったら返事!」
「はい。・・ほのかさんは・・ほんとにスゴイ。」
「いくらでも敬いたまえ。」
「オマエから逃げないと誓う。・・・オマエにも誓って欲しい。」
「わかった。指出して、指きりしよう。」

素直に差し出された手の小指にほのかのを絡ませた。

「ほのかはなっちを離しません。逃げません。誓います。」
「オレも・・谷本夏はほのかから逃げません。誓います。」

かちりと視線が絡み合った。そのときお互いに真面目な顔がゆるんで微笑みが浮かんだ。
なっちの胸に再び飛び込んで抱き寄せる。なっちもいつもよりキツク抱きしめてくれた。

「なっちぃ、誓いのキスは?」
「今お願いしようかと思ってた。」
「おお!なっちがしたいと思ってくれるの珍しいね。」
「常にしたいんですが、ほのかさんはニブイですね。」
「あ、やっぱり!?だって顔にかいてあるもんね!?」
「オマエには隠したって無駄だもんな。もう隠してないんだが。」
「そうか、素でそんな顔してたのか!可愛い!可愛いよ、なっちぃ!」
「可愛い言うな!そんな可愛い顔して。」

「なにおー!」と言った拍子にキスされてふくれ面になったけどその顔を両手で包まれてしまった。
その次のキスは今までのと違っていて、深くて長くて熱かった。息も燃えちゃうんじゃないかと・・
やっと息が少し自由になって長く吐き出したら、また繋がって。何度したのかわからなくなった。
気がついたらなっちにしがみつくようにして掴っていた。しっかり繋ぎとめられた体は動かない。

「こ・・んなの・・がしたかった・・の?」
「そうじゃない。欲しいのはいつもほのか、オマエ自身だよ。」
「・・・?」
「全部・・全部欲しい。その強さも、想いもすべてをだ。」
「・・・ガマン・・してた・?」
「もったいなくて・・変わらないで欲しくて・・だから抑えてた。」
「・・ホントにこわがりさん・・だね。」

なっちはほのかの胸元に熱いキスを落とすと体を開放してくれた。赤くなったそこはジンジンした。
それはいつか全部繋がる日の約束の印なのだそうだ。ほのかの気持ちがこのまま変わらなければと言った。
怖がりのなっちにほのかは言ってあげた。気持ちならもう繋がってるから変わることはないよって。
そうしたら綺麗な瞳は輝いて、一粒の宝石を零した。もう一生分の幸せをもらったようだと聞こえた。
大げさだね、ほのかがそう言って笑うと、ちっともわかってないと怒り顔。なっちは悔しそうに

「一生懸けてわからせてやる。どれだけオレが幸せかってことを。」

なんてまたものすごい台詞を言うのだもの。困ったほのかは「約束だよっ!」と叫ぶしかできなかった。







愛しい女の子が「待っててあげる」だなんて夏さんてものすごい果報者ですよ!