月明かり 


暗い夜に溶けてしまいたい
一人闇に抱かれ姿を隠して
辟易した日常から離れたい
誰にも見えなくていい
孤独がオレを癒してくれる

月が顔を見せると心波打つ
おまえは闇を照らす月に似ている
雲の中からでもオレを見ている
オレの姿を浮き彫りにする
見えなくていいのだ姿形など
ただ闇に溶けてしまえたとしても
おまえはそこからオレを探すのだろうか


オレの前には暗く果てしない路があった
誰にも邪魔されずそこへ辿り着きたかった
明かりのない夜がオレに相応しい
光りは全て置いてきた 大事な者とともに
夜空に浮かんで届かない月の光り
そこに愛した者は行ったのかもしれない
もうオレはそこへは行けない たとえ死んでも
自由になって欲しかった せめて
苦しみを忘れて光りの中で安らかに
もう護ってやることはできないのだから


夜の闇に潜んでいたい
誰にも知られたくない
何もかも忘れて強くなるために
苦しみから逃れて一人きりで
だから照らさなくていいんだ
耀きは眩しすぎて身を焦がすから


もしおまえが生きていたら
オレは一緒に行っただろうか
いつか離れてしまうのならば
もう二度と誰も愛さない
愛はおまえだけに置いて行く
いつまでも忘れないから許してくれ
強さ以外に何も求めたりしないから


だのに月の光りが背中から凍みてくる
頼むからオレを呼ばないで欲しい


眠っていた少女の頬に伝った一滴を拭った
震えた睫と唇は確かに何かを告げていた
少女の顔はいつもより大人びて見えた


「何泣いてんだ、夢見たのか?」
「!!・・・なっつん・・」
目が覚めてもその不安な表情は消えなかった
切なさを隠さないそんな顔を知らなかった
「・・うん・・夢見てた・・」
「顔色良くないな。気分悪いか?」
「大丈夫・・喉・・カラカラだけど。」
「冷たい方がいいか?それとも熱いのか?」
「ありがと、なっつん。・・熱い方がいいな。」
「じゃあ少し待ってろ。」
「うん・・」
普段の顔に戻したくてまたオレはそいつを構ってしまう
それでもそうせずに居られないほどオレ自身が辛くて
何にも知らずに笑っていてくれるほうがマシだと思う


「ホラ、飲め。」と差し出したお茶を受け取ると素直に口にする
顔にいくらかの赤みが戻り少し痛みが和らぐ
「おいしい。なっつん、ありがとう!」
「落ち着いたみたいだな。」
「え、そんなにほのか、変だった?」
「青い顔して泣いてるからどうしたかと思った。」
「ごめんね。何か時々怖い夢見るんだ・・」
「現実が幸せだからだ、心配するな。」
「そうなの!?」
「現状が物足りないと感じると悪夢を見るそうだ。」
「なっつんなんでそんなこと知ってるの?」
「別に。本にそう書いてあっただけだ。」
「ふ〜ん・・・でもそれ当ってるのかも。」
「おまえみたいに気楽に生きてて何が不満だ。」
「人を能天気みたいに!なっつんはコワイ夢とか見ないの?」
「見ない。」
「え!?断言?コワイ夢みたことないとか!?」
「・・・・昔はあったが今はないな。」
「ふ〜ん・・それはヨカッタ・・んだよね?」
「まぁ夢は夢だ、気にするな。」
「うん。お茶おいしいから元気出たじょ!」
「単純なヤツ。」

青い顔に胸を痛め 気遣う自分が滑稽で
遣る瀬無い 何もかも放り出してしまいたい
知らない場処へと消えてしまえれば楽なのに
どうしてオレはここに居るんだ?


遠い昔に望んだ平和な未来
易々と手にしている輩たち
憎んでも憎んでもどうすることもできない
この手で叶えてやりたかった者はもういない
目の前にいるおまえは誰だ
どうしてオマエはここに居る?


いつもより少し大人しいソイツを家へと送る
何故だか無理してるように明るい振る舞い
ふと気付くと横顔に翳りを浮かべた

「どうした?やっぱり今日は変だな。」
「えっ・・・あ〜・・ごめんごめん!なんでもないよっ。」
「おまえが大人しいと調子狂うじゃねーか。」
「あはは、いつだってウルサイって言うくせに。」
「事実うるせーだろうが。」
「なんだとー!?」


時折無邪気そうな顔の下から覗かせる
何もかも見透かしたような強い瞳
雲間から覗いた月の光りのように
射るように真直ぐに突き刺さる
それでいて不安に揺れる瞳の先には
幼いなかにも微かな女の匂いがする


「ね、強くなりたい?」
「まぁな。なんでそんなこと訊くんだ。」
「強くなってもならなくてもなっつんはなっつんだからね。」
「何言ってんだよ・・?」
「ん・・っと・・何だろね?」
「変なヤツだな。熱でもあるんじゃねーか?」
「変かなぁ?!」
笑おうと努めながらオレに問いかける
まるで何処へも行くなと縋るようで
居た堪れなくなり視線を反らす


送って行った帰り路、空には月が出ていた
その明かりにアイツの不安気な顔が過ぎる
そんな眼でオレを見るな
雲に隠れてどこかへ消えてくれ
隠れてもそこにいるのは知っている
だから照らさなくていいんだ 
そう願うオレを月明かりが包む
目を伏せて俯いたまま歩き出す
月がどこまでもついてくるのを感じると
眼を閉じてこのまま消えてなくなりたいと思った







「月下美人」の夏サイドみたいな感じです。
どうしたものかと思うんですが次回は更に暗いです。
なんだか自分で書いてて辛くなってきた〜;
取りあえず今は結果を見ずに突っ走ってみます。