「掴まえて」 


夕暮れの校庭が好きで部活後とかにたまにぼんやりする。
今日はいつもと違って兄の通う学校だから新鮮だった。
少し広くて、配置も違うけどやっぱり学校だから似通っている。
待っている間の時間つぶしにその校庭をぶらぶらと見て回る。
テスト前で部活のないそこはガランと広く感じられた。
鉄棒の前にやって来るとその人の姿が校舎の方に小さく見えた。
お迎えに来たら用があるので少し待っているように言われた。
その人が校庭に居るはずの私を探しているようだ。

「なっつ〜ん!ここだよぅー!」

私は目の前の鉄棒にぽんと飛びつくとその人を呼んだ。
すぐに待ち合わせの人が気付いてくれて嬉しくて手を振る。
私の方に向かってやってくるのをずっと鉄棒の上で待っていた。

「何やってんだ、帰るぞ。」
「ウン、待ってたじょ〜!」

別段待ちくたびれてもいなかったのだけどそう言うと、

「・・待たせたな。」とぶっきらぼうな返事があった。
その人なりに謝っているのだ。私は気をよくした。
なので勢いを付けて前回りをしてみたりした。
わりと得意だったが最近してなかったので少し自信がなかった。
でもすんなりと成功して益々気分は良くなった。

「大成功!」
「阿呆っ!」
「なぬ!?ここは拍手来るとこじゃないの!?」
「そういうことじゃ・・」

ちょびっと悔しかったので次は逆上がりもやってのけた。
連続だって昔はしたものだけど今回は一回だけ。
それでも綺麗に出来たぞと内心得意になってその人を見た。

「いい加減にしろよ、オマエ・・スカートだろ!?」
「へ?」

見ると待ち合わせ相手の相棒は顔を紅くして困った顔をしていた。
よくわからずに鉄棒から飛び降りると、着地と同時に気が付いた。

「あ、もしかして・・見えたから?!」

スカートの中が見えたのだと気付いてそう言うと頭にゲンコツ。
痛いというほどでもないけど、ちょっとだけ顔を顰めた。
怒ってるのかなとそのゲンコツした人の顔を窺ってみると・・
なんだか怒ってるのと困ってるのの間?みたいな複雑な顔。
少し頬が紅い気がしたので迫力には欠けてて、寧ろ可愛い。

「オマエ、スカートだってことも今気付いたんだろ?!」
「ぬおっ!?なっつんてほのかの心が読めるのかい?」
「これからは何処でもスカートで鉄棒禁止。」
「何処でも?厳しいのぅ・・なっつんしか見てないじゃんかぁ。」
「ダメだ、誰の前であろうとな。」
「・・女の子しか居なかった場合はいい?」
「他に何処からか見てる奴が居るかもしれんからダメだ。」
「そ、そこまで心配するとは・・!」
「わかったのか!?言うこと聞かないと・・」
「聞かないとどうなるの?」
「・・・ウチへの出入り禁止。」
「そんな!?ホントに厳しいなぁ。なんでそこまで・・」
「オマエは危機感ゼロだからそんくらい警戒してていいんだ。」
「危機感って・・普段パンツ見せて回ってるわけじゃないし・・」
「とにかくオレがダメっていったらダメなんだよ!」
「おっ亭主関白だー!」
「なっ!?何言ってんだよっ・・」
「間違った?そういうんじゃないの?」
「ぉ、オレたちは夫婦でもなんでもねぇし・・」
「そうだけど・・じゃなんでなっつんはそんな命令すんの?」
「それは・・い、一般常識・・だ。」
「むー・・そうかな?それより逆上がり褒めて欲しかったんだけどな。」
「・・・そんなもん誰でもできるだろ?」
「降りずに一回転はできない子結構居るよ。連続前回りも出来るよ、ほのかv」
「・・スゴイのか?それ。」
「むわ〜・・ちょっと運動得意だからってさぁ。」
「ふん、そういや出来ない奴も結構居たっけな。」
「お兄ちゃんだって今は出来るよ!名誉のために言っとくけど。」
「つまり初め出来なかったってことか。アイツやっぱダメだな。」
「なにをー!?努力して出来るようになったんだからエライじゃないか!」
「ハイハイ、エライなー、オマエのお兄さんは。」
「馬鹿にしたなぁ・・なっつんと言えども許さないじょ〜!」
「どうするつもりだよ?」
「今から連続前回りしてやるー!」
「ちょ、出入り禁止になりたいのか!?」
「そんなのきかないもん。いくじょ〜!」
「わぁっヤメロ、莫迦!オマエは兄好き過ぎだ。んなことくらいで・・」

なっつんは大慌てで私の腕を掴んだけど、すぐに離した。
なんでかな?と思っていたら、腰を持たれてそのまま宙に浮いた。

「わぁっ!スゴイ、高ーい!!」

鉄棒を飛び越してなっつんの肩に乗せられた格好だ。
乱暴だけど、ちょびっと面白くて笑ってしまった。

「笑ってんじゃねぇ!帰るぞ。」
「え?このまま?!楽チンだけどさ。」
「なわけあるか。」

残念なことにすぐに地面に下ろされてしまった。
とはいえ並んで歩くのも好きだから良しとした。

「あのさぁ、なっつん・・」
「なんだよ!?」
「もしや怒ってる?」
「・・・どうしたらオマエが言うこときくのか悩んでる。」
「あは、そうかぁ・・じゃあね、言うコトきくからお願い。」
「何だよ、お願いって?」
「ほのか鉄棒の上に乗っかって飛び降りるから、受け止めて。」
「ハア!?何だそれは!」
「ホラ体操選手みたいにさ?一度やってみたかったんだ。」
「・・まぁそんくらいなら・・」
「やたっ!」

なっつんに両手で支えてもらって鉄棒の上に立ち上がった。
背の低いほのかがなっつんを見下ろしているのが気持ち良い。

「わーv高くて気持ちいい〜!」
「はしゃぐな、落ちる。どうするんだ、手離して大丈夫か?」
「ウン、すぐに飛ぶから。いっくよ〜!」

なっつんは私の手を勢いを付けて離してくれた。
その援けを借りて思い切り上へとジャンプした。

「やっ!」
「・・と。」

遠慮なく思い切り踏み切ったら意外に高く飛べて嬉しかった。
一瞬鳥になったみたいですごく良い気分だ。
それになっつんがちゃんと受け止めてくれて、嬉しさにしがみついた。

「わー・・気持ちよかったーっ!なっつん、ありがとう!!」
「・・・スカートだっての・・」
「あり、また見えちゃった?!」

なっつんは嘆息混じりに抱いてくれていた身体を降ろした。

「ごめんよ、今ので最後ってことで勘弁して?」
「・・しょうがねぇな・・しかしオマエって・・」
「何?重かった?!なっつんなら大丈夫かと思ったんだけど。」
「軽いな。鳥みてぇ・・ピーピー煩いしな。」
「ぴーぴー!なっつんなら掴まえていいよ?」
「フン・・じゃあ掴んどくか、ホラ帰るぞ。」

なっつんが私に手を差し出してくれて、思わず微笑んだ。

「ウンっ!!」

ちょっと恥ずかしそうに顔を背けるけどしっかりと手を握ってくれてる。
なっつんの広い胸に飛び込むのも、手を繋ぐのもとても嬉しい。

「へへ・・なっつんに掴まるのってイイ感じ。」
「・・フン・・」

二人の紅く染まった頬は夕焼けに照らされてるだけじゃない。
夕陽に染まる校庭はとても綺麗で、なんだか二人締めしてるみたい。
繋いだ手と手の温もりに足取りは心と同じように軽くなる。
こんなに軽いとすぐに家にたどり着いてしまうんじゃないかな。
だから帰り道はわざとゆっくり歩こうと思った。








ほのぼのを目指してたら、いつのまにか甘いことに・・夏ほのマジック!?
いつも何をしてもほのかを許してくれる夏くんが男前だとオモイマス。