「続く途」 


気付かなければよかったなんて思っても意味はない。
それが遅かれ早かれ、なるようにしかならないのだ。

”・・ほのかちゃんて可愛いよなぁ!?”

知ってる。けど言ってるのは表面だけのことだろ?
知らなくていい。それ以外はオレだけが知っていれば。
オレの知ってるほのかは、皆の見ているほのかじゃない。
皆が知っているオレが、ほんとうのオレじゃないように。


「よう谷本。彼女元気か?!」
「・・・ああ。」
「おお・・この頃否定しないよなあ!」
「何か用か。」
「そうそう、これ。ほのかちゃんに渡してくれよ。」
「何だ?」
「前に見たがってた猫の写真。アレルギーで触れないんだってな。」
「そんな約束いつしたんだ?」
「いやちょっと相談に乗ってもらった礼というか・・」

大柄でサングラスに傷。一見強面だが実は人の良い柔道家、宇喜田。
普段ほのかと接触することはないが連合の一員ということで顔馴染みだ。
ずっと片思いしてきた同じ連合内のキサラと近頃良い感じになっている。
接する機会が少ないわりにほのかはこのキサラと宇喜田のことに気付き、
他人事にも関わらず、応援ムードだったことは知っている。だが・・・

「・・聞いてねぇな。」
「?あぁ、相談な。オマエまさか浮気だとでも疑ったのか?!」
「まさか。」
「はは・・言うなぁ!この間偶然外で会ったんだ。」
「外?」
「谷本の家に行く前だと言ってた。声掛けられて数分立ち話しただけだ。」
「・・・」
「女の子はどういうとこに行きたいんだとか、少し相談に乗ってもらってな。」
「あいつじゃ参考になるかどうかわからんぞ。」
「助かったぜ?オレはまったくわからんから。」
「へぇ・・」
「とにかくオレは次にいつ会えるかわからんから。返すのはいつでもいいぜ。」
「あぁ、わかった。」
「すまんな、じゃ頼んだぜ。」

人の好い笑顔をサングラスの下で閃かせて宇喜田は去って行った。
オレとほのかが付き合ってることは連合の奴らには知られている。
否定したところで付き合う以前から会長である新島に筒抜けだった。
態々知らせることはしていないが、今や暗黙の了解といったところだ。
実際にオレたちの付き合いが変化したのなんてつい最近のことだ。
くされ縁みたいにして長く一緒に居た間も色々と勘繰られていた。
今は・・そうだな・・二歩か三歩くらい・・進んだかもしれない。

家に帰るなり飼い犬の出迎えのような歓待を受けた。今日は機嫌がかなり良い。
中身は大差ないが、ほのかはもう一緒にいて妹に間違われることも少なくなった。
あまり変わらないで欲しいと思っていることは隠している。言ってもしょうがない。
しかしそのせいで心配事が増えた。ほのかはオレと違って社交的で親しい人間が多いので。

「わーっ!可愛い!!ウッキーってば嬉しいなあ!」
「意外に気を遣う奴だな。助かったと言ってたぞ。」
「意外は失礼だよ。ウッキーってイイ奴だよー?!」
「・・気安いな、オマエって誰にでも。」
「そお?ウッキーはキサラちゃん一筋で可愛いの。」
「ふーん・・・(オレは違うとでもいうのかよ?)」
「なっちの方がよく知ってるでしょ?」
「知らん。オマエの方がよく知ってる。」
「相変わらず友達付き合いが苦手なの?」
「オレはオマエとは違うんだ。」
「以前よりは皆とも仲良くなったみたいだけどなぁ・・」
「・・・・」

オレはまた不機嫌になってしまっていたのか、ほのかが顔を曇らせていた。
この分だとオレが愛想尽かされるのもそう遠くないんじゃないかと思う。
ほのかの前だと素でいられるのが裏目に出て、余裕の無さがバレバレだ。
我ながら情けない。歳の差なんてものは3つくらじゃたいしたもんじゃない。
ほのかはよくオレに追いつきたいと言ってたが、それは見た目のことだ。
見た目に差がなくなれば、ほのかの方が余程大人ではないかと思われる。
どこをとってもオレが捨てられる可能性ばかり浮かぶ。バカもいいとこだ。

「なっち、猫見る?」
「いや、いい。」
「可愛いよー?!」
「よかったな。」
「ほのかの方が可愛い?なんちゃって・・」
「当然だろ。」
「うひゃっ真顔!むずむずする〜!」
「フン・・」

照れてくすくす笑っているほのかを抱き寄せて少し乱暴に髪の中に手を入れた。
そのまま頭を近づけると驚いた顔はしたものの、眼の前でほのかは目を閉じた。


「・・なっちっていっつも突然だよね!」
「文句なのか、それ?」
「どきどきするじゃないか。」
「嫌がってなんかねぇくせに。」
「イヤだなんて言ってないよ〜!?」
「嫌がられたらすぐわかる。」
「・・確かめてたの?」
「それも・・ある。」
「なんで?ほのかってそんなに信用ない?」
「オマエじゃなくてオレが・・」
「すとっぷ!自分のこと悪く言わないの!」

すっかり把握されている。へこみつつもほのかを抱きなおして肩に頭を乗せる。
オレが時々する甘えるような格好にほのかはいつも優しく背や頭を撫でてくれる。
こんな小さな体にオレは支えられてる。心の弱さを曝け出してしまっているのだ。
強くなりたい。もっともっと・・この幸せに見合う分をオマエに返したいのに。

「なっちぃ・・ダイスキ・・」
「まだどきどきしてくれてるな。」
「そりゃ・・わかるよね、こんなにくっついてたら。」
「オマエが可愛すぎるのがイカンのだ。もっと太るとかしろよ。」
「はあっ!?ヤダよ、冗談じゃない。無茶言わないの。」
「オレだけがオマエのこと可愛いと思ってればいいじゃねぇか。」
「ウン、ほのかのことこんなに可愛いと思ってくれるのなっちだけだよ。」
「・・本当にそう思うか?」
「ウン!もうなっちがいつ正気になって現実が見えるかって気が気じゃない。」
「よく言うぜ。オマエこの頃はめちゃめちゃもてるだろ?」
「前からもててたもん!なっちほどじゃないけど・・。」
「見た目も可愛かったからな、昔から。」
「なっち・・この頃ホントにおかしいよ!」
「そうか?」
「なんというか・・ごめんよ、ほのかそんなにもててない。」
「ヘタな嘘吐かなくていい。」
「だって・・どうでもいいよ。なっちが好きでいてくれたら。」
「それは間違いないって言ってるだろ。信じろよ。」
「だったらなっちも信じてよ。ほのかのしつこさをなめてない?」
「しつこいのはオレだろ?オマエそう言ったことあるぞ。」
「ほのかも負けてないもん。お兄ちゃんと結婚できないと知っても中々諦めなかったし。」
「まさかまだそんなこと・・!?」
「いやさすがにそれは諦めたけどさ、今度は諦めないよ。なっちとは兄妹じゃないもん。」
「諦めるな。頼む。」
「そんなに・・ほのかが足りない?」
「・・そうかもしれん。」
「ヘンだもんね、この頃。どうしちゃったかなって思うよ。」
「そうだよな・・オレもいい加減いやになる。」
「だったらやめればいいよ。」
「気楽に言ってくれるぜ・・」
「やはりここは・・ほのかちゃんの出番かなぁ!?」
「何してくれるんだ?」
「何したら欲求不満解消できそう?!」
「別にオマエに不満があるわけじゃない。」
「もっとちゅーする?・・おっぱい触る?」
「いい。特に後のは遠慮しとく。」
「育ってきたよ?まだダメなの?!」
「大きさは関係ない。胸だけとか却ってキツイって。」
「そうかぁ・・全部はまだちょっと怖いしなぁ・・;」
「まだダメだ。もったいないから。」
「そんなに期待してさぁ・・たいしたことなくてがっかりしない・・?」
「絶対それはない。逆は大いにある。オマエが引くであろう自信なら。」
「なんだかなぁ・・そんなに困ってるの?浮気しないでよ?!」
「困ってないから心配するな。オマエのがよっぽど心配だぜ。」
「どこが!?ほのか周囲の同年代から今でも浮いてるよー?!」
「それは良い意味でだ。だから余計男の目を引くんだよな。はぁ・・」
「そうかなぁ・・?ほのかそんなのわかんないけど。」
「わかるな。わからんでいい。オレも含めて。」
「なっちも!?なっちそんなにヤラシイ目でほのかを見てたのか!」
「あぁ・・オレなぁ・・普通の男子が騒ぐ時期は興味まるでなくてな、そういうの。」
「はぁ、なるほど?それで今なの?」
「もやもやする。で、そんな自分にイライラする。」
「ヨシヨシ・・大丈夫、ほのかがそのうちご期待に応えてあげるからね。」
「・・・意味わかってるんだよな?」
「モチロン!・・詳しくはわかんないけど。」
「・・・ウンウン・・さすがはほのかだ。よし、大分元気出てきたぞ!」
「好かったね!」

実に恥ずかしいことだがまた励まされてしまった。オレは弱味ばかり増えていく。
どういうんだろうか、ほのかはオレを甘やかしたいと言っていたがその通りで。
こんなに甘やかされて・・腑抜けになっていってないだろうか・・・?
途はまだまだ続いてる。こんな入り口で足踏みしてどうするんだと自分を叱咤する。
オレは心のどこかでほのかが心代わりなぞしないと安心している。それが甘えだ。
女々しいことなんかやめるべきだ。ほのかが自分に向ける想いを確かめることなど。
オレがようやく立ち直ってきたことを察したのか、ほのかが猫の写真をオレに見せた。

「ほーら!どっちが可愛い?」
「・・・やっぱりそっちだろ。」
「え?どっち?こっちのこ?!」
「違う違う。そっちだって!」
「じゃあこっちのにゃんこ?」
「・・わかんねぇヤツだな!」

写真の納まった小さなフォトアルバムをほのかから取り上げて近くに投げた。
何するんだと抗議するほのかを再び掴まえて強く抱きしめると悲鳴が上がった。

「いたいいたい!ほのか猫じゃないし!」
「猫だなんて言ってないだろ!とぼけるなよ。」
「とぼけてないよ!さっきのは冗談だと思って・」
「ちゃんとオマエの方が可愛いと言っただろうが!」
「え〜・・・っ?!」
「わかんねぇヤツにはお仕置きだな。」
「・・それがしたかっただけなんじゃない?」
「・・・・・さぁな。」

上目遣いで責めるほのかをくすぐって笑い転がせた。フン、良い気味だぜ。
可愛すぎる恋人に苦労するのは多少は仕方無い。落ち込んだらまた浮上しよう。
笑いすぎた涙を拭いながら、宇喜田と仲良くしたからってヤキモチ妬くなと言った。
とうとうバレた。悔しいので腹いせと謝罪の入り混じった長いキスをした。







夏クンのちっとも可愛くない嫉妬話。^^;